海はひどく穏やかだった。
元親は顔に笑みを浮べながら甲板に立った。

出航するぞ!!と声を上げると部下がおおぉぉと雄叫びをあげた。

しかし今日は部下だけでなく

「元親かっこいい〜!!」
「鬼!偉そうにすんな!!」
「静かに出来んのか馬鹿め」

はともかくなんで武蔵と元就までここにいるんだよ!!」

二人は着いて行くと言い出して船に乗り込んでいた。

「風が気持ちいいでござるな…あ!!殿!!魚が跳ねている!!あっち!!」
「トビウオ!?見たい見たい!!」
「姉ちゃん待って!俺も!!」

はすっかり仲良くなった武蔵と一緒にどたどたと甲板を走り回る。

「小太郎」

小太郎はとたっと音を立てて政宗の横に降り立った。

「前田慶次はどうしてる」
「……」

ぴっと、北西の方を指差したが

「……」
すぐに手を引っ込めて考え直して

「小太郎?」
小太郎は幸村の背を指差した。

「…甲斐にいるのか?」
小太郎はこくこくと嬉しそうに頷いた。

「…お前、あいつの事嫌いだったろ」
「……」

キョトーンとしたあと
はっとして

首を振ってニコニコした。

「単純だな小太郎…ちょっとを助けたくらいで…」
ふるふる

「…なんかしたのかよ。あいつ」
こっくり

あいつらに説教でもしたのかね…
…血を流しながら

「そりゃ…coolなことで」

が見てねぇところで…
大した奴。

「政宗さん、小太郎ちゃん。…あの、なんの話?」

が不安そうにしながら二人に近付いてきた。

小太郎はなんでもないよと頭を振った。

…慶次がいることは秘密なのか?

「小十郎はどうしてるか聞いていたんだ。これといって騒ぐ事も起きて無いようだしな」
「大丈夫…?」
「お前は心配しなくていいんだ。奥州は平和だとよ」
「そっか…!!」
は少しだけ笑った。

「政宗さんも海見ようよ!!好きなんでしょ?」
壁に寄りかかったままで動こうとしない政宗の腕を取り、は幸村と武蔵の元へ連れて行こうとぐいぐい引っ張った。

「が、ガキじゃねえんだ、あんな風に騒げるかよ」
「何でよー!!」
「ここから見える海だって綺麗だっての…お前も向こう行ったら日に焼けるからここで見たらどうだ?」
「えー…まあ日焼け気になるけど…あ、元親」
「何してんだよ?三人でこんなところ固まって」

元親が引っ張り合いをしていると政宗を不思議そうに見つめていた。

「元親…」
「楽しんでくれよなー?仕事ねえんだから。それとも何かしたいか?」
「やだね」
「やだ!!でもお手伝いならするよ!!」
は良い子だ」
わしわしと元親がの頭を撫で

ににっこり笑いかけ

「うわ?」

突然ひょいと抱き上げると

「あ!!」
「!!」

連れ去った。

「元親…!!」
扉を開けて船内に飛び込み、すぐに姿が見えなくなった。

「小太郎!!船の構造は!?」
「っっ…!!」
小太郎は悔しそうに首を振った。


「探すぞ!!」
「……」こくこく

政宗と小太郎も船内に駆け込んだ。








バタンと扉を閉めた後で、元親はを降ろした。

「元親ー?何ー?」
「あン?言わねえと判らねえか?」

元親はしゃがみ込んで、を見上げた。

「まだ諦めてねえんだよ、俺」
「元親…?」
「ここに残らね「騒がしい」

部屋の奥から、苛立った声がした。

「…馬鹿が何を言ってもには通じぬわ馬鹿め」
「馬鹿って二回も言った!!!!元就か!?」
「…声で判ろうよ、元親…」

がさっと音がした後、暗い部屋の隅から元就が姿を現した。

「何してんだこんなところで…!!お前…やっぱり付いてきたのはここの内部構造知るために…」
「知ってどうする?」
「どうするって…お前…」
「戦をするなら潰して終わりだ。我はこのようなもの欲してなどおらぬ馬鹿め」
「また馬鹿って言った!!」

は言い合うというか一向に元親が劣勢な状況が、失礼ながら面白かった。

「あはは!!仲悪いなあ、二人!!でもひっそりしたいときに駆け込むところが一緒なんて、実は気が合うんじゃ?」
「「ああ!?」」

ギロリと二人に睨まれた。
言っちゃいけない事だったか。

「…ごめん」
「…あ、ああ、悪い…、お前は前向きだがなあ…こいつと俺ばっかりはなあ…」
は愛が深すぎるのではないか?」
「も、元就さんはなぜそんなに私に…!!」
「…、それこそ我が言わねば判らぬのか?」

「……」

元親がを口説こうとしてたのに元就に取られてしまったではないか。

「…元就、聞こうと思ってたんだが…」
「なんだ」
「…国、放っておいていいのか?」
「そ、そうだ…!!戦の後の処理とかあるんじゃないの?元就さん…」
「…そんな仕事、とうに済ませたわ。というかお前ら、今頃気づいたのか」

フンと鼻で笑う元就に、と元親は首を傾げた。

「…いつ?」
「城に滞在していたときに指示を出した。事細かにしたのだ。戻ったときにまだ出来ていませんなど許さぬ。」
「…どうやって?」
「我の居場所は知らせてあるわ。忍に決まっておろう。」

目を見開く元親の肩を、はポンポンと叩いた。

「き、気づかなかった…!!俺は…そんな簡単に他国の忍の侵入を許して…!!」
「…小太郎ちゃんもだ…ごめんね…」
「うおお…!!くそう…!!もっとしっかりしねえと…!!」
「島国だからって気を抜きすぎなのだ。馬鹿め」
「うるせえなあ!!これから改善すればいいんだ!!で!?こんなところで何をしてたんだよ元就!!」
「考え事だ」
「考え事…?ざ、ザビーさんのことですか…?元就さん…」

話題を戻してしまい、はしまった、と思った。
自分は語るほど愛とは何か、理解していない。

「…まあな」
「…?あれ?」

語れ!!と言われるのを覚悟したが、元就はそう言うだけ。

少し安心した。
しかし元就はをじっと見つめた。

「……」
「…元就さん?」
「おい!!何してんだよクソ…!!折角政宗と小太郎振り切ってよう…!!」
「残念だったな元親」

あれだけ大声を出せば当然気づかれる。
政宗と小太郎どころか幸村と武蔵まで不機嫌な顔で元親を見つめていた。

「…睨まれ損だ。俺は何もしてねえ」
「だろうな。元就も一緒だしな」
政宗は余裕の笑みだ。
さっきまで夢中で探してたのに、切り替えが早いなあと、小太郎は感心した。

「元就殿!!またに…その…語れなどと迫っていたのでは!?」
「だったらどうする?」
が嫌がることはしないで下され!!」
「…、嫌なのか?」
元就は少し切なそうな顔をした。
「…そ、そんな顔しないでよ元就さんずるいー!!!!策なのか!?その顔は策なのか!?」

困ってしまったの腕に、武蔵がぎゅっとしがみついた。
「姉ちゃん困らせんな!!」

「……」
小太郎はそんな武蔵をド突きたくなったが、が近いので我慢して

ぎゅう

反対側の腕にしがみついた。

「こ、小太郎ちゃん」
「なんだよ忍!!マネすんなよ!!」
「……」
小太郎は知らんぷりでそっぽを向いた。

「…はは、お二人さん可愛いねえ…。嬉しいけど、身長差がさあ…私、連行される宇宙人みたいになってる…」
は素直に喜べなかった。


「…なぜそんなにを特別扱いする?」
「…元就殿?」
呟いた元就を、幸村は凝視した。
それこそ、お得意の"愛"だろう?

「…真田幸村」
「む?」
「お前は、に愛を感じるか?」
「……」
真剣な顔して何を言うのかと、笑うところかもしれないが

「…某は、は、優しいと感じた」

何だか、真剣に答えたくなって

「…過去形か?」
「一緒に居ると、某も優しい気持ちになってしまい」
「……」
「今では、全てが愛しく思う」

それだけは、確信している想い。


元就は、いまいち理解できてないようだ。
眉間に皺を寄せ、難しい顔をしている。

「すぐに抱けるものではなかろう。そういう気持ちは」
「…我は」
「元就殿は、考えすぎでござる。感じることも必要。」
「ふん…偉そうに…」
元就はすっと部屋を出て行った。

言い合いをしていた政宗と元親は、元就の消えていった場を見つめた後、幸村に向き直った。
「なんだ?」
「行っちまったな」
「…な、何でもござらぬ。狭いから、外に出たくなったのだろう…」

真剣にあんな話をしてしまい、今頃恥ずかしさがこみ上げ、下を向いてしまった。


「アニキ―!!鮫出たぜ!!」
甲板から叫び声がして、元親と幸村が反応した。
「おぉ!!いいじゃねぇか!!夕餉のおかずだ!!」
「えええ!!いやだ―!!鮫殺しちゃやでござる―!!鮫かっこいいのでござる―!!」
甲板に向けて走り出した元親を幸村が追った。

「…ペンギンは、いねぇのかな…」
「いませんよ」
政宗がしょんぼりした。










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晴れましたー
出航だー
元就付いてくんのありえねーと思いながら話を進めますー