「夢吉使うってどういうこと?」
「雪ん子がいるのに堂々と呼びに行く訳にはいかないだろぉ?」

慶次が庭の木に寄りかかっていた。

「出てきて大丈夫だったか?」
「いつきは寝ちゃった」
「そっか」

会話が浮気現場っぽくてなんだかむず痒い。

「…政宗も元親も、元就さんも、寝た」
「そ、そっか」
「片倉さんはわかんねぇ。どっか行った」

慶次がの肩に手を伸ばした。

「キッ」

の肩に乗っていた夢吉が、それを伝って慶次の肩に移動した。

「…慶次」
「とくに…話はねえんだけど…二人になりたかった、だけ」
「明日、行っちゃうんだもんね…」

慶次が雲の間から覗く月を見た。

も、もうすぐ」
「うん」
「お互い、無事でな」
「…大阪の方に着いちゃったら、大阪城目指すね…。探すから…」
「ああ」


慶次の肩で、夢吉がうとうとと眠そうにして、は笑った。

「夢吉、眠いって」
「はは、ちょっと頑張って起きててもらったんだよ」
「あはは、そうなの?」

可哀想じゃん、と言おうとしたが、慶次が夢吉を大切にしてるのは知ってるから

そこまでして自分を呼び出してくれて…

…なんにも、気の聞いた言葉をかけられない自分が嫌だな…

「…ねねに」
「あ、う、うん!!」
「会ったら、もう、大丈夫って、伝えて」
「うん…」

慶次がしゃがみ込んだ。

「あと、その…、おまじないして」
「おまじない…」

じゃあ、と、慶次の肩に手を置き、頬を寄せようとすると

「違う」
「?」
ほっぺたを慶次の手に包まれた。

の、おまじない」
「私の…?」
「お、おりじなる?っていうんだって?政宗に聞いた」

突然の申し出には少し焦った。

何をすればいいんだろう…!!!

元気が出る事…

いや、落ち着く事がいいかな…?

落ち着く事…

……

「わ、…」

夢吉に気をつけながら、慶次の頭を優しく抱え込んだ。

「…聞こえる?」
「……?」

一瞬、何のことだか判らないといった顔をした慶次だったが

すぐに理解したようで、ゆっくり眼をつぶった。

「うん…」

心臓の音。

私はこれが落ち着く。

…これが落ち着くって、教えてくれたのは、政宗さんだけど

こんな風にしか、思いつけなくてごめんね。

「…ありがと、…」



もう寒いから戻ったほうがいいと言って

もう一度ありがとうと言って、と別れた。

一人分の足音が聞こえてきた。

「誰が寝てるって?」
「…政宗」

腕を組んで、笑っていた。

「…悪趣味じゃない?」
「気付いてたろ?お前のが悪趣味じゃねえか」

慶次も笑った。

「俺、…マジになりそうだから」
「見てりゃ判る」

そんなことを、政宗は余裕で言う。

「ま、宣戦布告ってやつ?覚えててよね」
の鎖にはなるな」

笑顔になって、軽い口調になって、部屋に戻ろうとしたら、政宗からのその言葉。

「政宗…?」
と一生の別れなんかしたくねぇ、その気持ちは判る」
「……」
「だからって、無理強いはすんな」
「…でも」
「自分の考えを伝えたいなら伝えろ。でも、決めるのは、あいつの意思でなきゃならねえ…」
「……」
「だから俺は、の選択を待ってる。こっちに居たいんだって、ジイさんに打ち明ける日をな。そしたらご先祖様に、必死になってお願いしてくれるさ」

そう言って、政宗は背を向けた。


「……」

政宗は、が未来に帰るときは、笑顔で送り出す。

…もうこっちには来ないと言ったとしても、笑顔で…?

「……政宗」


行かないでと心の中で叫びながら、笑うんだろう。


「俺達はただの選択肢だ」

が大事で

の意思を、尊重しようとして

「政宗」

「なんだ」


爪が食い込むほどに、拳を握り締めながら、笑うんだろう。


「俺が我儘なら、あんたは臆病だ」


無理やりここに縛り付けて、嫌われるのが怖いのか?


が、お前のその気持ちに気付かないとでも思うのか?

「…お前には判らねーよ」
「…の生活を見たからって、の事全部知った気なのかよ?」
「…そんなんじゃ、ねえよ」
「欲しいんだろうが」
「黙れよ」
が欲しいんだろうが」
に、全て捨ててここに来いって言えっていうのかよ」
「言えよ」

政宗が振り向いた。

相変わらず、落ち着いた顔だった。

それが慶次には悔しかった。

「政宗…お前は、大切な人が居なくなる悲しみっての…知ってるかよ?」
「知ってるよ」
「じゃあ、なんでだよ…!!もう失うのは嫌だって、おもわねえのかよ!?」
「じゃあお前は!!手が届くところに居るのに、どんなに大切に思っても、俺のことを見てくれねぇ…憎まれる気持ちが判んのかよ!?」
「…!!」

やっと

やっと政宗が怒鳴った。

ほら

やっぱり、臆病だ。

「…が、ここで生きるって、決めなきゃダメなんだよ…」

「…鎖で繋ごうとしてんのは、お前だよ、政宗…」

政宗が俯き、唇を噛んだ。

「気持ち伝えるだけ伝えて、選ばせて、…いつかが後悔しても、これは自分で決めたことだからって、仕方ないって考えさせて…自分に被害は出ないようにして…」

「うるせ…」

一人を苦しめて…そんなに優しい言葉をかけてやるのが自分の役目…いい旦那様を思い描くね?錯覚だけど」

「だったら…どうしろっていうんだよ…!!!」


慶次は、政宗の頭に手を置いた。

「…を一人にするな。…そうだろ?」
「…」

「一緒に選んで、後悔したら怒鳴りあえ。喧嘩して、離れて、寂しくなったらまた傍に来ればいい」
「それは…」
「人間って、そんなもんじゃね?」

にかっと慶次が笑った。

政宗はそっぽを向いた。

「お前は、いろんな女と付き合ってきたのかもしれねえがよ…」
「そーでもねーって」
「…は頑固だ。喧嘩したら…」
「そしたらお前が折れればいいじゃん」

単純な慶次に、呆れてきた。

「俺にもプライドが…」
「本当にが好きなら、そんなもんどーでもよくなると思うがな?」
「……」

判ってる。

初めてが居なくなった日に

俺の全てをに見せれるって言った。

…なんであんな言葉が出たのかは判らなかった。

ただ、必死だった。



「…素直になれよ、政宗…」
「……」
「おっ、と」

政宗が慶次の手を振り払った。


「…あ、違うな。素直になるな、政宗。の事は諦めろ」

突然、ライバルだという事を思い出したらしい。

「なんなんだよ!!!」
「ははは!!!いやあ〜、まあ、あれだねえ〜」

慶次が頭を掻いて

「人の気持ちって十人十色だねえ〜」
「一言でまとめんな!!!!!!」

ははは!!と慶次がまた笑った。

「でも、おれたちはさ、本当にが、ずっとこっちに居てくれたらいいよなあ…」
「…ああ」
「!!」

政宗が素直に頷いた。

ちょっと嬉しくなった。

「…秀吉に会ったら、奥州に来る。その道中、ついでに北条のじいさんに会いにいこっかな〜、って思うんだけど」
「あのじいさんが何か知ってるとは思えないが?」
「まあまあ、一応。どこだか教えてくれねえかな?」
「…来い」


歩き出した政宗の後をついていった。


















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臆病政宗。
男性に対しては父のことを重ねて
女性に対しては母のことを重ねちゃう弱い政宗書こうと…
慶次越しですが少しでも伝わればいいな…