一人一人寝る部屋を貰い、出航一日目は終わった。

眠りに落ちて、数時間が経ち

ぽんぽんと叩かれた。

「…ん」

まだ眠くて布団を頭までかぶる。

ふう、と溜め息が聞こえた。

「!!」

は一気に目覚めた。

だっ、だっ、だっ、誰かいる…!!

え、だって昨日は個室もらって…

元親が鍵しっかりかけて寝ろって言ったからちゃんと扉をしめて…

「まぁだ眠いか?ま、そりゃそうか」
「…」

あ〜、なるほど…

元親ならマスターキー…じゃない、合鍵持っててもおかしくない…

「…おはよう元親…どうしたの…?」

はゆっくり起き上がった。

「おう!!」

悪びれた様子もなく元親はにこにこしていた。

「甲板行こうや!!」
「甲板…?」
枕元に手を伸ばして携帯を見る。
そんなに早い時間ではないことに気付いて、こくりと頷いた。
携帯を懐にしまった。
「よし」
元親に手を引かれ、目をこすりながら立ち上がった。


「朝から…お仕事…?」
「仕事してる奴もいるけどな」


甲板に出ると

地平線がゆっくりと光に包まれて

元親が徐々に顔を出す太陽を指さした。

「日の出、綺麗じゃね?」
「おお…」

は素直に感動した。

「うん、綺麗」
「ははは!!よかった!!」

元親がにっと笑った。
「あ、そうだ」
「ん?」

は懐から携帯を取り出した。

カシャ

「…なんだ?」
「朝日と元親!!」
は画面を元親に見せた。

「…うお、なんだこれ…鏡か…?」
「あ、う、うっかり…まいっか…えっと、カメラって言って…カラクリだよ」
は保存するのが躊躇われ、削除することにした。

…未来の事詳しく話すことを拒んでるくせに、こーゆーことするのはなんかなあ…

そんな風に思うを、元親はじっと見つめていた。

「なぁ、にはよ」
「ん?」

朝の風は冷たくて、だんだん頭が冴えてきた。

「俺の事はどんな風に映ってる?」

「どんな風…アニキ?」

「そうじゃねえ」

元親が手すりに寄掛かった。

はその隣りに並んだ。

「俺が今、この目で見てすげえと思うもの、宝だと思うもの、お前には、そうは見えねぇのかなとか」
「…元親」
「気にしてんだろうな…その証拠にカラクリ作成にのめり込めねぇ。いつもなら機材揃ったらささっとやっちまうのに」
「そうなんだ…」
「っと…はっはっは!!悪い!!暗くなっちまったか!?」
「まだ太陽出たばっかりだから暗くてもいいんじゃない?」
お互いふっと笑った。

「そんなことないよ!!って言っても信じてくれないだろうなぁ…」
は海に視線を向けて、ふてくされたような声を出した。
「う、怒ったか?」
「でも、私、こっちきて驚くことの方がいっぱいなんだ」
「ん…そうなのか?」
はにっこり笑った。

「元親みたいな人見た事ないし」
「それ褒めてんのか?」
「褒めてんだよ」

元親が少し照れて、頭を掻いた。

「だから元親が作ったものも見た事ないものだよ」
「…本当はな、もう、知ってたんだ」

は首をかしげた。
何を?と聞き返そうとすると、元親がに向けて優しく笑った。

「嬉しそうに俺の差し出したカラクリ受け取ってくれたり、日の出が綺麗だって同意してくれたり」
「綺麗なものは綺麗だ」
「はは、そうだな!!」

元親が懐から紙を取り出した。
ばさっと勢いよく広げる。

「お前は俺がすげえだろ!!って言ったら、すげえ!!って馬鹿みたいにおうむ返しすんだろなぁって。下手になんか作ったら、なァんだこの程度か、ってェ、馬鹿にされっかなぁとか思ったりしたがそんなお前が想像できねぇ」
「ひどいですぜアニキィ!!」
「それ気に入ったなら親衛隊入るかァ!?はは!!」

元親はそう言うと、広げた紙を勢いよく破いた。

「えぇ!?」
これにはも驚いた。

「それ、設計図じゃ…」

ビリビリに破いて、海に落としてしまった。

「設計図弐号だ。もっと火力あげたらどうだ〜とかうだうだ考えてた奴よ!!いらねぇいらねぇ!今出来る限りで最高のモンつくらねぇとなぁ!!」
「元親…」
「俺にとってもお前にとっても、綺麗なモンは綺麗だし、すげぇモンはすげえ。そうだな?」
「もちろんだとも!!」
「はっは!!しゃあ!やる気でたぜ!!兵器完成したら見せてやるからな!!待ってろよ!!文送るぜ!!」
「うん!!」
「笑止!!」
「ぎゃあああああ!!」
「えええええ!?」

よし戻ろうと歩きだした元親に、いきなり飛んできてアッパーカットをおみまいした人物が1人…

「元就さん何してんの―!?」
「日輪拝むは我の日課!!真似るな!!」
「真似てねぇ…」
おもっくそ食らって元親がぴくぴくしてます。

「元就!!てめぇふざけんのもいい加減にしろ!!いつから居た!?話聞いてたのか!?」
「ふん…幸せな男だな…綺麗なものは綺麗…ぷぷ…」
「ぎゃあああああ!何だか恥ずかしい―!!」

「二人とも…」

朝から元気ですね…

「まさに井の中の蛙よ…」
「黙れ!!てめえなんざにそんなこと言われたく」
「厳島から拝む日輪は、比較にならぬほど美しい…」

も元親もきょとんとした。

、見たいと言うなら来ても構わぬ」
「元就さん…友達も一緒でいい…?」
「貴様が認めたものに限る」
「あ、ありがとう、元就さん…!!」

すたすたと元就は行ってしまった。

「元親…厳島、行こうね…!!」
「わけわかんねぇ…なんだよあいつ…」

元親はまだきょとんとしている。

「…元親にも、愛を抱き始めたんだよ!!」
「全力で嬉しくねえ」

元就の気持ちの変化を的確に表現できるものはここにはいなかった。






「くだらぬ…」
元就はつかつかと船内を歩く。

「なんだあの男は…に助言を求めねば何も出来ぬわけでもあるまいに…」

なぜかイライラしていた。

「理解出来ぬ…!!」

けれど、一番理解できないのは

仲の良い二人を見て、あんな言葉を発した自分だ。

ばんっと荒々しく部屋の扉を開けて、中に入った。

ドカッと座って考える。

「む…なぜ、こんなに頭にくるのだ…?我は…」
「んだようるせぇよぉ…」

ごろりと武蔵が寝返りをうった。

「…む。部屋を間違えた」

重症だ。

「なに、なんか悩み?」
武蔵が気になったようで、むくりと起き上がって寝ぼけ眼で話しかけた。

「貴様に言ったところで何も解決せぬわ」
武蔵がムッとした。

「ああそうかよ!!じゃあ解決してくれそうなとこ行けよ!!姉ちゃんのとことか!!」

元就の眉がぴくりと動いた。

「…なぜ、なのだ」
「姉ちゃん優しいだろ!!一緒にいっぱい考えてくれる!!」
「先程、元親がに悩みを打ち明けていた。我に奴の真似をしろというのか」
「…んあ?あんたそれ見たから怒ってんの?」
「…どういうことだ」
「鬼に嫉妬したんだろ!!へっ!!もやしっこは奥手だ!!」
「……」
「…あれ」

武蔵は元就が怒ると思ったが、逆に静かになって拍子抜けした。

「我は…を…信仰の対象として…が皆に求められるのは我の幸せでもあり…」
「ちげーじゃん!!おまえおれさまに姉ちゃん渡さないって言ったじゃん!!」
「伝道師の座は渡さぬと言ったのだ!!」
「それよくわかんないんだよ!!つまり、姉ちゃんの一番ちかくにいたいってことじゃないのか!?」
「違う!!伝道師だ!!その証拠にの言葉により救われた元親を見た後、親近感がわいてしまった!!あの元親に対してさえだ!!気持ち悪!!」
「き、きもちわるい!?親近感に!?おまえ変!!ええ?待てよ?姉ちゃんのことばでー…ってことは、姉ちゃんの想いが相手に伝わったってことで…」

武蔵は武蔵なりにがんばって考えて

「…つまり、姉ちゃんのよろこびってやつを、きょうゆうしたいんだろ?…宗教ってよくわかんないけど。」

結構まともな考えを出せました。

「何…!?」
「でー、鬼も、姉ちゃんのきもちを理解したからー…共有しあった同士で、親近感がわいたんじゃねえの?」
「我…は…えええい!!まどろっこしい!!」

元就は勢い良く叫んで部屋を出て行った。

「何なんだよもう…」
武蔵はふああとあくびをして、もう一度布団に潜り込んだ。





元就が甲板に戻ると、と元親はまだ一緒に談笑していた。

!!」
「え?あ、元就さん、何?」
「戻ってきたのかよ…今度はなんだよ…」

元就はをじいぃぃぃぃと見つめた。

「…も、元就さん?」
「元就?」
「……」

真剣なまなざしに、は顔を真っ赤にした。

「元親〜…」
元親に助けを求め出した。


「元就…何してんだよ…」


「…判らぬ」

何が

「我に判らぬことが…」
「…元就さん…人の顔見ながら判らん判らん言わないでくださいよなんか不快だ…」

は元就の頬をつねりたくなった。

「何故我はこんなにの事が必要以上に気になるのだ…」
「えっ…元就さん!?」
「…と接してると…あんなに想っていたザビー様の事などすぐ忘れてしまう…」
「元就お前…!!」

遠回しに告白っっ…!!

「特に美人というわけでもなく賢そうにも見えぬこのような小さな娘に…」
「オクラを毛ごと収穫してよろしいかしら」
ってたまに恐ろしい事言うな」

うーんと本気で考え出す元就を、は睨み付けた。


そうしていると

「なんだいなんだい!!恋の話なら俺も混ぜろよ!!」
「む?」
「あ?」
「え…!!」

突然頭上から声が聞こえて

全員が上を見ると


ドッと大きな音を立てて何かが甲板に落ちてきた。

「あ…」
「あン?誰だ?」

佐助が重そうに背負って

「う―…重っ…はいはい降りてよ、風来坊…」

小太郎が背後から佐助のサポートして

「……(にこり)」

「ご苦労さん!!…無事で良かったぜ!!」

いつもの口調で

「…けいじ…!?」


いつもの笑顔で


「慶次―!!!」
!!」

は駆け寄って慶次に抱き付いた。

佐助と小太郎は笑顔を浮べていたが

元親と元就はショックを受けた。


「慶次!!慶次!!」
「はは!!〜!!」

慶次がを抱き締め返すと、小太郎は顔をしかめた。

佐助がまあまあとなだめた。


「慶次…!!無事…!?怪我…怪我は…?」
「こ、こらこら!」

が慶次の衣類を脱がしだした。
慶次はの両手をやさしく握って止めた。

「大丈夫だ。俺は強い!!」
「でも…でも…痛かったでしょ…?」
があのまま斬られてたら、俺はもっと痛い思いをしてた」
「慶次…!!」
「あぁもう、泣きそうな顔すんなよ〜!!」

慶次は苦笑いしながらの頭をわしわし撫でた。

「ホントは、棺桶で運んだ方が小太郎と一緒に運べるから良かったんだけどね〜」

佐助が軽い口調でに話しかけた。

「でも、棺桶なんてが見たら泣き出すだろって言われてさぁ」
「そんなに、私に気を使わなくても…」
「やだよ!!一瞬でも、俺が棺桶に入ってるとこなんか見せたくないね!!」
「慶次…!!」
「そういう訳で、俺様頑張って疲れた〜〜肩もみして〜」
「うん!!佐助、ありがとう!!小太郎ちゃんも…!!」
「……」こくり
「私が、心配しっぱなしだったから、連れてきてくれたの…?あ、ありがとう…!!」
「……〜!!(てれっ)」
佐助と小太郎にお礼を言うと、はまた慶次に抱き付いた。

「本当に、よかった…!!」
「あのあとはまつ姉ちゃんに治療して貰って、甲斐で連絡待ってたんだ!」
「そう、なんだ…」
、旦那は?」
「幸村さんは…も、元親!!幸村さんのお部屋は?」

ぼーっとしてしまった元親は、話しかけられてびっくりしていた。

「ま、待ってな!!今呼んで来るぜ!!元就!!」
「し、仕方ない…うむ…」

元親と元就はそそくさと船内に入って行った。

「…元親?あいつが長曽我部元親?」
「あと元就って…」

佐助と慶次が少し驚いていた。

「そう。長曽我部元親と毛利元就」

「まじ?何で二人揃ってんの?」

「…さぁ?」






ばたばたばたばたと二人が廊下を走る。

ばぁんと一つの扉を勢い良く開けて、怒鳴った。


「「あいつ誰!!!?」」

「……どいつが誰だと?」


ちょうど髪を結んでいた幸村は、目をパチパチさせた。


「…何事だよ」

隣の部屋の政宗が、怒鳴り声を聞いて部屋から出てきた。


が抱き付いてた―!!!」
が呼び捨てをしていた!!」
が甘えてた―!!!」
が泣きそうになっていた!!!」

二人が大慌てで言葉をまくし立てた。

「「には、恋人が!?」」

「「いない(でござる)!!」」









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いないってはっきり言われてる主人公ドンマイすいません…
慶次を運んできちゃったよ…!!
慶次は重そうだよ…!!
でもBASARAだしということで許してください…!!