今日も道場で

二人で稽古をしているが

「「……」」

いつもと違うことが一つ。

道場の入り口付近にが壁にもたれ掛かって、二人を見ている。

さっきからずっとだ。

真面目な顔で。

大学は今日は無いのか?とか、お前もやるか?と話しかけても気にするなと言うだけ。

少し集中出来ずにいた。

「真田、ちいと休むか?」
「うむ…」

の横を通り過ぎ、外へ出て自販機でにこれを飲めと言われたものを買う。(買い方は教えてもらった)

玄関先に座って、飲みながら会話する。

「おい…あいつ何だ?俺たちを怪しんでるのか?」
「いまいち何を考えてるか判らぬな…」

言葉を当てはめるなら、何かを迷っているような

何を?

に関係することだろうか?

「くそ…気分が悪い。直接聞くか…」
「何か事情があるのかもしれぬしな」

道場へまた向かうと

は剣道着に着替えて準備体操をしていた。

「おう!休憩はもういいのか!?」

「…何してんだ?」

「見て判んない?なぁ!どっちでもいいから俺と勝負してくれよ!」

にっこりと、いつもの人なつこい笑み。

「…本気か?」

こいつは体格は良いが、俺たちと戦っても勝てないだろう。
手加減が居る。
しかしそれは相手に失礼だ。

「頼む。」
「…。」
急に真面目な顔になる。

「伊達、ここは俺が。」
「いや、俺がいく。」
一歩踏みだそうとした幸村を政宗が止めた。

「ありがとな。」

が竹刀を持ち、構える。

「へえ…」

未来の人間は弱いとばかり思っていたが

目の前の男は、良い雰囲気を持っている。

どちらからともなく、竹刀を振る。

互いに防具をつけずに。



は執拗に政宗の右の死角を狙う。

力はあるが、経験の差は圧倒的に政宗が有利で

しかも

「…腕、どうした?」
「…」

は腕をかばっている。

政宗が一際強く竹刀を振り

「っ!!」

の手を打ち、竹刀を落とした。

竹刀が床に落ちる。

は叩かれた手を押さえ、政宗は全身の力を抜いた。

「ちぇ…あんたくらいの奴とやりゃ…腕のことなんか気にしてられなくなるかなって思ったのによ。」
「そりゃ失礼なことをしたな。」
「いぃや。俺こそ最初からあんたにはかなわないって思いながらやってた。失礼はこちらこそ。」

幸村がぺたぺたと近づいてきて、心配そうな顔をした。

「…左腕…どうなさった?」

「はは、いやぁ…」
「言えよ。これも何かの縁だろ」

政宗が腕を組んで顎で促した。

は困った顔をして右手で左上腕を押さえた。

「骨、折られたんだ」
「誰に…?」
「高校の時の全日本大会でさ、俺が次勝てば準決勝いけるって時に…はは、笑えるよな…初戦で相手した奴らが腹いせにさぁ…俺が一人で居たときに、集団で囲みやがって…」

声は悲しそうだが
瞳の光は強かった。

「弱い奴は束にならねぇと何にも出来ねぇ…大っ嫌いだね。けど何よりも嫌なのは、竹刀握ると思い出して怖じ気づいちまう自分だ…もう治ってるのによ…」

「…」

悔しそうに拳を握る。

こいつは

のそばにいるだけはあるな…

「バカか。てめぇ、きっかけなんかお前のすぐそばにころころ転がってんだろ」
「…爺ちゃんに相談したって、ガキ相手にしたって…」
「お主のそばには、が居るであろう…」

言いたくなかった言葉だが。

「は?ちょ…何言ってんの?話判んない」

政宗はじれったいと思う。
しかしそれは自分にも当てはまることで

「お前、が好きなんだろ」

の顔がぼっと赤くなった。
幸村並みだ。

「へ…」
「見てりゃあ判る。の前じゃあ、にやにやしてよ…好きならの事はお前が守れ。この世界にいるときは」
「世界…って?」
「俺たちはずっとと一緒には居られないからな・・・」
「そりゃそうだろ…社会人ですよね?」

顔が赤くなりながらは疑問符を頭上にいっぱい浮かべた。
「くだらねぇ理由だっていいじゃねぇか。に良いとこ見せたくて竹刀を振ったっていい。そのほうが効果的なんじゃねぇの?」
「伊達…兄さん」
「兄さんじゃねぇ!交際は認めねぇ!!」
「伊達!兄さんぽくなってる!!」

政宗は一度深呼吸をして落ち着いて

は…今、おかしな事に巻き込まれている」
「…が?」
が不安になったときは、お前が支えてやれ!」

この男は純粋にが好きなのだろう
なら、こっちにいるときはのそばに居てやって欲しい
へらへらしてはいるが、に心配が無いことなんて絶対に無い

…悔しいが、が少しでもたくさん笑えるように

「…そっか」
「交際は認めねぇ!!」
「何も言ってねぇよ!!…あのさ」

が苦笑い。
やな予感がした。

「あんたら従兄弟じゃねえだろ」

「まあな」

正直に

「いいのか?伊達…」
「いいだろ。なぁ?」
「あぁ。あんたらだってが好きでしょうがないんだろ?居候」

「…」
「好きでござる!」
「真田ぁ!?」
幸村が政宗を押し退けて主張した。
「俺は伊達とは違う!が好きとはっきり言える!」
「真田てめぇ…俺だってな…」

「あぁ、いいよいいよ。これは早いもん競争じゃないだろ」
が肩をすくめた。

「…だけど、負けねぇよ?」
「ふん…良い眼してんじゃねぇか」

政宗が満足げに笑った。

が竹刀を拾った。
「ま、の前では従兄弟って事で。嘘に騙されてやろうじゃないの」
はお主を騙そうとしたのではなく、俺たちを心配して…」
「なに言ってんだよ。好きな女のこんな嘘なら喜んで聞くっつーの」
「そうか…」

好きな女とはっきりと

政宗は眼を伏せた

俺はどうだ?

が好きか?

好きだ。

大好きだ。

…だが、この感情は恋と言うより…


「っつかさぁ、あんたら不思議だよな」
その言葉に反応して政宗が目線をに。

「不思議?」
「ん〜、なんつーか、一番思ったのは伊達と相手したときだけど、不安定っていうか」
「不安定?何が」

は言いづらそうに

「目の前にいるのに、なんかすぐどっか行っちまいそうな感じ…?ってーのかな…?」

言われて改めて

自分達はのおかげで存在してるんだと確認させられた。

「そういや、遅いな、は」
「え?」
「もう講義終わってるはずだけど」





「うおおお何て女子大生だよ私はよ…」



墓場にいた。

「ここにいると霊感強くなりそうな気がするんだよ、タロウ」
『ワン!』

は体に沢山の火傷がある柴犬に話しかけた。
自覚ありの不思議ちゃんだ。

「最近頭ぼーっとしちゃって…疲れる…体だるい…」

自分への負担が大きい。

は墓地を囲む塀に寄りかかってただ過ごしていた。

「ん〜…強くなったって言われても、いまいち…今までよりうっすらとしか見えないなあ…まあ、それはほかの事に使ってるからだろうし…」

霊が見える上に政宗さんと幸村さんの二つの体。

は今まで坊さんに弟子入りしなかったことを後悔した。

もしかしたらコントロールできるものかもしれない。

視覚は抑えて、政宗さんと幸村さんだけに力を注ぐ…で負担を少なく、みたいな。

今は力だだ漏れの状態だろう。

…力、と表現できるものかどうかはさておき。

「見ちゃうのは逆効果かな…?でも、おらに力を分けてくれ〜!ってやつだ。頼みます幽霊様!私に力を!!」

『クゥン…』

タロウが耳を伏せて尾をだらんと下げた。
無理らしい。

「…だよね」

諦めて道場に向かおうとしたとき

背後から

『うらめしや〜』
「裏飯屋?」

振り返ると着物着た女の人が

『違うわよ萎えるわね!!恨めしいって!』
「すいません、あまりにベタで…」

とりあえず頭を下げて謝る。

『あなたが噂の北条の知り合いね?』
「氏政爺さん?」
『そう。ちょっとあなた有名よ』
「有名…?」

見えるから?

女が眼を細めて意味深にほほえんだ。
『あなたに頼めば救われるって』
「冗談じゃない」

自分すら救えないのに

『北条は誤解とくのに必死になって毎日演説してるわよ?感謝しな。北条が居なかったらあんたに霊が集団で襲いかかってるわ。助けてくれって。まぁ、北条のせいでややこしいことになってるらしいけど』
「…」

通りで最近見かけないと思ったらそんなことを…

「爺さんには、本当に感謝してる…」

過去でも今でも

しかし、それを私に言いに来るこの女は誰だ?

「あなたは誰?」
『私はねね』
「ねねさんね。ねねさん…ねね…ねね?ね、ねね!?」
『なあに?そんなに覚えづらい名前じゃないでしょ?』

ねねって…

秀吉の妻で、慶次が恋した…

女は黙って見つめるの隣に座り込むようにした。
若干地からは浮いている。

慶次の話を聞いたときにイメージした女性とは違った。

可憐な方だと思ったら、結構姉御肌だ…

『もしかして私の事知ってる?』
「ねね、さん…豊臣秀吉の…」
『当たり!』

にっこりとねねさんは笑った。

この人は、秀吉に殺されて…それで…

「…あなたは、助けて欲しいわけ?」
『まさか。自分でも何でここにいるのか判らないのよ』
「そうなんだ」

私を見つめる眼はとても輝いてる。
悔いなどなさそうなのに

『私よりもあなたのが死人みたいよ』
「え?」
『疲れた顔してるわ』
「…う」

ねねさんが私に顔を近づけた。

小顔で綺麗な顔。

羨ましい…

『知らないの?生きてる人間は睡眠を取るのが一番いい休み方なのよ。幽霊に力もらって回復しようだなんて、あなた馬鹿ね』
「…もっともだ」

見られてたのか。
恥ずかしくて顔が赤くなった。

『ふふ、じゃあ特別に』
「!?」
ねねさんが私の頬に自らの頬をくっつけるようにした。
いまいち感覚はないが。

『元気がでるおまじないよ。体があれば良かったのに…』
「おまじない…」
『私が考えたのよ。なぁに?不満?』
「…ありがとう」

女同士なのに変なの

少しドキドキした

体があってされたら慌てて騒いでる

『あら?効いた?良い顔してるわ』
「効いたよ!ねねさんは誰にしてたのよこんなこと!秀吉さんに?」
『あの方は私に決して弱いところを見せなかったわ。そんなことしたわけない』

じゃあ…

…慶次には?

……聞けない…

『あなた帰らないの?』
「え!!今何時!?」
『さあ?』
「えと…わ!!もうこんな時間!!私行く!じゃあね!ねねさん!!」

鞄を持って、手を振って墓地を出た。

『…なぜかしら』

タロウがねねに擦り寄った。

『もう会えない気がするわ』











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お友達のお話。
こんなお友達いませんねすいませっっ…!!
嫉妬でなく、主人公ちゃんの支えになってほしいなってちょこっと同志みたいな、そんな感じに関係が変化するのが書きたかったんだ…
展開早くてorz…

そしてねねさん捏造すいませんすいません…!!