結局いつものように政宗の自室に引きずり込まれた。
政宗の隣で書の受け渡しをしたり、必要な資料をかき集めに走り回ったりしていた。

「…」
「おい…
「ん?」
「何だよ、にやにやにやにや、昨日から。」
「笑ってる?」
「おう」

は頬に手を当て、にやけた顔を整えようとした。

「止めろとは言ってねえだろ。理由を聞いてる。」
「なんか、戻ったなー、と思って。」
「……」

政宗は口を尖らせた。

「何が戻っただ…」
「あ、あー…すいません。勝手に…自分の中でね、これが日常な感じになっててねー」
「…日常、なら」

政宗がの腕をがしっと掴んだ。
は、うわ!っと声を出したが、政宗は構わずそのままでいた。

「こっちに居ろよ…ここに、居ろ」
「…え」

の言葉をきっかけに言った形になってしまったが、最初から言おうとしていた。

の目が驚きに見開かれていて、正直政宗はいつもより脈が上がっていた。
嫌だと言って欲しくない…
けれど表情は至って冷静にしての返事を待っていると、がぱちぱちと瞬きをし始めた。

「…あ、ああ、日常ってね、全部含めて、日常」
「は?」
「こっちとあっちを行ったり来たりも含めて」
「……」
らしいおかしな発言だ…

「その中で、ここにいることが日常に感じて貰ってるとは嬉しい事ですな。いろいろあっただろうに。」
「小十郎さん」
「…そりゃ、は比較的ウチに長時間居たからだろ…」

小十郎が茶菓子を持って現れた。
も政宗も、小十郎に視線を向けた。

「けれど、合わない環境でしたらそう思ってはくれませんでしょう?」
「おい、、お前今まで合わない環境って有ったか?」
「…申し訳ないですが、いつき親衛隊は怖かったです。」
「そことウチを比較するな」
「謙信様のとこはなんだか高貴な感じがして…」

あー、あわなそうだなお前にはー、と政宗がいうと、は言い返す言葉が思いつきません…と項垂れた。
小十郎はそんな二人を微笑みながら見つめた。

はすっかり伊達軍の一員になってると思うぞ」
「小十郎さん…」
「………」
あれ小十郎…お前はすっかりいいとこ取りだな…?

小十郎もちゃっかり座って茶を飲みだした。

と自分を二人きりにはしてくれねえのか…?

「おい、小十郎…」
今日は畑はいいのか?と聞こうとしたが
「はい」
小十郎はにこにこ笑っていた。

「………」
「俺も手伝いましょう、政宗様。」
「そうだよー、私より小十郎さんのほうができるじゃんー」
、これを、成実さまに届けてくれ。」
「届ければいいのね?はーい」

すたたたたとは走って行ってしまった。
小十郎は、転ばないようにな!!と叫んだ。

「…小十郎」
「はい」
「…俺との事邪魔してる?」
「何をおっしゃいますか」
「…だって…二人きりにしてくれないし…」
「はははは…お察しくださいよ、政宗様」
「………………oh…」

小十郎の手に力が入っている。
…そうか、小十郎…
…お前…
本当に寂しかったんだな…

「sorry…小十郎…」
「戻ってくると信じてましたので平気です…」

改めて、二人が戻ってきた喜びを感じているようだ。









成実の部屋の障子が開いていたので、はそのまま中を覗いた。
「成実さーん」
「あ、ちゃん!!何?」
「これ、小十郎さんに届けてって言われて。」
「お、はいはい、ありがとねー」

成実はの手から書類を受け取ると、じっとを見つめた。

「なんでしょう?」
「やっぱちゃんがいるといいなあと思って。」
「あはは、ありがとうございます!!」
成実に笑顔を向けられ、もにこっと笑った。
「けど、元気だねぇ、ちゃん。今日は沈むかと思ったのに」
「…なんで?」
「いや?川中島で戦始まるからさ。幸村さんーがんばってー、ってなるかと思った。」
「川中島…」

武田と上杉かあ…
決着つかず、なんじゃないのかな…?
でも、その確証はない。

「も、もしかして殿から聞いてなかった?やば、俺、言っちゃっ…」
成実が手で口を隠しておろおろしだした。
可愛くてはぷっと吹いてしまった。

「戦があるんだろうな、ってのは幸村さんの様子で判ってたの。それに隠す必要ないですよ、成実さん」
「そ、そっか?あのー、戦のこと考えて、殿の前で上の空とか止めて?俺、余計な事しやがって!!って怒られる…」
「大丈夫です!!」
「よかったー、安心した…。全く殿は…なら小太郎の事も言ってないんだろうね…」
「え」
「あ」

成実がまた手で口を覆った。
は成実の肩に手を乗せ、顔を近づけた。

「…小太郎ちゃんがなんですか?」
「あ、いやー、あの、いいのかな…?」
「いいですよ」

の目が笑ってなかった。










「戻りましたー…あれ、政宗さんは?」

が政宗の自室に戻ると、小十郎しか居なかった。

「厠だ」
「あ、そうなんですかー。あの、小十郎さん」
「なんだ?」

は小十郎に近づき、すぐ横に正座をして座った。
口を尖らせながら、小十郎の顔を覗き見た。

「小太郎ちゃんのこと、何で教えてくれなかったんですか?」
「ああ、成実さまに聞いたのか?」
「はい。川中島の戦、小太郎ちゃんにも見に行かせるそうで。」

小太郎ちゃんも黒脛巾の隊に入れ、向かわせるらしい。
別に隠さなくてもいいだろう、と思う。
私が反対するとでも思ったのだろうか?

「まあ、探しはちゃんとさせるから安心してくれ。そっちが小太郎の仕事だもんな。」
「はあ、それは、ありがたいですが。」
小十郎がクスリと笑った。

「?」
は、こいつら使えるものは何でも使うんだなあ…とか思わないんだな」
「は?」
「私の小太郎まで使うな!!とか、無いんだな」
「無いですって…。小太郎ちゃんがやるって言うなら私は何も…それに、同盟って、なんかいいですね。」
「成実さま…口軽い…」
小十郎ががっくり項垂れた。
まあ、相手がだからだろう、と思うことにした。

、誰にも言っちゃだめだぞ?」
「はい!!でも、仲良くなる事はいいことですね!!」
「仲良く…ねえ」
「?」
小十郎の声がより低音になり、はそうではないのかな?と思った。

「同盟…結んだら安心じゃないんですか?」
「いつ破られるか判らんし、人質の問題もある。それに、まだ相手をどうするのか…問題は多いぞ。」
「そか…でも、信玄さまも謙信さまも、信じられそう」
「まあな…」
「幸村さんは納得しなさそうだけど。政宗殿と戦いたい!!って」
「想像できるな」
はは、と互いに幸村の顔を思い出し、笑った。

「政宗さんと幸村さん、仲良くなれるかな?」
「そうだな…。共通の敵が目の前にいれば、自ずと仲間意識も目覚めるんじゃねえか?」
「共通の敵…」
「それがきっかけに、仲良し…なんてな。まあ政宗様と真田じゃあ、ちと無理か。」
「そんなに簡単にいかなそうー。でも未来では仲良しでしたよ!!それは同じ境遇だったからかな?」
「そうか…」
「何盛り上がってるんだ?」
政宗がひょいっと顔を出した。

「未来に居た政宗さんは可愛かったって話。」
「ぶん殴っていいか?」



















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やっぱりこんなぬるいテンションになってしまうよこのメンバー…