鍵を開けて、扉を開けて
「ただい…ま…」

語尾が小さくなって、気恥かしさに下を向く。

マンションにただいまと言って入ったのは久しぶりだ。

何気ない一言だが、家に誰か居るのは嬉しく感じる。

「…っと、そうしてる場合じゃない…」

中に入ると、政宗と幸村は規則正しい寝息をたてていた。
苦しそうな表情はすでに無い。
なぜか幸村はベッド近くに敷いてあるラグマットの上だが。

…政宗さんに蹴られたのだろうか?




氏政がの名を呼びながらカーテンの方からすっと出てきた。

「おう、爺さん、異常はなかった?」
『ああ、ぐっすり寝ておったわ』
「そっか…って、どこ行くの?」

そう言うとに背を向け、ふよふよとどこかに行こうとしていた。
『ご先祖様に、ちゃんと説明してもらいたくてのう…一体何 が起きているのか…』
「ねえ、ご先祖様って、一体どんな感じなの?言葉喋るの?」
『いや、何と言うか…ばちっと、頭に映像が流れ込むかんじかの…』
「…」

小田原城で見たのは、ご先祖様が見せてくれたもの…?

「…それでなんで、ご先祖様って判るの?」
『血じゃ。ワシの血が、その瞬間、共鳴するように、煮え滾ったかのように熱くなる。そして何となく…判るんじゃ。』
「んん、そうか、じゃあそれは信じよう…」

氏政はにこりと笑い、外へと行ってしまった。




その後ろ姿を見送ったあと、部屋の隅に荷物を置いて、二人の様子を伺おうと振り返る。

殿…」
ゆっくりと幸村が起き上がる。
「ごめんなさい、起こしちゃった?」
近づいて手を背に添えて、体を支える。

「頭、まだ痛い?」
「大分、楽になった…」
「よかった…」

その言葉に安心して、手を離そうとするが、幸村が自分の手を重ねてやんわりとそれを阻止する。


「幸村さん?不安?大丈夫、私がしっかりするから…だから2週間、我慢して…」
「無事で、よかった…」


幸村がをゆっくりと抱きしめた。
「恐ろしかった…もし、慶次殿が間に合わなかったらと思うと…」

は最後に見た慶次の姿を思い出し、体が強ばった。
察した幸村がの背を優しく撫でる。

「慶次殿は大丈夫…殿…殿…すまぬ、本当にすまなかった…」
「どうしたの?幸村さん…なんで幸村さんが謝るの…?」
「某は、槍で殿を突いた…あの時の、明智の姿…某は…明智と同じように…」
「幸村さん…」
もう、気にしてないと思ったのに…

「某も、あのような姿を、殺気を、殿に向けたのかと思うと、情けなくも体が動かなくなってしまい…助けに、向かえず…殿を、受け止めることしか…」
「幸村さん!」

今度はが幸村の背を優しく撫でる。

「同じじゃなかったよ…違うよ!!」
「殺意に変わりはないっ…!!」
「幸村さんは、信玄様のために、人に殺意を向けたのよね?」

が少し離れて、幸村の顔をのぞき見る。
にやりと口元を上げた。

「あれは何というか…熱かったわ…もう、うざいくらいね…信玄様への愛に満ちあふれてたわ」
「へ…あ、愛?」
「明智はよく判んないけど、蘭丸君の邪魔した恨み〜ってわけでもなさそうだったし、とりあえず殺しとこうみたいな…なんかそんな感じ。ね?全然違う」
「う…」

あれだけの間にその様なことを感じ取っていたのか…?
それとも某を慰めるために…?


「幸村さんで、よかった」
殿?」
「森で会ったのが、幸村さんで本当に良かった…そう、思ってる」
…殿…」

まさか、そんなことを言われるとは思わず、挙動不審になってしまった。

「助けてくれたのも幸村さんだった」

幸村の手を握り、首の右側に当てた。

「幸村さんだったから、私は生きてここにいる」

細い首。
ドクンドクンと、確かな脈。

殿…」
「この話は、もう終わり。」
手が離れる。


「何か飲んだ?」
「え、いや、ずっと寝ていた…」
「そっか、何か飲んだほうがいいよね。お茶持ってくる!」

すたすたとは仕切られた奥の部屋に行く。


幸村はまだ寝ている政宗に目線を向けた。

「ま、政宗殿…」

ゆさゆさと揺さぶる。

「政宗殿、どうしよう・・・」
「…ん…んあ…?」

政宗が目をわずかに開ける。
だるそうに起き上がる。

「んだよ…」
「ど、どうしよう、政宗殿・・・」
「ha・・・?What's the matter?・・・なにか壊したのか?」
「い、いや、あの・・・」
「あァ?」

どうしよう・・・

某…

殿のこと、いっぱいいっぱい、好きでござる・・・


「政宗さんも起きた?はいはい、お茶」
「ああ、悪いな」
「かたじけない・・・」

政宗と幸村が周囲を見渡す。

「わけわかんねえ物がいっぱいあるな・・・」
「ん?まあね」
「何でござるかこれは?」

最初に聞かれたのはテレビだった。

「えっとね、これでいろんなものが見れるのよ」

リモコンを使って電源を入れる。
映ったのはニュース番組だった。
二人は音がした瞬間にビクッっと肩を震わせた。

やばい、可愛いぞ・・・

「どうなってんだ・・・」
「それで作動させるのでござるか?」

幸村にリモコンを渡す。
しばらく色々押して、チャンネルを変え続けた。

「・・・な、何がなんだか・・・」
「あはは、慣れだよ。慣れ!!」

政宗は再びきょろきょろと周囲を見回した。

「・・・ここが、お前の家か?」
「そうだよ〜。狭くてごめんね。一人暮らしだからさ」
殿、ご家族は・・・」
「別なところに住んでるの」
「ふーん。ならちょうどいい。説明しなくて済むな。ここに居ていいんだろ?」
「うん、もちろん!あ、それでね・・・」


買ってきた服を出して、ハサミを取り出しタグをとって渡す。

「これ着てみて!!」
「この時代の服か?」
「うん、とりあえず大きさが合ってるかどうかだけ」
あと見たいマジで見たいよ洋服の二人・・・

「着替え終わったら呼んで!!」
そわそわするのを抑えられない状態でとりあえず部屋から出る。
1DKに三人暮らしは狭い。




!!これでいいのか?」
「待ってました!!」

仕切りをばっと開けると

「わ、わわわ!!いいじゃんよ〜!!似合うじゃんよ!!」

政宗はさんきれいめに
幸村さんはカジュアルに

見事に着こなしてます!!

殿…」
「ん?何?着慣れない?」
「そうじゃねえ…悪くないんだが…」
「え?え?キツイ?」
ひどく言いにくそうだが…
何か配慮が欠けていたかな…

「…換えの、これ、ないのか?」
政宗さんが、腰を指差した。

換えの…
あ…
し、下着…

「ごめんなさい!!今から買って」

慌てて財布を持って出て行こうとしたが、名前を呼ばれて立ち止まる。

「待て、。俺らも連れてけ。この格好なら外に出て問題ないだろ?」
「へ…」
「外、見たいでござる!!歩きたい!!」
「う、うん!じゃあ行こう!…あ!靴!!サイズ判らないから買ってな…ついでに買いに行こう!!それまで草履ね!!」
平日昼間だし、そんなに人はいないだろ!!
気にしない!!

「よーし!!行こ行こ!!」
ドアを開けて、いざ出陣!!
ガチャ
「お?」
鍵をかけたら二人が反応した。
「朝の音はそれか」
「鍵の音でござったか」
「うん!しっかりかけないと、空き巣に入られたら大変だし!」
「ふん、守ってやるよ」
「…鉢合わせ確率低いけどね」

嬉しいけどね…








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男性ファッション誌を立ち読みして頑張って妄想したが
どんな服が合うか判らなかった…
漠然としか…
みなさんの好みで想像してください…