月が満ちる日も、は大学に行った。
政宗たちは家で帰りを待っていた。
息を切らして帰ってきて、男物の着物を着て、化粧をする。

「うわー!!ねえ!?どうすればいい!?男の子?どんな!?」
「一重にしたほうがいいんじゃねえか?」
「むりだっつーの!!アイライン…きつめに…眉?眉はいつもよりきりりとしてみるか…」
、唇をもっと薄くしたほうが…」
「むりだっつの!!」

二人の意見は役に立たなかった。

髪は適当に縛って、鏡の前に立つ。

防弾ベストはやはり着ておく。
最初は政宗か幸村がしたほうが良いのではないかと思い、言ってみたが、必要ないと言われてしまった。
気遣ってくれているというのは、判っていた。

「大丈夫かなあ…」
「うわ、胸がねえ。どんだけ潰した?」
「出来る限り」
「さらに小さくならない事を祈るぜ」
「さらにってなんだむかつくわー!!」
「政宗殿!!は手のひらで覆える程であるが、柔らかいから良いのでござる!!」

……

「あれ?」
「「……」」

幸村の言葉はフォローになっていなかった。

というか

二人を一気に敵に回した。

「いつ揉んだ?」
「も、揉んでなどおらぬ!!は、よく俺にしがみつくから…大体の大きさは…」

「…幸村さんは、そんな人じゃないと思って…」
「えええええ!?ちょ…それはないでござるよ殿ー!!」
幸村をいじるのもほどほどにして

は黒いヒップバッグを腰につけた。
すごく和洋折衷だが、気にしていられない。
中には包帯や三角巾や消毒液、ミネラルウォーターなど、使えそうなものは詰め込んだ。

あと、密かに水族館で買った、小さい小さい、ペンギンとサメの陶器の置物も。

こっそり城に置いてやろうと考えていた。

政宗と幸村はすでに装備を整えて準備万端だ。
その二人と並ぶと

「・・・・・・うう・・・男に見える・・・?」
「いつもよりは」
「うむ・・・大丈夫であろう!!自信を持つ事が一番大切だ!!」
「はい・・自分は男だと言い聞かせます・・・」

そう言っても不安で、つい手を口元に持ってきてしまった。

「おい、男になんだろ。しぐさ気をつけろ。」
「はい!!かたじけない!!」

背筋をぴんと伸ばした。

「ああ、お館様の元へ…」

幸村さんは祈りだした。

もう月は出ている。

〜』

爺さんが天井からすっと現れた。

『今回はあまり一緒に居られなかったのう…、無事帰って来い…』
「爺さん…」

政宗と幸村がその言葉に反応しての視線の先を追った。
もちろん見えなかったが。

「ジイサン、のことは俺が守るから安心して成仏しな」
「某も守るでござる!!氏政殿、心配なさるな!!」

『小童が…何を言うか…』

爺さんは少し泣きそうな顔になった。
私が向こうに行ってしまったから、爺さんが生きた時代と、私が経験しているものが同じものだとは思えないけど、面識があるのかもしれない。

爺さんにとって二人は敵だが、同じ時代を生きた仲間だから、会えて嬉しいのだろう。

「…爺さん、行ってくるよ」
『うむ…』

爺さんとねねさんはどうなのだろうと、ふと思った。
ねねさんは爺さんのこと知っていたし。
時々会って、話したりしているのだろうか?

そう考えてると、また別の疑問が

…現代に

政宗さんと幸村さんの霊は居たりするのだろうか…?

「…」

二人の顔をこっそり見る。

…成仏してそうだ。


「それにしてもいつ迎えが来るかわからねぇってのは落ち着かねえな…」
「政宗さん準備おっけー?あ、辞書…」
「すでに」
政宗が懐から英和辞典を出した。

「政宗殿、から頂いたのか?」
「羨ましいか?」
「う、うう…」
幸村が人差し指を唇に当てた。

「幸村さん、何か欲しいものある?あるなら持ってっていいよ?」
「え、本当か!?」
「うん」
「じゃ、じゃあ…」

幸村さんは迷うことなく

「これ…」
取り出したのは

「…え?ライター?」
「…ら、らいたあ?」

お菓子とかかと思っていたので、不意をつかれた。
いつだったか友人がうちに遊びに来て忘れていったジッポだ。
「ダメでござるか…?なら別の…」
「ううん、いいよ!!ぜひ!!」
机の上に置こうとした幸村を止めて、手に握らせた。

「ありがとう…殿」
「いいえ」
お互い笑い合う。

まだ迎えは来ない。

、ちいと暇つぶししねえか?」
「暇つぶし?」











はベッドに寝そべって考え事をしていた。

「今日、居なくなるのか…」

昨日、政宗と幸村は礼と別れの挨拶をして去っていった。

、寂しくなんだろうな…」

明日会ったら慰めてやろう。

俺が泊まりに行ってやろうか?とふざけた口調で言ってやろう。

〜♪

携帯が鳴る。

これは、俺が一番反応する音だ。

「も、もしもし!?」

携帯に飛びついた。

「どうした?!こんな夜中に…おいおい、寂しくなったか?家行ってやろうか〜?」

―おい、いつまでそんな軽い男でいるつもりだ?

聞こえてきた声は

「…へ」

伊達の声。

―外、見な。

言われるまま、カーテンを開けると

「…!?」

外灯に照らされた、三人の姿。

おかしな格好で。

「着物…?なんで…」
会話は携帯で続けた。

「俺と手合わせした事、誇りに思いな」

が初耳だ!と言う声がした。

「独眼竜、伊達政宗…知ってるか?」
「…伊達政宗…?って、戦国時代の…」
「ご存知とは光栄だ。…俺のことだ」

…何を言っているんだろう。この男は。
子孫というならまだ判る。
なのに、本人だと言っている…?

「こいつは真田幸村。知ってるか?」
「ちょっと待ってくれ…お前、何を…」
「本気になるなら今のうちだぜ?不戦敗はもう懲りてるだろう?」

が首をかしげた。

幸村とは何となく察しがついた。

今までの出来事を考えると

伊達が言ってる事が本当だとすると

でも、頭の半分が否定する。
そんなわけない
そんなの、ふざけた話だ

「じゃあな」
「おいっ…!?」

三人の姿が消えた。
は何か言いたそうに口を開いたが、声を出す前に消えてしまった。

「おい…」

  選ばなかったほうにはもう一生行く事が出来なくなってしまう…

「…過去か、今か、選ぶっていうのか?」

そんなのおかしい

「おかしいじゃねえか…俺たちは、今生きてるんだろう!?」

カーテンを握り締めた。

「天秤にかける以前の問題だっ…」

  そのどちらにも、自分の大切なものがあるんです

「…っ」

目が潤んでしまった。
涙を流すなんて何年ぶりだろう

落ち着け

落ち着こう

「…重くなればいい」

そうだ

不戦敗なんて馬鹿げてる

気付けてよかった

「別れの挨拶無しに、去るような奴じゃない」

今気付けて良かった

「…待ってる」

もう通じていない携帯を握り締めた。









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あれなんだか友達が出張りすぎたね逆トリップ
そんな予定ではなかったはず…まあいいか…
ギャグ夢と言い張ってるくせにギャグが少なかったなあ…
次の編こそ!!