用意された部屋は、1人で泊まるにはもったいない広さだった。
は半兵衛に頭を下げてお礼を言った。
「気にしなくていい。…それより、荷物がないね。」
「は、はい…」
「着物も汚れてる。洗ってもらって…すぐに湯に浸かるといい。」
「すいません…お世話になって…」
「いいんだよ」
は言われた通りに湯に向かい、宿屋の浴衣を借りた。
「……」
は複雑な心境だった。
知ってる人間に会えて嬉しい。
でも、なんでこんなところにいるんだい?と聞かれたら何と答えたらいいか判らない。
「半兵衛さん…」
きゅっと帯を占めた。
お金を出してもらっているんだ。
とにかく、不快な想いにはさせないようにしないと。
廊下を歩いて部屋に向かったが、すぐに半兵衛に会った。
近くで待っていてくれたようで、柱に寄り掛かってこっちを見ていた。
「うん、さっぱりしたね」
にこりと、優しい笑顔。
「はい」
も少し笑った。
「…話がしたいんだ。部屋に行ってもいいかな?」
「え、えぇ…」
は若干ためらってしまったが、半兵衛は気にした様子もない。
そうと決まれば、との部屋へと足を進める半兵衛の背を追った。
座布団に向かい合って座った。
は少し緊張していた。
「さんは一人旅が趣味なのかい?」
「!!」
そういうことにして…いいのかな…
「…はい。あの…慶次…に影響受けて…」
半兵衛に対してぎこちないのは、慶次の名を出さねばならないから…そう感じてもらえるようにしてみた。
「あぁ、そうなんだ」
半兵衛の表情は変わらない。
「大変じゃあないのかい?」
「大変です…けど、いつもは小太郎ちゃんがいるんですが…資金が底をついて…今…政宗さんにお金貸して〜!!って頼みに行ってもらってるんです」
だらだらと嘘が出た。
「あぁ…風魔小太郎…」
噛み締めるように、半兵衛が名を口にした。
「政宗君は、変わりないかな?」
「はい、いつも通りだと…」
政宗の顔が思い浮かぶ。
「……」
義姫のことは、忘れていない。
「…………」
が口を結んだ。
「…ねぇ、さん?」
半兵衛が立上がり、の隣りに移動した。
「さんが旅している間に、僕はちょっと政宗君に会ってね…」
の手に触れた。
ゆっくりと上へなぞっていった。
「政宗君は、僕が嫌いなようで…」
が俯いた。
肩に触れたところで、半兵衛はを自分の方に向かせた。
「僕にいじわるするんだよ」
今度は頬に手を当て、上を向かせた。
「傷付いてしまってね…さん…何でもいい…政宗君の情報、教えてくれないか?君しか知らないような情報…」
の瞳を見つめた半兵衛は、少し驚いてしまった。
の目は今にも涙がこぼれそうだった。
「政宗さんは悪くないの…!!」
「さん?」
が半兵衛の袖を思い切り掴んだ。
手が震えている。
「政宗さんは、な、なにも…わるくない…!!」
「落ち着いて。全部政宗君が悪いとは言ってないよ…?」
の目は真直ぐ半兵衛を写しているのに、半兵衛にはが何を見ているのか判らなかった。
「半兵衛さん…私…一人…やだ…今はやだ…この部屋、広くて…寂しくて…」
「判った、大丈夫、そばにいるよ」
半兵衛はの頭を優しく撫でた。
「はんべえさん…わたし…」
は自分がもう何を言っているのかよく判っていなかった。
だけど、止められなかった。
「やだ…いやだ…こわい…!!」
「さん?」
「進むのが怖い…未来が怖い…!!やだ…やだよ…!!」
「さん…?」
ボロボロと涙をこぼすを抱き締め、半兵衛は背をぽんぽんと叩いた。
それでもの震えは止まらなかった。
「…やだよぉ…」
政宗が嫌われているのが嫌だ
義姫が政宗に抱く想いが嫌だ
義姫が毒殺を計るのが嫌だ
政宗が苦しむのが嫌だ
小次郎が死ぬのが嫌だ
政宗が弟に刃を向けるなんて、嫌だ
私は、我儘だ。
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半兵衛の前で爆発しますた