ぴちょん、と水の滴る音が聞こえ、は目を覚ました。

「…」

まだ頭がぼーっとするが、それでよかった。

目の前には鉄格子があった。

閉じ込められていた。

見張りらしき人間が丁度前を通った。

頭がはっきりしていたら、ここどこ!?出して!!と混乱して騒いでいただろう。

向かいにも檻があり、誰かが入っている。

目をつけられぬよう、大人しくしていよう。

小太郎ちゃんが見つけてくれるまで。

見つけてくれなくても…
「…半月、耐えれば…」

結局、氏政がなにをすれば道が閉じるのかは教えてくれなかった。

けど…もう一度…もう一度行かせてって…懇願すれば…


「この娘、起きているではないか。」

牢獄の中に、凛とした声が響いた。


「……」

はゆっくり視線を上にあげた。

綺麗な着物、長い黒髪でこの場に似つかわしくない女性。

口には薄く紅がひかれ

目は…

「…あ…」

鋭い視線が自分を居抜く。

自分はこれに似たものを知っている。

「あなたは…」
「お前が、政宗の回りをうろうろしている娘か。」

間違ない。

この人は、政宗さんのお母さんだ。
義姫様だ。

「…私を…知っているのですか…」
「突然私の元に現れ…何をする気だったのか…?…いや」

…政宗さんの目と似てる…はずなのに…

「何をしてこいと、言われたのでしょうね…」

怖い。

「お前は…政宗の何なのか…」

敵意を向けられてる訳じゃない。
怒りを向けられてる訳じゃない。

なのに、怖い。


「答えられるか?」


ゆっくりと人差し指をに向ける。

圧迫感は嫌と言うほど感じるのに、脅されているとは感じられない。

私が…何をしても自分は動じない、と、その余裕なのかもしれない。


「私がここにきて…何ができるでしょうか…」

変装も嘘も通じない。
こんなことは初めてじゃない。

「よく判っているようだ。」

義姫が笑う。

ゾッとするほど美しい。

「また来よう。」

それだけ言って去って行った。



「………」

義姫がいなくなると、は全身の力が緩んで、地面に顔を伏せた。

「…あ」

はそこでやっと、自分の体は俯せになったままだということに気がついた。









まだ一日が終わらない。

はゴザの上で布団を被って座っていた。

「…寒い」

政宗たちと居た時はあんなに早く過ぎた一日が遅い。

の前の牢にいる人間は寝ている。

体も大きくて見た目も怖いので話しかけられずにいた。

「……」

前向きに、考えなきゃ…

今私が持っているのは…政宗さんにもらった刀と地図…と

元親にもらったカラクリは置いて来たし…

そういえばお金少しくれたんだっけ…

ゴソゴソと懐を探ってみる。
どれも、来たときのまま、ここにある。
持ち物検査をされたわけでもなくここに入れられた様だ。

でもこれらを使ったところで脱出などできない。

見張りを買収…などできる金額でもない。

騒いだほうがチャンスはあるのだろうか。

しかし…あの義姫の姿を思い出すと、それは不正解に思える。

仕掛けられたのは耐久戦だろうか。

「そういえば…」

私の存在を、義姫が知っていたのは驚いたな…。
政宗さんからお母さんの話は聞いていないし、連絡を取っている様子もなかった。

確か…義姫は女性でありながら戦に出ていたのだっけ。
やはり気になるのだろうか。
政宗さんの考えや、周囲のことも。
情報は集められていたのかもしれない。




ザッザッと足音が聞こえた。

飯の時間だと言う声。

蝋燭の明りしか周囲を照らすものも無く、これが夕餉なのか朝餉なのかも判らなかった。
こんなところにいて、気が狂ったりしないのだろうか。


自分の牢の扉が開いて、男が入ってきた。

「置いておくぞ。」

はこくりと頷いた。

映画なら、この時にチャンスだと、看守を倒して逃げるのだろうかなどと考える。

刀はあるが、そんなこと出来る気がしない。
力では敵わない。
すぐに立場は逆転されてしまう。


「ちゃんと食えよ」
「はい…」
食べなさそうに見えただろうか。

「まぁ、あんたなら明日にでも売り手が見つかるだろうが」
「……?」

売り手…?

「相手によっちゃ飯が食えるとも食わされるとも判らんからな。」
何を言っているんだろう…?

「丁度いい量、今は食っとけ。」

それだけ言って、看守は行ってしまった。


「……」
ご飯に漬物、味噌汁。
凝視してしまう。

意味を考えてしまう。

「…はは…」


相手が、痩せた子が好きなら食べさせてくれなくなるかもしれないのか。

相手が、ふくよかな子が好きなら無理矢理食べさせられるのか。

「…まるで、家畜だな…」

私は、売られるのか。




















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義姫さま登場です。
…は、背景探す時間がとれなかった…!!