雨音が強くなってきた。

しかし城の中はそれ以上にうるさかった。

「あ、愛とは、互いに想い合う事だろうが…?」
「貴様ぁ!!よくもそんなありがちなことが言えるな!!一度ザビー様に謁見してみろ!!!」
「いきなり城に上がり込んで怒鳴り散らしてんじゃねえ!!来客が居るんだ!!」
「来客貴様ぁ!!愛とはなんだ!?」
「貴様いってんな!!もうお前帰れ!!」

なんだか信じられないが、目の前で大声を上げているのはあの有名な毛利元就だそうで…

なんでか愛とは何かと騒いでて

「「「……」」」

来客三人組は、目の前の光景についていけなかった。

「…なんなんだこれ…お前が呼んだのか?」
「そう見えんのか!?独眼竜!!」
「…全く見えねえ」

その会話を聞いて、元就がピタッっと止まった。

「独眼竜…?お前が…?なぜ、ここに…」
元就の目が鋭く細められる。
やっと智将っぽい顔。

「…奥州と繋がりがあったのか…それで?援軍を要請して我が領地に攻め入るか…?」

空気が変わった。
これはまずい。
誤解されてしまう…

「長曾我部お前ぇ!!お前は本当の愛を知らぬ!!」
「お前愛って言いたいだけじゃねえの!?」

「「「…」」」
ついていけねえ。

「毛利…元就殿、落ち着いてくだされ。某たちは訳あって一時的にここに居るだけでござる」
幸村が背筋を正して正座して、元親と取っ組み合いをする元就と向き合った。

「お前は?」
「某は真田源次郎幸村でござる。」
「…知っている。奥州の竜に、虎の若子…ならば、お前は」

元就がをじっと見た。

「こいつは、俺の小姓で…という」
政宗が紹介してくれた。

「…ふん、それで、ここで何をしている」

元就を納得させられるような答えは誰も用意してません。

「…というか、お前こそなんでここに来た」

元親正解です。話を逸らしましょう。

「我は…ザビー様と戦をして…」

元就が大人しく座り込んだ。

元親は、元就の口から人を敬うための様が出てくるのが気持ち悪くてしょうがなかった。

「あの、輝く瞳に見つめられると…我は、なんとも言えぬ気持ちになる…」
「ザビー様とは女性なのですか?」
は恋なのかなあと思って聞いてみたが

「小姓ごときが…気安く我に話しかけるな…!!」
すごい睨まれた。

「すいません…」
「ザビー様は男だ。神々しい後光に照らされて、なんとも表現しがたい美しさを持つ…」

答えるんかい。

「毛利…お前…これからどうすんだ?」
「…ザビー様とお近づきになりたい…。」
「そういうこれからじゃねえ!!!雨強くなってきたぞ!?」

顔を赤らめてヲトメのように俯く元就を、元親が怒鳴った。

「む、本当だ」
「本当だ、じゃねえ!!早く帰れよ!!」
「船が出せぬ。今日は泊まってやってもよい。」
「なんでそんなに上目線!?」

「「「……」」」

三人が口出しするタイミングが全くわからないまま

元就もお泊りすることになりました。







元親は全員に一部屋貸してくれた。

慣れない船旅で疲れていたようで、雨音を聞きながら用意してくれた布団に横になっていた。

、疲れたか?」
「政宗…様」

襖を開けて、政宗が入ってきた。
は体を起こした。

「自覚無くても疲れは有るだろうよ…今はゆっくりしろよ。俺もさすがに疲れた」
布団の横にあぐらをかいて座り、政宗は苦笑いを浮かべた。

周囲を一度見回し、誰も居ない事を確認して再び口を開く。

「…それに、政宗様、なんて呼ばせて…なぁ…」
「大丈夫だよ?むしろ、心強い」
「そうかあ?」
「うん。政宗さんはしっかり威張ってよ!」
「…もう少しの辛抱だからな…」

政宗がの頭を撫でようと手を伸ばしたが

「わわわ!!」
「どうした?」

は政宗の手を掴んで止めた。

「だって、あの、まともにお風呂入ってなかったから…」

お風呂のような場所も船にはあったのだが、はみんなが居なくなった後に急いで入っていた。
それでも髪も肌もいつもと変わりないが、本人が気にしているならばと大人しく手を引っ込めた。

「別に、汚くねえよ…」
「や、やだよ」
「仕方ねえな…元親に風呂貸せって言って来る」

政宗が立ち上がって、に背を向けた。

「ありがと…」
「お前になら喜んで貸切にしてくれんだろうよ」
政宗が肩越しに振り返り、それだけ言って出て行った。

「…元親の小姓には、なれないなあ…」

どれだけ元親がいい人で、自分のことを気に入ってくれたって、自分の帰るところは奥州だから。

「帰る場所、かあ」

なんだかんだで

わたしはここに居るのが好きなんだなあ…




〜!!」
「!!」

どたどたどたと、廊下を豪快に歩く音と元親の声。

バン!と勢いよく襖が開いた。

手にタオルを持ってにこにこと元気な元親と、呆れたような政宗が

「風呂に入りたいんだって?んだよ!俺に直接言えよ!今用意してるから待ってろよ!!」
「は、はい…」
「一緒に入るか?」
「「!!!!」」

他意がないのは判るが、それは無理です。

は考えて考えて


「…俺、政宗様以外と入るなんて出来ない…」


小姓の仕事はよく判らないが、そう言えば間違いないと思った。

なんだか元親の後ろで政宗が感動していたが、無視した。

「うわ、言われちまったなあ…しょうがねえ、んじゃ、貸切にしてやるから、ゆっくりして来い!!」
「ありがとう」

ぺこりとお辞儀をして、タオルを受け取った。

「案内するぜ。あ、独眼竜、幸村呼べよ。ついでに案内する」
「判った」

政宗が廊下に顔を出して幸村!と叫ぶと、すぐに部屋から出てきた。

「何事?」
「風呂に案内してくれっとさ」
「おお、ありがたい。毛利殿もか?」
「…あいつはここに来るの初めてじゃねえし、場所知ってる。」
「そういう関係か」
「…どういう関係だって?」
「いいや、なんでもない」

元親の苦労している一面が見れて、は少し笑った。






風呂場に行くと、すでに用意が出来ていたので、はすぐに入ることにした。

戸が閉められた後も、元親は風呂場から視線を外さなかった。


は、独眼竜としか入った事ないのか」
「え…わっ」
政宗は露骨に驚いた幸村を軽く蹴った。

「まあな。おい、元親、何考えてんだ?」

「大勢とわいわい騒ぎながら風呂に入るのは、楽しいぜ?」


…こいつはにその楽しさを教えたいらしいな…

「元親、これは秘密だったんだが…」
「ん?」

政宗が元親に近づいて、小声で話した。

「…の背には、会った時から大きな火傷の痕があるんだ」
もちろん嘘。

「…火傷?戦に巻き込まれて?」
「知らねぇ。あいつはそのことに触れると、悲しそうな顔になる。だから風呂は一人で入らせろ」

幸村も必死でこくこく頷いた。


「…そうか。なら可哀想、か」

判ってくれたようだ。

「じゃ、が上がったらお前らも入れよ」
「判った」
「俺はもう一仕事してくらぁ」

元親はひらひらと手を振って、どこかへ行ってしまった。



「長曾我部殿は、アニキと呼ばれるだけはあるな!!」
「素直な馬鹿とも言える」










■■■■■■■■
ここの管理人て、お風呂好きだよね〜と思った方
口に出さずに心の中で思うだけにしましょう。

次の話の展開が目に見えるぜ…すいませぬ…

元就はもう少々お待ちを…