掃除はもういいと言われたが、掃除以外は何も出来ることがない。

元親にそう言ったら、なら俺の小姓になれと言われるし、はどうしたらいいか判らなくなってきた。

ということで、残りの船旅は壊血病の方をつきっきりで看病することにした。

といっても元親は暇になるとやってきて、小姓になれと言ってきた。



「政宗にいくらで雇われてんだ?倍額出す。」
「アニキ、もう古傷が開かなくなってきましたよ。良かった」
「本当か!?おい!!いつまで寝てんだ!!こいつにお礼いいな!!」


でも元親は小姓がどうとかよりも家臣が大切なようです。
話を病気のことに変えるとすぐ食いついてきます。

そんな元親には好感を持っていた。

「ん〜…アニキ〜…そんな大声出さないで…眠い…」
「てめえら!!そんなこと言える余裕があるなら甲板に出ろォ!!」

はそのやりとりを見て、クスクス笑った。

「〜…女々しいんだよ!!は!!それでも男かァ!?笑うんなら豪快に笑え!!」

元親は頬を赤らめて視線を泳がせた。
は、ニッと笑った。

「へい、アニキ!!」
「おう、その調子」

元親が大きな手での頭をわしわし撫でた。

は頼れる元親にいっぱい甘えたくなったが、立場どころか性別まで偽っている自分に罪悪感を覚えてしまって、そんなことは出来なかった。

心の中で、ごめんなさいと呟いた。



「…あのよお」
「ん?何?」

元親が手を止めて、突然切なそうな顔をした。

「アニキ?どうしたの?」
「四国着いて、積荷をおろしたら、あんたらを送ってやろうと思ってたんだが…」
「ありがとう、アニキ。それで?」
「ちいと、足止めくらいそうだ…なんでか判るか?」
「…戦?」
「違う。船が出せなくなりそうなんだ」
「あー…ええと…」

は季節的に台風が来るのかなと思った。
しかし、台風と言っていいのか判らなかった。

「嵐がくるの?波、大荒れ?」
「そうだ。ほら、やっぱり俺の小姓に」
「その話はやめ!!そっか、なら仕方ないね…でも少しの間でしょう?」


…嵐が来るなら仕方ない…
…ううう…慶次…小十郎さん…佐助に小太郎ちゃん…あああ信玄様…!!
ごめんなさい…迷惑かけて…!!


「規模によるがな。んで、そのことをあの二人にお前から説明してくれねぇか?お前の方が、あいつら信用するだろ」
「元親が言ってた、とは言うけど?」
「それでいい。俺が言って、お前が納得して、あいつらに伝わるって過程がありゃいいんだ。ちゃんと理由があれば、変な誤解は生まれねぇだろ」
「……」


何故だか、ずいぶんと信用されてしまったなあ…
そんなに頭良くないんだけどなあ…


「判りました。今夜伝えます。」
「おう、頼んだ。別にてめえを帰したくなくてんなこと言ってるわけじゃねぇぞ」
「……」
う、うん。そういう風に言わなきゃいいのに…


「なあなあ、
「はい、どうしました?」

寝ている方がにこにこしながら話しかけてくださいました。

「アニキは、俺たちみんなの憧れだ。すごくカッコイイ」
「おいおい…本人目の前に言うな…照れるぜ」
「知っておりますよ」
「!!…」
「一緒に居りゃ、絶対惚れるぜ」
「はい、判ってます」
「お前らなァ…」


元親だけが照れて、あとはみんなでにこにこ。

ほのぼのした空気に、は癒された。










「嵐が来る?Really?」


二人に伝えると、予想通り、政宗は明らかに疑いの目を向けた。


「うん、だから少しだけ四国にいなきゃならない」
「政宗殿、それは本当ではないのか?そんな嘘をついて某達を騙そうとするとは思えぬし、甲板に居た者たちも、空を見て、嵐が来ると言っていた」
「…そうだな。しかし、なんでに先に言うんだ…」

政宗がを鋭い目つきで見つめた。

「あはは、ちょうど居たから、かな…」

ずっと一緒に居たとか、信用されちゃったよ〜などとは言えない。

「…なら、四国に着いたら忍を借りよう。文で知らせぐらいはしておかないと…」
「だな。、小太郎、嵐の中でもブッ飛んでくるぞ」
「嬉しいけど風邪引いちゃうよー!!」

容易に想像ができた。


政宗が後頭部で手を組み、ごろんと横になった。

「それで四国とはおさらばだ。ah〜…帰ったら書類たまってんだろうな…」
「うん。みんなに会える!!…でも…元親と、さよならか…寂しいね」
「え!?!?」

幸村が驚いて、政宗が目を細めた。

「二人は寂しくないですか?」
は、元親殿のような海の男が好きでござるか…?」
「は?いや、海にはこだわりませんが…」
「俺は、海の男にはなれない…」
「ゆ、幸村様?」

幸村が俯いた。


「・・・お館様ー!!って元気な幸村様も大好きですよ?」

「!!!!その言葉に偽りはなく!?」

「ええ」

「聞いたか!?政宗殿!!」

、俺は?」

「異国語を無駄に使うあたり大好きですよ」

「むうううう〜!!政宗殿になかなか勝てぬ〜!!」

「…今無駄とか言った?」

「さて、そろそろ寝ましょう!!」

、今俺のこと褒めてなかったよな?」

「おやすみなさい!!」

「ヒイヒイ言わすぞこの野郎…!!」

「な…!!に拷問など…何故それほどまでに堕ちたか!?政宗殿!!」

「そうじゃねえー!!Shit!もう戻ってきたんだから殿って呼べや幸村!!」

「う、あ、よ、呼び捨ての方が…親密な感じがして…」

「だからだよ畜生!!」


三人の夜は相変わらずだった。










元親は籠に入れたピーちゃんの寝顔を見ながら、考え事をしていた。

「ピーちゃん、頼むぜ…俺の独り言勝手に覚えるなよ…」

元親はに怒鳴ってしまい、さらに肩に痣をつけてしまった後、自己嫌悪に陥っての名前を部屋で連呼していた。

それを聞いたピーちゃんは、名前を覚えた。


最初に見たときから、女みたいな顔と体で、華奢で、船酔いでふらふらになるような奴で、にはアニキとしてのほっとけない根性を刺激されていた。


でも、与えられた仕事は頑張るし、自分を怒鳴りつけてまで意見を通そうとするし、…たまに、意志の強そうな目をしたと思ったら、悲しそうな目をしたり…


「…なんで俺はこんなにあいつが気になってんだ?」

の知識も異常だ。
なぜ判るんだろうと疑問になる事まで知っていて…


「ああ…やっぱり欲しいなあ……良い航海士になる…いや、手際いいし、医者の素質もあるなあ…政宗の異国語も理解してるみてぇだし…叩き込めば何にでもなれんじゃねえの…?」


明日には四国に着く。
その後嵐が過ぎ去って、本土に送るまで…
まだ、時間はある

「…マジに、なろっかなあ…本当欲しい…でもなぁ〜…いや、うん、欲しい。欲しいから仕方ねえ。隙あらば攻めよう。欲しいもんな…な、ピーちゃんだって、あいつ好きだよな?ようし!!」


元親は激しい独り言を自己完結で終え、布団にもぐりこんだ。


そしてピーちゃんは

起きていた。


………ホシイ…
「ん?何か言ったか?」
「……」











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元親が変な人になった
後悔はない(おまえ…