佐助と幸村は、元親と地図を見ながら、どこで船を降りるか話し合っていた。

政宗はウロコを見せろ!!と言う武蔵から逃れるために船内で鬼ごっこをしている。

小太郎も武蔵に会いたくないようでどこかに隠れていて

元就は何か悩んでいて


が向かったのは




「慶次」
!!」


まだ本調子じゃないため、部屋で安静にしていた慶次の元へ。

「大丈夫?」
「全然問題ないし!!それよか船旅なんて初めてだ!!なぁ、甲板行かねえか?」

慶次が元気良く立ち上がり、の手を引いた。

「待って、慶次!!あの…怪我見せてくれない?」
「大丈夫だって!!」
「慶次!!お願い…」

は慶次を引っ張った。

慶次は仕方ないなとため息を吐いて、どかりと座った。

服を脱ぎ、包帯を取って上半身を晒した。

「……」

細い傷が右肩から一筋だけ出来ていた。

「光秀だって素人じゃねぇよ。殺さないことだってできるさ」
「…痛かった…?」

は指先で傷をゆっくりなぞった。

これにはびっくりしたようで、慶次はの手を咄嗟に握って止めた。

「お、おいおい、やめろって…」
「慶次…」

慶次は困った顔をし、もう片方の手での頭を撫でた。

、元気だせよ。俺、にかっこいい〜とか嬉しい大好き〜とか言われてぇなぁ〜なんて」

にこにこする慶次だったが、は少しも笑わなかった。

「…どうした…?…?」
「佐助に、聞いた」
「…何を…」
「あいつに手を出したら、どこの誰だろうが、殺す…慶次、あいつって誰のこと?」
「…お前の事に、決まってるじゃん」
「…あの日、あの時、慶次には私の姿、ちゃんと見えてた?」

慶次が目を見開いた。

「何、言ってんだよ…俺は…を…」

「慶次が優しいのは知ってる。けど、慶次は…もう、見たくなかったんだよね…思い出したく無かったんだよね…」

慶次は拳ををギュッと握り締めた。

「それ、ねねのこと、言ってる?」
「…うん」
「ちょ、ちょっと待てよ、何それ?何でここでねねが出てくるかな…!!…お、お前が、俺とねねの、何を知ってるってんだよ!!俺が、少し、お前に、ねねのこと話したからって、そんな、知ったような口…!!」
「慶次……」

いつもの流暢な喋りを忘れたようにどもりながら喋る慶次を見ていると、切なくなってきた。

「ねねは関係ねえよ!!俺は…俺は、を助けたかった」
「……」
「…助けたかった」
「うん…」
「目の前で、人が死ぬなんて事…俺はもう…」

…まるで自分に言い聞かせるように




慶次の頬に自分の頬をすり寄せた。


「……え」
「…元気になるおまじないだってね」
、お前…」

慶次がの肩をがっしり掴んだ。

「…何で?」
「ねねさんに会った」

慶次は目を見開いた。

「未来に…未来にいるのか!?」
「…死んじゃってるよ」
「でも、でも伝いになら、俺、ねねと話せるのか!?未来に行けば…未来に行けば話せるんだな!?」
「慶次…」
「連れてってくれ…!!俺を連れてってくれ…!!ねねに会いたい…ねねに…」

何かが弾けた様に、慶次は声を荒げた。


は心が締め付けられるように痛くなった。

慶次は

今でもねねさんが


「会えないよ」
「見えなくたっていい!!ねねが居るなら…俺、ねねに伝えてない事がいっぱいあるんだ!!…いいだろ?頼むよ…!!」
「会えないよ」
「なんでだよ!?は会ったんだろ!?なんで」
「ねねさんがそんなこと望んでないからだよ」
「言ったのかよ!?ねねがそう、お前に言ったのかよ!?」
「慶次…」
慶次が項垂れ、に縋り付いているような姿で、肩を震わせた。
「俺に、会いたくないって…言ったのかよ…?」


はねねの姿を思い出していた。

にっこり笑って、凛として…

ねねさんも、慶次のことを話したら、こんな風になったかな?

慶次に会いたいって、言ったかな?


「…慶次…」
を掴んでいた手が、突然離れた。

慶次は全身の力を失ってしまったかのように、畳に手をついた。

「…ごめん……」
「ううん…」
「囚われて無いって言ったくせに…かっこ悪い…」
「いいよ…」



…言わないと思う。

何でだか判んないけど

懐かしい名前ね、って

ねねさんは笑うと思う。



「慶次が、恋は良いって言うのは、まつさんと利家さんが幸せそうだからだよね?」
「……」
「ねねさんを忘れるための、恋じゃないよね?」

慶次が弱々しく笑った。

「…それは違う。…違うって、言えるよ」


それでも私は、

ねねさんの、心残りは

慶次だと思うんだ…


「ご、ごめん、慶次。私が踏み込んでいい領域じゃないって判ってる。でも、でもね」

言っていいのか、判らないけど

「…ねねさん、とっても元気そうだった。…何も、後悔なんてしてないみたいだった」
「…ねね、笑ってた…?」
「笑ってた…私に元気くれた…すごく…綺麗だった」
「…そうか」
「……」

慶次は、判ってるんだと思う。
それを、認めたくないだけで…

「…今のままじゃ、嫌だって、一番思ってるのは慶次なんじゃないの?」

半兵衛さんと、秀吉さんと、こんな関係で

「…だからって、どうにもならねえよ。俺の気持ちは、ずっとこのままだ。それは、お前にも、変えられねえよ…ごめんな、…」

「……」

私だって、そんなこと判ってる。
こんな話して、最悪、慶次にお節介と思われて仲悪くなっちゃうかもしれない。

目をつぶっていられたらどんなに楽だろうか。

「…慶次に、ねねさんを忘れろなんて言えないし…」

でも

「ねねさんを想い続ける慶次のことも私は好き」

ねねさんのためにも、慶次のためにも

「けれど、今の状況に、慶次が、少しでも疑問を感じたら」

何か、変えたい…

「…行動して欲しい」
「…はっきり言っていいよ、。」

慶次がゆっくり顔を上げた。

「お前は、俺に、半兵衛と秀吉を赦して欲しいんだろう…?」
「…え、えと…」
「構わないよ。…けどな、俺は、秀吉のしたことを忘れる事はない。けど、ねねの言葉も、忘れられねえ…」
「…」
「本当は、何が正しいのか、俺は判ってねえ…ただ怒りばかりが心の中に湧き上がって…」
「慶次…」

が、爪が食い込むほど握られた慶次の手に自分の手を添えようとすると、突然慶次にその手を握られた。

「そうだ、判らないんだよ…。俺は、こんなに頑固になってよ…」
「……」
「誰かに、背中、押して貰いたがってんのかな…?」
「…慶次に判らない事、私には判らない…」
「…けど、行ったところで、話したって…」

俺は、何がしたい?

「政宗さんはねえ」

少し慶次の眉がぴくりと動いた。

「文句があれば俺にぶつけろ。満足いくまで口論してやるって、私に言ってくれたよ」
「…ふーん…かっこいいじゃん、独眼竜…」
「…怒りって感情だって、自分を変えてくれるかもしれないよ…。慶次が怒ることは、悪い事じゃないと思う…。ただ…自分の中だけでごちゃごちゃ考えてたら…もっと訳判んなくなっちゃう…」
「…持ってるもんは、怒りって感情でも、いいと思うか?」
「…うん」

唇を尖らせて、慶次が一度天井を見た後

「そうだな!!」
「わわ!!」

いきなり飛び上がったので、はびっくりした。

「俺もそうすっかなあ!!」
「慶次…」
!!…俺、秀吉に会ってみるよ!!」
「…へ?」
「ん?」
「きゅ、急展開?」
「はは!!そうでもねえよ!!なんかさ、なんか、やりたい事、あった。思いついただけ!!」

また慶次がの手をとって引っ張った。
今度はは引かれるまま、立ち上がった。

「でも、この船旅は一緒させてもらうぜ!!俺、に会いたかったんだからな!!」
「…あ、ありがとう…私も慶次に、会いたかった」
「はは!!照れるねえ!!でもそれは心配してだろ?」
「え?いや、あの…」
「いいって!!船旅終えたらさ、俺、秀吉に会って、…俺、変わるからさ」
「…変わる…?」


の手をぎゅっと握って


「待っててくれるか?」


「……っ!!」

いきなり慶次の表情と声が、真剣なものになった。

「ま、待つ…って…」
「なんだよ…言わせる気かよ…?お、俺はな、もう1つはっきりさせたい感情あるからよ…。気づいたときにはもうお前が人のモノになってるとかやだし…俺さ、のこと本当に…」

はボッと顔が赤くなった。

「っっ!!まってる!!まってるから…!!」
「あ!!ー!!そこまで言ったんだから最後まで言わせろよ…!!」
「ここここここ今度秀吉さんに会ってみたいな!!」
これまでにないくらい、は早口になった。

「…あ、ああ…」
「そ、そんで、秀吉さんのお城、見たい…!!城下とかも…!!」
「…うん」
「半兵衛さんとも…一緒に、お話できたらいいな…!!なんて…」

慶次がの頭を撫でた。

「…自信はねえけど…お前が仲介してくれりゃ可能かもな!!楽しみにしとけ」
「うん…」

トコトコトコと、音がした。

「キー!!」
「あ、夢吉!!何してたんだ?」

突然現れた夢吉は慶次の身体に飛びついた。

すると今度は

「モトチカ!!オタカラー!!」
「な、なんだあ?」
「ピーちゃん」

ばっさばっさと、ピーちゃんが部屋に入ってきた。

「キー!!キー!!」
「なんだよ、夢吉…あの鳥にいじめられたか?」
「ダメだよ、ピーちゃんー!!」
ー!!」

は慶次と繋いでいないほうの腕をピーちゃんに差し出した。
ピーちゃんはその腕に止まった。

「うわ!!その鳥怖ェ!!夢吉は俺が守る!!」
「ちょっと慶次!!そう言ったらピーちゃんが可哀想でしょう!?」
「だってよ…!!」
「キキ!!」
「ピィ!!」

今度は軽い口論を始めたと慶次を止めるように、ピーちゃんと夢吉がと慶次の間に入った。

「わわ、ごめんね!!」
「あーあー、夢吉心配すんな!!大丈夫だ!!」

気遣いをする二匹が可愛くて、二人は目を合わせてにっこり笑った。

「甲板行こうぜ、!!」
「うん!!あ、そうだー!!ねー、夢吉ー、慶次ってさー」
「キ?」








『氏政』
『ん?なんじゃ…ねねか…』
『何だじゃないわよ』

氏政は、札を付け忘れたの部屋に勝手に入って寝転んで、くつろいでいた。

ねねは氏政の隣に座った。

『なーに難しい顔してんのよ』
『するわい!!は、元気しとるじゃろうか…』
『…ねえ、あんたさ』

ねねの言葉が途切れた。

不思議に思って、ねねの姿を見ると

『…お主』
『私ったら、くだらない事気にしてたようね…』

ねねの身体が今までよりも透けていた。

『…いくのか?』
『そりゃね』

ねねが立ち上がり、ベランダに出た。

『あんたさ、本当は、どうすればあの子の為になるか、知ってるんでしょ?』
『……』

ゆっくりと、ねねが浮上した。

『決めるのは、あの子と、あんたよ』
『わかっとる…』
『そう…じゃあね。あの子によろしく』

氏政も外に出た。

『ああ…』
『ありがとうって、言っといて』
『判った…』

ねねが氏政から視線を外し、空を仰ぎ、昇っていった。
氏政は、ねねが見えなくなるまで、ずっとその姿を見ていた。





『慶次、私ね、騒がしい貴方が大好きよ』

ぼそりと、呟いた。

『そして、純粋な貴方が、心配だったわ』

思い出すのは

あの日見た、慶次の悲しい表情で

『でも大丈夫ね、もう、大丈夫。貴方は、強いもの』

私の心配なんて、要らないでしょう?

きっと、貴方は、

あの子の傍に居る、今の貴方は





「『今の慶次、すごく格好良い』よ…ね…?」





変わらなくてもいいから

私達は心からの笑顔が見たいだけだから





「…あ、あれ…?」
「キッ!!」
夢吉が元気に返事をした。

「マジで!?嬉しいねえー!!…って、どうした??」
「いや、なんでもない」
「そうか?…うん…ありがとな…」

慶次と手を握ったまま、歩き出した。

「…?」
は、何か不思議な感覚になっていた。

!!」
「え?は、はい!!」
「ぜーったい、待ってろよ!!」
「うん!!」


とりあえず、慶次が元気そうなので、まあいいかと思い

と慶次は、夢吉とピーちゃんを連れたまま、甲板に向かって走り出した。

「ねー、慶次?」
「ん?」
「ところで、やりたいことって?」
「ああ!!」
慶次がにっこり笑って

「秀吉ぶっ飛ばす!!!!」
「…が、がんばれ!!」

はなんだか慶次らしいと思った。










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ギャグだけでは話は進まぬと知ってはいるが
こういう話は書いててとてもとても
恥ずかしかったりするヨ…