「は、半分も来てない…前夜祭、間に合わない…明日なのに…」
慶次が再びがっくり肩を落とした。

暗くなってしまったため、通りかかった町の宿に泊まることになった。
団体客用の広い部屋を借りた(幸村の金で)。
その隅では縮こまる慶次を慰めていた。

「祭りに間に合えば大丈夫だよ!」
「でもよ…に見てもらいたかった…」
「慶次の気持ちが、凄い嬉しい!」
…」

政宗は混浴じゃないと知るとつまんねぇと呟いて即風呂場へ向かってしまった。
幸村は町を一回りしてくると行ってしまい、佐助と小太郎は馬の世話をしている。

広い部屋に慶次との二人きりだ。


だからって慶次、調子に乗って私に寄っかかるな。 重い。


「俺、の優しいとこすげぇ好き…」
「優しいとこだけか!?人の良い部分を抜粋して好きというとはあんた、本当に調子良いなぁ!」

まさかそんな風に返されるとは思わなかった。
素直に受け取ってくれたらいいのにと思う反面、考えてみると確かに言葉足らずだ。

「無鉄砲なとこも、強気なとこも、訳わかんないとこも、アホなとこも好きだけど…」
「あんたそういう目で私を見てたんか!?慶次に言われたくないわ!」
「もっとの事知りたいって、俺の事も知って欲しいって、いっぱいそばに居て欲しいって俺が言ったら、困るだろ?」
が目をパチパチさせた。

「慶次ってさ」

軽く言い過ぎたかと頭を掻く。
遊び人だねとか言われたら正直へこんでしまいそうだ。

「寂しがり屋だね」


あぁ、ほらは訳わかんない。
なんでそうなるんだ。


「いいよ!というか今そばに居るじゃん〜!そういえば慶次の事、あんまり聞いてなかった!ごめんね?教えて、慶次の事!!」

が慶次の頭を撫でる。


うおぉ…俺がただ単に聞いて欲しくてそう言ったとでも思ったのか

しかし知って欲しいとも思ってしまう。
でも…

「慶次は、天下には興味ないの?」
「ない。けど、楽しく恋も出来ない世は嫌だ。」
「わぁ、本当に恋愛には真剣だね!慶次に愛される人は本当に幸せだよ!」
「…」
先を言いたいような
言いたくないような

「慶次?」

黙った俺をがじっと見つめる。

「俺が、初めて真剣に、本気で好きになった人は」

口が勝手に動いたような感覚

「秀吉の妻…ねね…だ」

が驚いた顔をした。



どう想われてもいいと思った。
に聞いて欲しい。
その想いだけで俺は今口を動かしている。
不思議な感覚だった。

「俺は、ねねが幸せなら、ねねが笑ってるならそれで良かった」

隣にいたが俺の前に来た。

は意地悪だ。

こういう時は、とても優しい顔をする。

俺のすべてをさらけ出したくなる。

「なのにあいつは…秀吉はっ…」

感情が高ぶってきて、口調が荒くなってしまう。
「竹中半兵衛だって!あいつだって!秀吉を止めなかった!何がっ…何が友だ!!」
「慶次…」
「ねねは…ねねは秀吉の事…」

の手が俺の目元を拭う。
それで自分が泣いているのだと気づいた。

「わ…わり…大きな声出して…」
慌てて目を押さえた。

「ねねさんは、慶次にこんなに思われて幸せ者だね」

はふわりと笑っている。

ねねの笑顔もふわりと花のようだった。

けど、同じ笑顔とは思えなかった。

何が違うんだろう?

「ねねさんも、慶次の幸せ願ってるよ」
先ほどまで部屋の中をちょろちょろ動き回っていた夢吉が、いつの間にかの頭に座っていた。
「過去も未来も今この時も、ねねさんは慶次の幸せ願ってくれてるよ」
…」
「だから、生きてる時間を大切にして欲しい。泣いたって良いけど、一人でめそめそ泣くなよ!今みたいに、誰かに感情ぶつけて泣け!私は慶次の味方だかんな!!」

が俺の手を取った。
冷たいひんやりして、今の自分には気持ち良い。

「豊臣秀吉と、いろいろ、あったんだね。話してくれてありがとう。私も、慶次の幸せ願ってるから、だから、あの…えと…」
が小さく下を向いたり上を向いたり首を動かした。
夢吉は楽しそうにバランスをとって遊んでいる。

「元気出して…欲しい…いつもの、元気な慶次…が私は、好きだし…」
「え…」
慶次が身を乗り出した。

「・・・あ―!待った!ちょっと下手すぎる言葉並べて…もう一回!えと、なんて言ったらいいかな…慶次は、あの」
「こっ…」
「え?」
慶次がの肩をがしっと掴んだ。

「告白…してくれた…」
「え?」
「俺も好き。」
「落ち着け慶次、あの」
好きは告白の好きではなく、好感がもてるのほうだ。

!!」
ガバッと慶次がを抱きしめた。
夢吉がキィ!と飛び降りた。

「けっ、け、慶次!!」
慌てて慶次を押し返す。
もちろんびくともしない。

「嫌だ!離さねぇ!」
「慶次!落ち着けよ!私と会って大して時間経ってないだろ!」
の好きなところ、今すぐ二十個は言える!それだけじゃ足りねえか!?」
「慶次…まっ…待て…ねねさんの話したばっかでこんな展開はありえねー!!」
「俺はねねのことは忘れないけど、囚われないようにしてんだ!!だから大丈夫!!」
「何良いこと言ってんだー!!」

「PHANTOM DIVE!!」
「「ぎゃあ!!!」」

政宗さんがお風呂から上がって来なすった…


政宗に引っ張られて、慶次から離される。
「油断も隙もありゃしねぇなこいつ!人のものに手を出すな!」
「ひっ…人のものって何だよ!!はてめえのもんじゃない!!」
政宗と慶次がけんかを始めてしまった。

一歩下がったところでそのやり取りを夢吉と並んで見た。
「どうしよう、夢吉〜…」
「キィ…」
「ひどいな、政宗さん。最近やっと人扱いしてくれたと思ったのに、またペット扱い。今度は慶次まで。なんだあ・・・好きって言ってくれたと思ったら、そういう意味かぁ・・・」
「き・・・きぃ・・・」
夢吉が人間だったら思い切り突っ込みしていただろう。

は俺のこと好きって言った!」
…俺のことも好きだよなぁ?」
慶次に威嚇していた政宗がゆっくり目線を移す。
「??うん!」
「ほらみろ!はてめえに特別な感情はねぇんだよ!」
「そ、それって独眼竜にも特別な感情はないってことじゃ」
「…」

政宗の機嫌が今までになく悪くなった。






「はぁぁぁ…無いでござる…」
そこそこ大きい町だ。
もしかしたら、という希望を胸に、幸村は書物を見に来ていた。
ひたすら巻物を広げている。

「こっ、こんな知識はすでにあるでござる!違うでござる…」
ぶつぶつ独り言をする幸村を店の者が迷惑そうに見ていた。
しかし着物からして身分が高いと判るため、文句が言えない。

「あの、旦那様、何をお探しで?」
「恋の戦術についての記述がある巻物は無いでござるか!?」
「それは旦那様の心に自ら書き記さねばならぬものです」

店員はウザそうに良いことを言った。

「おお…」

幸村は店員に尊敬の眼差しを向けた。










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慶次のお話
正直こんな感じでいいのか判りません