…正直、がここまで旦那の心ン中に踏み込んでくるとは思わなかったんだよね…

今の旦那、六文銭を掲げるには相応しくない顔してんだよ

…ちょっと、これまずくない?

大将と顔合わせたら、見抜かれてすぐ殴られるよ?

そりゃいろいろあったけどさ、が旦那に何をした?

の世界に行ったことも関係してるのか?

平和ボケしてんの?




佐助は幸村に何があったか、詳細に理解する事など出来ない。

だから想像しか出来ないけれど

今の幸村は、寛大にも、無邪気にも、頼りなくも思える不思議な空気で

「…大将以外にも、大切なもの、見つけたのかね……」

旦那は、どうなるんだ?

「…戦になったら…何か、変わっちまってたら…」

不安になるのはなぜだ。

今まで無かった事だからか。

変化が怖いのか。

だったら解決策として

もっと深く、旦那ン中入ってこないうちに壊してしまえばなんて

俺は汚れてんのかな





「そんなに警戒すんなよ小太郎。」

幸村と一緒の部屋に割り当てられた佐助は、一人天井を見上げた。

「……」

音も立てずに小太郎が天井裏から姿を現し、佐助の前に立った。

「俺だって、あんな良い子、手をかけるのは心が痛むさ」
「……」

「けど、国のためなら仕方ないよな?俺は真田の旦那が変わるのは怖いよ」
「……」

「…んなもん関係ないって顔してるな」
「……」

小太郎は座り込んだ。

「俺の監視?俺だけで良いわけ?警戒すんのは」
「……」
「…小太郎」


おいおいおい

小太郎、何て言ったと思う?

俺は

この猿飛佐助は

話し合えば判るって?

「お前まで平和ボケしてんのか?呆れるぜ」
「……」

小太郎が廊下に目を向けた。

「佐助ー佐助ー」

の、俺を呼ぶ声

「はいはい、何ー?」

佐助はいつもの調子の良い声で叫んだ。

障子が開いて、が顔を出した。

「佐助ーお願いがあんだけどー」
がにこにこしながら佐助に近づいた。

「何?」
「見てこれ」
「何これ」

が手のひらの上に何か小さなものを乗せて、佐助に差し出した。

「これ、鮫」
「さめ?」
「幸村さん、気に入ってたの。だからこれ、こっそり贈り物して欲しいの」

佐助は受け取ると、念入りにその“贈りもの”を調べてしまった。

これは癖に近いので仕方がない。

を疑っているわけではない。

が怖いのは、あくまで心理面だ。


「いいよ!!でもあんまり旦那を甘やかさないでよー?」
「甘やかしてなんかないのー!!それに、あの、ごめんなさい、の意味もこめて…」
「ごめんなさい?」
「幸村さん、偉い人なのに…佐助も、ごめんね…幸村さんいなくて、困ったでしょ…?」
「……」

そんなに申し訳ない顔されたら、困るんだけど…

佐助は大きくため息をついた。
「…は、可愛いよねえ…」
「なんでため息つかれながらそんなこと言われなきゃなんないんだ」

の頭の中は、申し訳ないという気持ちしかない。

佐助はしばし、鮫をいじった後

「任せといて」

懐にしまって、の頭を撫でた。
撫でたくなる頭なんだこれが。

「お願いします」
「お願いされます」


嬉しそうに俺を見上げる顔が、本当に可愛いから困る。

さっきまでの暗い想いが消えていってしまって困る。


「ねえ、佐助、もしかして戦始まる?」
「!!何で?」

のいきなりの言葉に、佐助は面食らってしまった。

「あ、何か、幸村さんがさ、いつもより雰囲気が…武将オーラが…」
「…あー、旦那ーそんなにだしちゃってた…?」

大将のことを考えて、メラメラ燃えてるんだろうか。

「……」
そうだ

この鮫使って、今の旦那の状態調べよう。

そんなことを考えたら

「佐助って普段どんなこと考えてるの?」

のその一言。

「ちょっと、忍に何聞いてんのさ?秘密だよ?」
「戦の事考えてた?」
「今は違うな」
「お仕事の事?」
「うーん、そんな感じのような、違うような」
「ふーん、だったら考えなきゃいいのに」
「?」
の言葉の意味が判らず、首を傾げてしまった。

「辛そうな顔してるもん。何をそんなに思いつめてるの?」
「……」
君の事考えてたんだけど…?

「思い詰めてた?」
「眉間に皺寄ってた。怒った時の小十郎さんみたい」
「…そりゃそーとーだねえ…」

小太郎見るとにやにやしてるし

あああそうかこの野郎…!!

俺がそーゆー顔してたから、話せば判るなんて…!!

「…あー、クソ…」
「どうしたの?」
「感情表にだして、忍失格」
「感情表に出したら失格なら、私そんな失格な佐助が好きー」

はさらりとそんなことを言って

「感情隠すのは、仕事中だけでいいじゃん?」

その

まるで

俺とは友達だよみたいな態度が

「気が抜けるー…」
「なんだよ佐助!!」







結局

佐助はに対してもやもやした気持ちを持ちながら次の日船を降りた。

幸村はいつまでも船に向かって手を振っていた。

佐助は港で待っていてくれた武田の家臣たちと出発の準備。

「…ねー旦那」
「なんだ?佐助」

懐から出して、背後に居る幸村の方を振り向くことなく幸村に向けて投げた。

「これは…」
から。贈り物だって。さめ?」
「おおおお小さいがサメだあああああああ!!!!」

幸村は佐助の想像以上に喜んでいた。

「よかったね」
…!!直接下されば良かったのに…!!ー!!!!!!ありがとうー!!!!!!!!」
「叫んでも聞こえないから…」

佐助がちらりと幸村を見ると


幸村が首の六文銭を外しているではないか。


「だ、だ、だ…」

最悪な事態が起こったと、佐助は血の気が引いた。

愛に生きるのか!?

愛に生きたくなったのか!?

幸村はそんな佐助に気づかず、目の前に六文銭を掲げ

じっと見つめ

「…夢を見る時間も、迷う時間も、終わりでござる」

小さな声で、幸村が呟いた。

「申し訳なかった」
そういって、握り締めた六文銭に口付けを落とした。

「……」

佐助はそんな幸村を口を開けながらただ見つめて

「…なんだよ」

判ってんじゃん。

自分の感情を。

…判ってなかったのは、俺?

判ってなくて

を殺すかもしれないとまで考えて

「…俺様、何してんだろなあー…」
「どうした佐助!?」


額に手を当て、俯いた後

の笑顔を思い出し

無性に謝りたくなった。















■■■■■■■■
佐助も過保護…
幸村と佐助とひとまずさよなら。