「あー!もー!!くやしいー!あいつ最悪!!」
成実が刀を振り回して暴れる。
「成実様!落ち着いて下さい!」
「くっそー!殿にめちゃくちゃに負けちまえ!!奴はどこ行った!?」

「呼んだか!?しげちゃん!」
ばっと、道の脇の茂みから馬が飛び出す。
「誰がしげちゃんだー!!って…あ!何してんだ!ちゃんを返せ!」
「残念でした!返さないよ!じゃあな!!」
「成実さんー!」
が困ったような声で成実の名を呼ぶ。

だがすぐにその姿は見えなくなった。

「速いなくそ…忍は追ってるのか!?おい!俺にも馬を」
「成実は城で小十郎のsupportしてな!」
同じ場所から政宗が飛び出す。

「…へ」
成実が目を丸くした。
政宗の姿もすぐに見えなくなる。

「何なの…?」



小太郎はすでに追いついていた。
しかしに手を出すなと言われたため、追うのみ。
馬はひたすら山道を走る。
「野菜、届けて戻ってきたの?早くない?」
馬は変わらず武田のものだろう。
「戻ったのは武田まで!野菜は武田の忍の人間に運んで貰ってる!」

小太郎ちゃんは凧みたいなのにくっついて空を堂々と飛びながら着いてくる。
政宗さんに居場所を教えているのだろう。
そのおかげか、今では後ろを向くと政宗さんの姿が少しだけ見える。
…いや、そのおかげというよりは…

少し後ろを振り向く。
「慶次、政宗さんと一定の距離あけて走ってんね。目的は?」
「お楽しみだ!」
「何だよそれ…ただの誘拐じゃないね…」
「誘拐なんて聞こえが悪い!遊びに行くだけさ!」
思いつくのは一つしかない
「祭り…」
「おうよ!」
つまり祭りを見て帰れと。
随分と来てしまった…今更断るのも…
「小太郎ちゃん、ごめん…私、荷物…置いてきちゃって…」
「…」
こくり

バシュ!

「あ、そうかぁ…最初に言えば良かったな。わりい!」
「小太郎ちゃんに言ってくれ」

前方が開ける。




殿ぉ!」
ちゃん!」
「え」

幸村さんと佐助さんが見えた。

慶次が二人の前で馬を止めた。
「え、何?どうして?二人も慶次に誘われたの?」
疑問符を飛ばしまくるに二人が笑った。
「行くって決まったの、ちゃんが怪我して寝てる間だよ?」
聞いてないよ―!!
「慶次殿が、殿を驚かせようと言っていたのでな!内密に進めてしまい、申し訳ない!い…嫌だったでござるか?」
「ううん!嬉しい!ありがとう!!」

が満面の笑みを浮かべたため

喜んだ幸村は調子に乗った。

「せっ…先日の詫びも込めて、京では某が奢るでござる!」

「ほう、それは嬉しいね!」

馬に乗った政宗が、木々の間から勢いよく飛び出した。

幸村を見ると

「真田幸村あああああああ!!!!」
馬に乗ったまま、幸村に突っ込んでいった。

「政宗殿は別でござる!」
「ヒュウ!マジで来やがった!お城は留守にして良いのかい!?竜の旦那!」
佐助と幸村が構える。

「ふん!良くできた家臣が居るんでね!てめえらこそ二人揃って出て来ちまって良いのか!?」
「某達は、仕事を済ませてこちらに来た!」
「そーそー。俺らには時間があったからな!周辺の警備だって完璧にしてきたぜ!?」
「ああそうかい!!覚悟しろ!!!」
「ま、政宗さん!?」

馬から跳びおりて

ガキイ!!

幸村に刀を振り下ろす。

幸村は受け止める。

「何で!?戦でもないのにっ…!!やめてよ!!」
!!落ちるって!!暴れるな!!」

が慶次の前でじたばたと暴れながら叫ぶ。

「……!!」
ぎりっと政宗が歯軋りをした。

幸村は力を緩めた。

政宗も腕をおろした。

「すまぬ…政宗殿…」
が全く怒ってねえのがまた気にいらねえ…」


判っていないのか、は…

政宗が大きくため息をついた。

幸村に怪我をさせられたんだろうに。

そのせいで自分が幸村に対し怒っているのだと気付かないのか。


「落ち着け独眼竜!!真田幸村とじゃれ合いたいなら京に着いてからにしてくれ!!」
「・・・ha?京に・・・本当に行くのか?目的は?」

政宗がひどく不快そうな顔をした。
自分だけ何も知らないのが嫌なようだ。

「祭りを見せてやるぜ!!断らねえよな!?ここまで来ちまったんだしな!」
「政宗さん〜!!すいません〜!!私のために・・・」
「だっ、誰がてめえのために!?そいつが気に食わなかっただけだ!!」
「ぎゃあー!!勘違いしちゃったよー!!政宗さんのばかー!!話合わせてくれたってー!恥ずかしいー!」

佐助が軽い足取りで政宗に近づいた。
「はは、ちゃんは素直だねえ…旦那の言う事そのまま受け止めてるし。…で、どうすんの旦那?行くでしょ?」
「小十郎には取り返してくる、と言ってしまったなあ…」

嫌な空気が生まれた。

「拒否するなら、俺と幸村と忍がお相手するぜ?」
「慶次!!ちょっと…」
さすがにこの三人相手に政宗さん一人は厳しいんじゃ…

「おお?受けてたつぜ?」
「政宗さん!?」
「政宗殿…」
幸村は正々堂々と二人で政宗と戦いたいという想いがあるため、露骨に嫌そうな顔をした。

「しかもあんたに隙あらば、に接吻するぜ?」
「意味わかんねえぞ!!」
が人質扱いになるぞ〜?」

慶次も出来れば戦いたくないのだろう。
政宗が首を縦に振るまで無茶苦茶言う気だ。

「うう…ほっぺくらいならいいけどさ…」
「頑固だな独眼竜はさあ戦おう」
の呟きを聞き逃さなかった慶次は一転して態度を変えた。

「慶次殿!!そなた単純すぎますぞ!?」
「本能のままに生きるんじゃねえ!!」

しばし沈黙したあと、政宗は一言、判ったよ、と呟いた。
良かったと、幸村が安堵した。
政宗が頭をがしがし掻いた後、慶次との元へ歩く。

「ほら」

に手をさしのべる。
降りろ、ということか。

「あ、はい、政宗さん」
政宗の手を取ろうとした
「だあああ!駄目だ!は俺と一緒!」

慶次がぎゅううと抱きしめた。

「なっ…慶次殿!ここからは某が殿と一緒に行くと言ったでござろう!」
幸村が駆け寄る。
「忘れた」
「慶次殿!」

佐助の目がきらりと光った。
「旦那との約束を破ろうなんて、部下として許せないね日頃の怨みいぃぃぃぃ!!
「最後が本音であろう!?佐助!!」
佐助がクナイを慶次の頭めがけて投げた。

「あぶねっ!」
慶次がかわすと

後ろから荷物抱えてちょうど飛び出してきた小太郎に向かっていった。

「!」
宙に浮いていて逃げ場がない。

「あ」
「小太郎ちゃん!」

ガッと

手でクナイをキャッチした

「…」
着地すると、からんと地面にクナイを捨てる

「げ…さすが小太郎…」
「小太郎ちゃん凄い!!」
がパチパチと拍手をすると小太郎が照れた。

政宗と幸村は並んでそれを見た。

「俺は小太郎に勝ったのによ…」
「某だってあれくらい…」
互いの呟きを耳にして、目線を合わせた。

「「……」」

ばっと飛び上がり距離を置き

「奥州筆頭伊達政宗…推して参る」
「真田源次郎幸村がお相手いたす!!」

武器を出して戦闘態勢。

「ええ!?また…何してんの!?」
がまた慌てた。
さすがに慶次も困った。
「やめろって言ってるだろ!!」

「「凄いと言われたい!!」」

変なところで二人は気が合う。
「そんな暇あるか!!早く京に向かおうぜ!!」
「ならば早々に殿を離すでござる!!慶次殿!」
「なっ…はだれの馬に乗りたい!?」
「じゃあ、乗った事ないから幸村さん!!」

「「なんだとー!?」」
即答したに政宗と慶次が驚き

幸村は喜び

佐助はと密着して上司が死なないか不安だった。





「あああああの、殿、やはりもう少し離れて…」
「酷い幸村さん!みんな聞いた!?暑苦しいから離れろって!」
「そんなこと言ってないでござるよ!!」
「真田幸村…んなこと言うなら代われや」
「嫌でござる!!」

佐助はため息をついた。
を前に座らせれば近すぎるでござると騒ぎ
後ろに乗せてが幸村の腰に手を回すと破廉恥でござると騒ぎだした

今はが幸村の肩に手を乗せているだけという状況
おかげで早く走れない

前夜祭は間に合わない…と慶次ががっくり肩を落とした

佐助と小太郎は三人の後ろを並んで進む。
「もっと女性に強ければなぁ…でもそんなの旦那じゃない…」
「……」
小太郎が不思議な顔をする。
「旦那が今まで以上に反応しすぎだよね…いや〜、良いことなんだけどね?ちゃんを意識してるってことだし」
「!!」
小太郎が口を開けて驚いた。
「何よ!?もしかしてあんた気付いてなかったのか?おいおい!お前なあ、そういうのは…って…」
「―!!」
小太郎が勢い良く飛び出して幸村に向かっていった。

「うわ―!小太郎落ち着け―!すぐ後ろにちゃん…旦那逃げてぇぇ!!」
佐助が小太郎を捕まえに飛び出す。
「待てー!!これ以上厄介事増やすなー!!いつ京に着けるんだよ!!」
慶次が思い切り顔を上げて叫んだ。

「小太郎殿!!すまぬ!やはり某が殿を傷つけたのを怒っておられるか!?」
「当たり前だろうが!!」
「政宗さん…」
「だいたいなあ…てめぇら普通にし過ぎなんだよ!もう少しぎくしゃくしろや!」
「無理だよね―?幸村さん」
「無理でござる!」

が幸村の顔をのぞき込むように首を傾けたと同時に、幸村が首だけの方向に向けて笑った。
顔が近い。

「…!!」
幸村が真っ赤になる。
「?」
そのまま固まる。

殿は普通でござるっ…
うぅ…緊張してるのは某だけでござるか…?

「旦那ぁぁぁぁ!小太郎を忘れるな!」
佐助が小太郎に追いついて、なんとか前に回り込んで止めていた。

「小太郎ちゃんはみんなを傷つけたりしないよ?ね?」
「!!」
小太郎がびくりとした後

幸村を指差し

困った顔をして

おとなしくなった

「こ、小太郎、冷静になれよ…ちゃんは恋愛に関しちゃ素晴らしい鈍さがあるだろう…」
「…」
「心当たりあるんかい!!薄々気付いてたがやっぱりそうか!!
お前がちゃんのことどう思ってるかは読めないが、お前マジ職権乱用してちゃんに手を出したりするなよ!?」
「…」
「心当たりあるんかい!!」

羨ましいぜ畜生!!







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小太郎がちょっと黒い。
職権乱用の自覚あり。
くっつきすぎですよ小太郎。