道場の前に三人が座り込んでた。

ぱっと見ガラ悪い。

けど

!どこへ行っていたのだ!?心配した―!!」

私を見つけた幸村さんは安心した顔をして駆け寄ってきた。
可愛い…

「遅いっての!!」

政宗さんもそばに来てくれた。

「ごめんね」
「…まぁ、来るとは思ってたから別に良いが」

「どーせだべってたんだろ?」
が笑いながら立ち上がった。
「うん、まあね…、お金…」
「へーい、立て替えといたからな―俺にくれ。毎度どうも」
きっちり渡して、帰路につく。
今日ははバイクだった。

「…」
「…伊達」
メットをするを凝視している。

「いいなぁ、あれ…」
「…買ってやらないからな。いくらすると思ってるんだ」
「乗りてぇ…」
「免許なきゃだめなの!!」

幸村さんと一緒に引っ張って、家に戻った。




今日はいっぱい動いておなかがペコペコだというので、カレーを作って出してみた。

「よい香りだ…うまい」
「小十郎の野菜で食ってみてえな」
「あ!いいなぁそれ!食べたいね―!!」

雑談をしているが

そろそろちゃんと真面目に話さないといけない。

それは全員判っていた。

「…何か良い案、浮かんだ?」
幸村さんがくわえていたスプーンを皿の上に置いて、真面目な顔をした。
「祭りがあった次の日に行き着くのだろう?…たどり着きたくないのは中国だな」
「中国…毛利?」
「…あ〜、そういや耳にしたな。」
「何?戦?」
どこで起きていてもおかしくないが、それほど嫌がるなら大きな戦が…

「ザビー教絡みって言や判るか?」
「…ザビー?」
「竹中半兵衛がうちに来ただろ」

ぴんときそうでこない。
には情報が足りなかった。

きょとんとするに政宗は仕方ねえなと呟いた。
「ありゃ俺がザビー教とやらの情報を得るために招いた客を、豊臣が間違って殺しちまったんだ」
「うん…」

殺しの話は慣れないが、それが戦国の現実なんだと言い聞かせる。

「俺らも表面上は怒ったけどな、正直喜んだぜ。豊臣に遠慮なく文句が言える。俺は向こうの文化に興味があるからな。純粋に物に興味があったで通せる。あっちに非があるんだから文句は言わせねえ」
「けど、一番怒るのはその…ザビー教?の方々だよね…?」

政宗さんがにやりと笑った。

「あぁそうさ。奴らははちきれんばかりに真っ赤に膨れ上がったそうでね…すぐに大阪城に向けて進軍したそうだ、が」
「船で瀬戸内を渡ってしまったのだ…」

幸村さんが呆れたような顔をした。
政宗さんが心底おかしそうに笑った。

「四国の鬼がいりゃあ、あいつらはミンチになってたな…頭に血が上った馬鹿な神父様は行く手を阻んだ毛利に攻撃したらしいぜ!奴らに海上で戦いを申しこんで…今は毛利の水軍に総攻撃食らってるだろうよ!」
「…政宗さん」

初めて見た、残酷な笑いだった。

「できることなら甲斐が良い…政宗殿とのことは、責任を持って送り届ける」
「…幸村さんに賛成。幸村さん一人が奥州に来たら、なんか不安…」
「そうか?まぁ、そうかもなぁ…じゃあ信玄公を思い浮かべればいいわけだ。前田慶次のことは落ち着いてからだ。OK?」
「はい」
「うむ」


それが戦国の現実なんだと

…納得できなかった。





洗い物を終えて、部屋に入ると
「ありゃ?幸村さん寝た?」
「ぐっすりだ」
ベッドで大の字に寝ころぶ幸村さんを、政宗さんが親指で指した。

「今日は幸村さんがベッドか。じゃあ政宗さんは布団ね。今日は早く寝よっか」
大きな欠伸が出た。
疲れた顔をしないためにも早く眠りたい。

「俺にヤられないよう気をつけて寝ろよ」
「あ〜、はいはい」
冗談は聞き流すこととする。

電気を消して、横になる。

クッションを枕代わりにして、毛布にくるまった。

「?」
視線を感じる。

目を開けると、こちらを向く政宗さんが

「…こっちに来い」
「この状態で寝るのはもう慣れたけど?」
「いいから」
「?」

起きあがって、毛布にくるまったまま政宗に近づく。
政宗が手を伸ばしてを布団の中に引き入れた。
は抵抗せずにそのまま横になった。

「朝の目覚めは幸村さんの破廉恥―!って叫び声だ…」
「だな」

すぐ隣で寝るのは初めてではなかったが

「!!」

政宗に抱き締められて寝るのは初めてだった。

「ちょ…破廉恥!」
「うるせぇよ」
政宗の手はに添えてあるだけ。
は警戒を解く。

「…、何か俺に言いたいことがあるんじゃねぇか?」

政宗がを抱き締めたまま耳元で囁いた。

「…俺のことが怖かったか?そう感じたならそう言え。遠慮するような関係でもないだろ?そう思うことが有って当然なんだ。」
「当然…」
「ああ、当然、だ。1人で頭で考えてんじゃねえよ。文句があるなら俺にぶつけろ。お前が満足するまで口論してやるからよ」
「…」

は眼を閉じて思った。

あぁ、そうか

政宗さんが私を抱き締めるのは愛情でもセクハラでも何でもなくて

私が逃げないように、なんだ…


「…文句、じゃないんだけどさ」
「なんだ」
「もし、初めて会ったときに私が怪我しなかったら」

政宗は黙って聞いた。

そこまで言えば、その先続く言葉は予想がついた。

「私、北条の者だって決めつけられて、殺されてたのかな」

政宗さんに


「そんなわけねぇな」
「!!」

あっさりと返事を

殺す気はなかったのだろうか

やっぱり政宗さんは優しいんだ

さっきの笑いは、政宗さんの武将の部分が少し見えただけ…
「知ってることをすべて吐かせてから、だ」

は目を見開いた。

「え…?」
「安心しな、俺はお前の顔は好きだぜ。それは最初からだ。顔は殴らせねぇよ。腹蹴り付けて踏みにじって、四肢に数え切れねぇ切り傷つけて、てめえの絶叫を肴にして酒を飲むんだ」
「…政宗、さん…?」

「てめぇの粘膜がズタボロになるまで犯してたかもしれねぇな。こんなに抱き心地が良い」

政宗が腕に少しだけ力を込めた。

はそんなことをする政宗が想像できなかった。

同時に、そんなことをされる自分も

「…っ!」
なのに、吐き気がした。

口で手を覆うと、わずかに指先が震えていた。

そんな自分に驚いた。

もしもの話に、これほどショックを受けるなんて

「…けど、俺は思う」

何を?とは聞き返さなかった。

「お前は俺を信じさせる。そんな状況だったとしても、お前は必死になって俺を説得するんだ」

それは

私を高評価しすぎだよ…

「…無理…だよ」
「そんで今みたいな状況になるんだ。一緒に笑えるようになるんだ」
「…痛いのは怖いよ…泣き叫んで…許しを乞うことしかできない…」
「一緒に城下へ行ったり、一緒に夕食を作ったり、鷹狩りに出かけたりするんだ」
「…っ政宗さん!!」

耐えられなかったのは

政宗さんが理想を私にぶつけてくるから

「何でそんなこと言うの…」

声が震えたが、構わず続けた。

「政宗さんは、私に何を望んでるの…」

何かを試されてるように感じたんだ

「…俺は」
「殺されそうになっても、自分を見失わないでいられるかなんて、自信ないよっ…!!私は政宗さんが思ってるような人間じゃないし、そんな人にはなれないっ…!!」

「…お前に、愛されたいだけだ」

くるまっていた毛布をはがされて、政宗がを組み敷いた。

「…俺はな、
息が顔にかかる距離でつぶやく。

「お前が未来の女だろうが、敵国の姫だろうが、忍だろうが、神だろうが、そんなことはどうでもいい」

「政宗さん…?」

「俺は、それだけなんだ」

政宗の指がの指に絡みついた。

「…お前に愛されたい。なぁ、これが俺の気持ちのすべてだ。おかしいか?おかしいよな?普通なら愛してると囁くんだろう?愛してるから愛してくれと言うんだろう?おかしくて笑えるよな」

「…政宗さん…」

なんて

なんて幼稚な感情

愛されたいだけ?

自分から愛する事なく?

なんて調子のいい


…それは、トラウマ、なんだろうか

愛することが怖いのだろうか…?

「なあ、受け入れてくれよ…俺とお前は今こうして出会ってこうして一緒に居る。もしもの話なんてどうでもいいじゃねえか。俺は敵じゃねえんだよ。敵になるかもしれなかった、というだけだ。過ぎたことだ。いいだろう?そうだと言えよ。俺にどんな事されても屈しなかったと。最善を尽くして乗り越えたと。それで、今のようになって…」

「……」

言葉を発せず、ただ政宗を見つめた。

「…言うつもりはなかった。こんなこと。悪いな。こんな自分勝手なこと言って。」
「…大丈夫…」
「…俺、よく、判らねぇんだ…恋だとか…。人の気持ちなんて不安定なものだ。でも、お前には…」

続きは

「…お前、には…」

発するのが躊躇われて

「悪い…」

そう言って、の上から政宗が退いた。

「…政宗さん」
「なんだ?」
政宗がの横にごろんと転がった。

は、政宗の言葉に対する答えを持ってなかった。

だから

「そばにいるよ」

今判る事を
今出来る事を

「…もう一回、抱きしめていいか?」
「…聞かなくていいから」
「…そう、か」


政宗がの背と後頭部に手を回した。

はぎこちなく政宗の胸に手を当てた。


慶次みたいに恋というのはね…なんて語ることなんて出来ないから

形は人それぞれ違うものだから

政宗さんには政宗さんのものがあるから

だから


「…判らないんじゃなくて、探したり、ふと気付いたりするもんだと思うんだ」
「そう…だな」
「私でよければ付き合うよ」
「…いいのか」
「うん、一緒に探そう。あとね、」

目を閉じて、思うのは

「…?なんだよ?」
「…なんでもない。小十郎さん、元気かなあって」
「ふざけんな!!俺の胸ん中にいるくせに小十郎のこと考えんのか!?」

政宗は本気で怒っていなかった。
の言いたい事が判っていたから。

小十郎は、"安定"だ。

政宗のそばには、小十郎がいるって言いたかったんだろう。

「……あのな、でも、俺は…」
「なに?」
「……お前、も…」
「…ありがとう」

こんな風に望まれる事ほど嬉しい事はない。
愛してくれとだけ言われても、こんな態度取られたら憎めない。

どうせ一緒に探すなら

少しくらいは似てるといいね

そんなことを考えて、自分はやっぱり馬鹿なんだなと思う。

こんなんだけど、政宗さんの気持ちが聞けて嬉しいなんて。

政宗の胸に耳をあて、規則正しい鼓動を聞きながら眠りについた。







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政宗に問題発言を
させてすいません。本当すいません。
政宗落とすには時間かかりますよお嬢さん!!
…すいません、とっても反省してます…