「政宗殿」
「文句あんのかよ。いいから買え。」
「政宗殿には息子がいらっしゃったのか?」
ガツン

呉服屋で政宗が幸村を盛大に殴った。

にだよ!」
「痛いでござる!なぜ殿に!?どう見てもこの着物は男物ではござらぬか!」

先ほどから眺めていたのは一般的な男物の紺色の着物。
サイズは小さめだ。

「あいつに、次来るときは男装させる。なら遊郭に売られる心配も、そこら辺の奴に犯される心配も少しはなくなる。」
殿が男装…できるのか?」
「あいつならやれと言えばやれる!化粧で何とかなるだろ。」
「体格で判ってしまうのでは…」
「ガキに見えればいい!」

なんと政宗殿…
昨夜あれだけ悩んで出た結果がこれ
しかも殿が居ないところでこっそり購入?
どうせ、殿に悪態をつきながら渡すのであろう…?
どれだけ素直でないのだこの男…

「うむ、そうでござるなぁ…では購入するでござるよ。この色でよろしいのだな?」
「あぁ、頼む。戻ったら金は返す。」
「いらぬ。殿が無事見つかったと、その報告を待っておる。」
「…判った」

「……」
「……」

二人が顔を見合わせた。

「…不思議なものだな」
「全くだ」

敵国のものであるのに、が真ん中に居れば、近い距離で共に歩ける。

幸村の顔を見ていると、政宗の頭に同盟という言葉が浮かんだ。
しかし、頭を振って、消す。

まだ、その期ではない。





「わー!!慶次上手いー!!」
「まあなー!!」
慶次は町人と一緒に踊っている。
は座って手でリズムをとりながら、楽しそうに眺める。
「ほいよ、小太郎、一杯くらいいこうぜ〜」
「……」
佐助と小太郎はその隣で酒を嗜んでいた。

「慶ちゃんの恋人さんかい?これお一つどうぞ」
「な、違います!!…あ、ありがとうございます」
お婆さんが葛餅を持ってきて下さいました。

「おっと、やっと来たよ、旦那たち」

政宗と幸村が揃って歩いてきた。
周囲の人は自然と少し道を空けている。
「あ、ホントだ!!政宗さん〜幸村さん〜!!…って、何だあのオーラは…」
さすがといったところか。

政宗の手には何やら荷物が。
「政宗さん、良い食材が手に入りましたか?」
「何で開口一番それだよ!?うるせえ!気にすんな!」
「…(政宗殿…いつ渡す気でござるか…?)」

政宗の目線が佐助に向けられる。
「おう、なんだおい、俺にも飲ませろよ」
「はいはい、どうぞ、竜の旦那」

佐助が幸村と政宗に盃を渡す。

、酌」
「某もよろしいか!?」
「はーい!」
「俺も俺も!!」
慶次も踊りの輪を抜けて、走り寄ってきた。

慶次が一杯勢いよく喉に流し込んだあと、どっかり地べたに座った。
「今回は特別にな、夜に花火上げるんだ」
「花火!?わあ!楽しみ!!」
「花火だあ!?貴重な火薬使って…本気かよ!?」

政宗が呆れた様な顔をした。

「なんで文句がでんだよ!いいじゃねえか!織田のおっさんにも火薬ちいと分けて貰ってよ」

慶次と以外の全員が、ぴくりと反応した。

「信長が火薬を…?」
「太っ腹でござるな…」
「気に食わないねえ…余裕ありってか?」
「知らねえよ…全く、ピリピリするなよ…!楽しみにしとけ!」
「うん!!」

ドン ドンドン ドン

若い衆が息を合わせて太鼓を叩く。

その光景を全員で眺めた。






ぱちぱちぱちぱち

一通り終わると、拍手が起こる。

「かっこよかったなー!!」
が嬉しそうに感想をいった。
その様子を慶次が嬉しそうに見ていた。

「よし!!じゃあ一通り回って、そしたらあそこ行くぞ!」

慶次が小さな山のふもとに見える、川を指差した。

「あそこが一番、花火がよく見える!」


そこで、を見送ろう

口には出さなくても、全員の思考は一緒。

立ち上がり、京の町をゆっくりと歩く。




お店を見て騒いだり、
若い兄ちゃんにぶつかって喧嘩吹っかけられて、殺る気満々な政宗さんを止めたり、
財布を気にする幸村さんを慰めたり、
人ごみがウザくて、屋根に上りたがる忍を必死に抑えたり、
酒飲みすぎな慶次をどついたり

楽しんでいたら、時間はすぐに過ぎて

辺りが暗くなってきた


「おうし!そろそろ川原に…って」

先頭を歩いていた慶次が振り返ると

「え…」
5人が消えていて

「おいおいおい!!いつの間に…おい!!」
慶次が周囲をきょろきょろ見回していると

「おまえ…」
「…へ」
話しかけてきたのは
「おう!!ちんまいの!!」
「馬鹿にするな!蘭丸って、ちゃんとした名前がある!!」
気分を害したようで、蘭丸が頬を膨らませた。

その後ろに
長い白髪、蛇を思い出させる風貌の

「こんばんは」
「光秀……」

皆が居なくなった原因はこれか
というか
「何だこの組み合わせ!?」
「おやおや、おかしいですか?」
「おかしい!!」
「ら、蘭丸様は、信長様と、濃姫様と来たかった!!」
「無理だ!!」
なぜこんな祭りに…

明智が口をゆっくりと動かす。
「本日の花火…拝見しにね…」
「んなもん見たがる趣味があんたにあったのか?」
「信長様の火薬で作ったんだろ!?蘭丸は、花火というものを見たことないから…」
蘭丸が目を輝かせた後、ちらりと光秀を見て、がくんと項垂れた。
「けど、何でこいつと…信長様が、一人じゃダメって…」
なんだかんだで、おっさんはこいつの事可愛がってんだな…
…いや!!
そんな事考えてる暇はない!!
これはまずい…
うまく離れたいが…

もし、他の奴らとこいつらが出くわしたら…
俺が一緒に行動して監視したほうがいいか?
いや、判らないか?

ゆっくりと光秀が慶次に近づいた。
「な、なんだよ?」
「聞きましたでしょう?蘭丸が、北の農村で、一揆勢に敗北して…それで蘭丸はひどく落ち込んでいまして」
「お、おお」

が協力したってやつか

「クク…私はただ連れてけと言われただけですがね、信長公は、花火を見せて、元気付けようとしているのでしょう…お優しいですね…」
「本当かよ…そりゃ良い話だ…」
「一番、よく見えるところは、どこでしょうか?」
「そうだなあ…」

は蘭丸の顔を見ていた

蘭丸だって、の顔を見ているかもしれない

会わせてはいけない

「こっちだ」

川原とは反対方向へ歩き出す。













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平和な織田家。
そして今度来るときは男装するらしいよ(他人事だな