「ふがが」
「旦那、しー!!」

佐助は幸村を抱えて、近くの木に登っていた。

「明智光秀だ…こんな行事にゃ興味無いかと思ってたが…」
「む、あの者が…」
佐助が幸村の口を塞いでた手をゆっくり離す。
観察していると、慶次が二人を川原とは反対方向へ案内した。

「お、上手いことやったな」
殿達はどこへ…?」
「小太郎があっちの方に運んで…あ、いるじゃん、あの裏通り…ん?竜の旦那がなんか抜け駆けしてる?」
着物を渡しているのだろう。
「佐助、放っておいてやろう…」
今回だけは…



小太郎に裏通りに連れてこられた二人。
最初はいきなり引っ張られて怒った政宗だったが、すぐに状況を把握して冷静になった。

「あの人が明智光秀…白いな」
は見たままの感想を述べた。

「あのちっこいのは…」
政宗は目を細めた。
「えと…森蘭丸君だっけ?」
「…」
「顔を見られてるか?」
「うーん、どうかな…?」
「どちらにしても、会わない方がいいな」
こくり


「…」
政宗は手に持っている荷物を見た。

「…
「え…ぶっ!!」
ぼすんと顔に押しつけた。
「何!?」
「お前に」
「え…」
政宗が手を離し、が落ちる荷をしっかり受け止めた。
「ありがとう…開けて良いの?」
「着物だ。未来行ってから開けろ」
「着物?」
「男物だ」

と小太郎がきょとんとした。

「男装した方が、比較的危険が少ないと思ってな」
「ありがとう…」
「顔は化粧でごまかせ」
「はい…」

が荷を見つめた後、政宗と小太郎を交互に見た。

「どうした」
「?」

「私、いいんだよね?」

特に不安がる様子もなく、疑問を言う。
「小太郎ちゃんを探して、政宗さんを探して、いいんだよね?」

小太郎がの肩に手を添える。
政宗がの頭に手を乗せ、先ほどの自分の行動により乱れた髪を直すように優しく撫でた。

「当たり前だ」
こくり

「うん…ありがとう…へへ、政宗さんには、いろいろ貰ってばかりだ…次来るときは、何かみんなにお土産持ってくる」

政宗が口を半分開けたが

何も発することなく閉じた。


おぅ、楽しみにしてるぜ

てめぇの見立てじゃ不安だなぁ…

いつもの口調で言えることはいっぱいあるだろうに

ガラでもない

一番最初に言いたいと感じた言葉が


『お前が無事なら、お前が俺の隣に居てくれるなら、十分だ』


…誰が言うか

こんな、人に心配ばかりかける奴に
こんな、俺を惑わす奴に

「川原に、向かおう」
「うん!」
こくり

慶次達の姿が人ごみの中に見えなくなるのを確認してから、進む。

それを待っていたかのように、ちょうど幸村と佐助が横から現れた。

「さあて、風来坊が向こう行ってる隙に行きますか」
「慶次、こっち来れるかな…」
「慶次殿なら大丈夫であろう。皆、人が増えてきたゆえ、はぐれぬ様に」

花火を見に来たのか、昼間よりも人が増えている。
全員が頷いて、ゆっくりと歩みを進める。
空にはすでに満月が顔を出している。

見ないように俯いて進むの背を、後ろに居た政宗が肘で小突いた。

「笑え。馬鹿が。」
「お、おうよ!!」
「竜の旦那〜、もう少し優しく出来ないかね…っと、ここ、裏道入るよ〜」

上空から地理を把握したのか、佐助の道案内は的確だった。



裏道を進んで、小さい門を抜けると、小さい野原へ出た。
祭りの喧騒もわずかしか聞こえない。

川のせせらぎが、静かさを一層引き立たせている。

「こりゃ、いいところを教えてもらったもんだ」
「慶次にお礼言いたい…」
がそわそわしている。
いつ消えるか判らないのだから、それも当然だ。


出来るなら、小田原城のときのように

帰れなくて、泣いてしまえばいいのに


そう考えてしまい、阿呆なのは自分もか、と呟いた。

政宗と幸村が同時に。

「「……」」

気まずい。




「ここ!見えるぜ!花火!」
達がいるところとは反対側の、小さな神社に案内した。
嘘は言っていない。
本当に、ここからだって見える。

「ふーん、教えてくれて、あ…あ、ありがとうな…」
珍しく素直に蘭丸がお礼を言った。
「ありがとうございます…君もここで見ていきますか?蘭丸も、君が居たほうが良いようですし…」
光秀が余計な事を言う。
「な、な、そんなわけないだろ!!確かに、お前よりはいいけどな!!」
蘭丸も余計な事を言う。
断りづらい…

「はは!悪い悪い!実は俺、恋人待たせててさあ…」
「先ほどは、お一人でしたよね?」
「ああ、店で働いてる子だから、昼間は会えなくて…そろそろ仕事終わるはずだから、それから合流するんだ!ってわけで悪い!俺は行かなきゃ!」
「あんまり恋人恋人言ってると、信長様みたいになれないぞ!!」
「なれなくていいっての!お前もいい人見つけろよ!」
そう言って、慶次が走り出した。


「ちえ…なんだあいつ…女好きめ…」
「蘭丸…」
「なんだよ」

慶次が行った方向を見つめながら、光秀が口を開いた。

「慶次の、恋人、見に行きましょう」

まさか興味を持つとは思わなかった。
蘭丸が目を丸くして光秀を見た。

「花火は…?」
「慶次だって、愛する人と見るでしょう。もしかしたらここよりよく見えるところがあって、そこへ二人で行くかもしれませんね?」
「ず、ずるい!!」
「決まりですね」

二人が走り出す。
慶次の後を追う。

完全に姿を見失ってはいるが、町の人に聞けば素直に、慶ちゃんなら向こうに行ったよ、と教えてくれる。

光秀は舌なめずりをした。


花火が上がると同時に、恋人に鎌を振りかざしたとき

美しい花を咲かせる爆発音と

鮮やかな赤を散らせる断末魔と

どちらが慶次君の耳に甘美に響くのでしょうか














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後先考えず突っ走る明智。
すいません。