日が沈んで、周囲が暗くなった。
京にはまだ着かない。

「慶次殿!まだでござるか!?」
「もーちょい!!止まらずいける!!」

視界は月の光でぼんやりと見える。
「・・・」
は無言で空を見る。


「う、うん!?」
いつの間にか佐助がすぐ隣を走っていた。
「もうすぐ満月、じゃない。まだ欠けてる、だ。楽しもうな!!」
「っ・・・はい!!」
「当然よお!!・・・・前夜祭は無理だけど」
「まだ気にしていたでござるか!?」
「・・・・・」
「・・・・・・?」
政宗は黙っている。
小太郎はその様子を不思議そうな顔をして見ていた。

「慶次!!今夜は?宿とってあるの?」
「とっておきのを用意しといたぜ!!飯は楽しみにしてな!!」
「飯・・・というとまさか・・・」




馬から下りて、京の町に入った。
提灯が所々にあるが、明かりはついていない。
祭りの前であるが、外を出歩いている人は居なかった。

しばらく歩くと、慶次が足を止めた。
頬から冷や汗が出ているので、何事かと全員が警戒すると、前方に
「慶次!!!!!なぜこんなに遅くなったのです!!?」
「まつさん!!」
民家の入り口に、エプロン姿のまつさんが仁王立ちしていた。

「ま、まつ姉ちゃん・・・ごめん、いや、あの、な?話が弾んじゃってな?」
「前夜祭などとうに終わってしまっています!!ご飯も冷めてしまい・・・作り直ししております!!」
「そんな、まつさん、冷めてても構いませんよ?」
「まあ、さんに言ったわけではございませんのに・・・お優しいのですね。しかし、冷めたものはもったいないのですでに犬千代様の喉に押し込んでしまいまして・・・」
口に押し込むのではなく、喉に!?
「は、はあ、では、あの、じゃあ、ね?うん、みんな、まつさんに甘えようか・・・」
慶次は、利・・・と呟いて、手で顔を覆っていた。
利家さん、大丈夫かなあ・・・




家の中に入って、みんなで改めて挨拶をする。
「まつ殿・・・お久しぶりです。世話になるでござる」
「ああ、武田の…いつも慶次が申し訳ありません…」
「あれ?二人は知り合い?」
…っぽいけどなんか空気が…
「あ、あの、慶次が…その、上田城によく遊びに…」
「…荒らしに、の間違いでは?」
珍しく幸村さんが強気だ…
「ああ!恥ずかしゅうございます!本当に申し訳ない!よろしければこちらの茶菓子を…」

まつが幸村に、いっぱい小さな袋が並べられたお盆を差し出した。

「…………う、うむ、では、頂くでござる」
幸村は一つ取って、早速封を空けて食べ始めた。
中身は煎餅だった。

幸村さん、餌付けされないように気をつけてね…

「…伊達政宗だ。が世話になったようだな。礼を言う。」

政宗は少し躊躇いながら名を言った。

「あら、お礼を言われる事はしておりませぬ。こちらこそ慶次がお世話になりました。お野菜もあんなに沢山頂けるとは思いませんでしたわ」

深々とまつさんは頭を下げるが、政宗さんは偉そうに腕を組んでいた。

気に食わなかったので膝カックンしてやったらすごく引っかかってくれて


政宗さんがすごい勢いでこちらを睨んだ。



「や〜、どうも、改めまして猿飛佐助と風魔小太郎でっす。いやあ、悪いねえ?忍にまでこんな暖か〜な歓迎してくれちゃって」

佐助は表情はのほほんとしているが、口調は少々強い。

「関係ありませぬ。どうか今日は長旅の疲れをここで癒してくださいまし。」
まつさんは気にせずに対応している。
「しかしねえ、あんたらが魔王に報告しないとは限らないよな?」
「え・・・」
そういえば利家さんは織田信長に仕えて・・・

まつさんはにっこり笑った。

「ふふ、私は皆様のお世話をするために慶次に呼ばれましてございます。信用できぬのならば、どうぞ監視してくださいまし。少しでも怪しい行動を取ったならば、お持ちの武器で攻撃してくださいませ。」
「まつさん!!」
「まつ姉ちゃん・・・!」

佐助はしばらく沈黙した後、お手上げのポーズをとった。
「はいはい、悪かったよ。じゃあ信用しちゃうからね?」
「はい、では、こちらでお待ちになって下さいませ。準備をしてまいります」
とたとたと、まつさんが去っていった。

「かっこいいなあ、まつさん・・・。私もあんな風に」
「「「「ならなくていい(でござる)!!」」」」
こくり・・・




夕食にはふぐやらホタテやらなんか高級なもの出てきました…

「こ、こんなに食べていいのですか!?」
「あら、遠慮する事はございませんわ」
量は多いとは言えませんが…ここここんな…

殿!!慶次殿が狙ってる!躊躇ってはいけないでござるー!!」
「おわー!!誰がやるか!!ここもある意味戦場か!?」
慶次が箸を私の皿にのばしてきたので、急いでその皿を持った。

「おい、静かに食えねえのか…」
政宗さん、満足そうですね。
よかったね、良い物食べれてね…

…政宗さんて人の事言えず結構単純だよな…

政宗さんの事を見ていたら、死角から箸が

ひょい
ぱく

「慶次!!あんた…って、小太郎ちゃん!?何してんの?そんなにお腹すいてるの?」
「?」
「いやいやいや!可愛く首傾げないの!!小太郎ちゃんのご飯はこっち…」
「小太郎!毒味なんてしなくていい!まつ姉ちゃんはそんな事しない!」
慶次の言葉に、動きを止めた。

「…え?毒味?」


だってだって、え?ちょっと待って?
こんなに、みんなで、騒いで
楽しいなーって思って
なのに、そんな時にも
小太郎ちゃんは毒味なんて
命賭けるようなことして


「??」
小太郎がぼーっと一点を見つめ止まってしまったの頬をつねった。

「こ、こら!痛いから!!」

そういえば政宗さんや幸村さんや佐助も、食べる前にやたら匂いを気にしていた。

そりゃみんな偉い人だし

戦国時代だからって、思えればいいんだけど

…なんか、嫌だな





ここではさすがに男女別々に寝ます。
私はまつさんと一緒の部屋に

「寝間着姿のまつさん…これまた綺麗だなぁ…」
「いやだわ、そんな事を言っても何も出てきませんよ?」

まつさんは髪を小さくてかわいい櫛でとかしている。
私はその姿を見つめていた。

「お世辞じゃないです!あの、どうすればまつさんみたいに色気が出ます?」
「まぁ…そんな、照れてしまいますわ…気にしたことがありません。そのようにさんが言ってくれるとするなら…」

まつさんがぽっと頬を赤らめた。

「犬千代様の…愛の力でございましょうか…」

おおっと、のろけだ―!!

…ちなみに利家さんは食べ過ぎで倒れているところを慶次に救助されました。


さんは、好きな殿方はいらっしゃいますの?」
「え、いや、その、みんな…好き。友達で…」
聞かれるとは思わず、かなりどもっておかしなことを口走った。

まつさんは優しい笑みを浮かべた。
「いつか、さんにも、心から愛せる男性が出来ますわ…」
「だと、いいのですが…」

想像つかないな…
今までの人生、交際とかは無縁で…

「慶次でしたら私は嬉しいのですけれど」
「なっ…」
「ふふ、一つの選択肢として考えてやって下さいませ」
まつさんが布団に入る。
横になる前に、私の方を向いて

「でも、さんは今のままで十分魅力的ですわ。それ以上何をお望みに?」
「え!?そ、そんな事ないですから!」
顔が赤くなる私に、またにっこり笑って

「明日は、思い切り楽しんできてくださいね」
「は、はい!!おやすみなさい!!」
がばっと布団を頭から被った。




佐助と小太郎は警戒して、天井裏で寝ている。
政宗と幸村は慶次の部屋に用意された布団で寝ていた。
慶次は気持ち良さそうに大の字で寝ている。

「政宗殿」
「んだよ」

布団の中で、右を向いたり左を向いたり
落ち着かない政宗に幸村が起き上がって話しかけた。

「今日はゆっくり寝たほうがいい。明日、そなたが疲れた顔してたら、殿だって楽しめぬ」
「…なんで俺によってあいつの気分が変わる?」

その返答に幸村がむっとした

「判らぬなら、結構でござる」
「俺はよ」
幸村の機嫌はお構いなしに、政宗が話し出す。
天井を見つめたままで。

「あいつに、飯を食わせて、この時代で、居場所与えてやった」
「…う、うむ?」
「恩着せるつもりはなかったが、頭ん中は飼い主気取りだ。んなこと、誰でも出来んのにな」
「政宗殿?」
「もし、てめえのとこにが来ていたら、歓迎してたな?」
「まあ…警戒はするだろうが、身寄りがないと言われれば、お館様に言って…」
「だろ?」

そう言ったきり、政宗は黙ってしまった。

「ま、政宗殿、某は、意味が判らぬ。どうなさった?」

「…俺は、あいつのために何が出来る」

自分に問いかけているような口調で

「あいつが隣に居ると、楽しい。」
眉根を寄せて
「そんな、形のないものもらっちまったら、俺は何を返してやればいい?」
眼帯に触れて
「あいつはまた、知らないところに現れて、不安な想いするんだろ…俺に会いに、また今回みたいに苦労して…」
手に力が入って
「ちきしょ…あいつのために、俺にしか出来ない事、あいつのためになる事…何かしてやりてえのに」
眼を閉じて
「何も思いつかねえ…俺が持ってんのは、あいつにゃ迷惑になるような感情ばかりだ」
苦しそうな声で

ああ、この男は本当に

「阿呆でござる」
「あァ!?」
その言葉に政宗が飛び起きた。

「勘違いでござる。殿は、某に会いに来るでござる。政宗殿はついででござる。」
「なっ…何言ってやがる!!てめえこそ勘違いだ!!」
幸村は仰向けに寝転び、後頭部で手を組んだ。
「先ほどの言葉、殿に言えばいい」
「ふざけんな!!誰が言うか!!また可愛いとか訳判んねえ事言い出すに決まってらあ!!」
「そして、笑って、喜ぶのであろう?」
「そりゃ…」
容易に想像できる。

殿の情報は得たら必ず伝える。そなたが悲観的でどうする?…くだらぬ。寝る。」

幸村は布団を勢いよく被り、眼を閉じた。

「うるせえっ…!!判ってんだよ…!!」

政宗も布団を頭まで被り、目を閉じた。




幸村は一つ学んだ。

恋は人の心を乱し

強く強く、眼に見えぬところで輝いて

こんなにも暖かい










■■■■■■■■
幸村に阿呆って言われちゃったよ筆頭
ごめんね筆頭
これからもいっぱい悩むと思いますうちの筆頭