「どうやったらこんな短期間でここまでできるんだ!?」

政宗さんが刀を研ぐ。

「すいません…」
…おそらく、森で人を傷つけた後そのまま鞘に納めたからだろう…
なんたること…

「ま、まぁ、お前は未来にいた期間もあるんだしな」

政宗さんの口調が困ったような雰囲気。
ごめん、そんなに落ち込んでた?

「…」
あぁ、絶対気づいてる
人の血が付いていると

…俺に報告漏れがあるな?」
「報告て…」

…はい。
森で今川の兵に見つかって追いかけられたとしか言ってない…

「…今川さんとこの人に」

「おお」

「お…お…」
「おぉ?」
「お」
「お?」
「お…」

「どうしました?」
小十郎がやってきた。

「邪魔すんな、小十郎」

「な、何のですか?」
『お』しか言ってなかったじゃないですか…

「今川の兵に襲われて、押し倒されたから…腹に蹴りと、肩にそれを…」

「「!!」」

彼らはどうなったかな…
開放創を負わせてしまった…
あんな環境で…
感染にかかってしまうかもしれないのに…

「…何考えてんだ」
「へ?」
のことだから、怪我の心配でしょう」
「だって」
「アホだ」
「何だよ!うっさいわ!」
政宗さんが大きなため息を吐いた。
小十郎さんは笑ってるし。
何だよ・・・いいじゃんよ・・・

「おし、綺麗になった。」
政宗さんが刀を持ち上げて、満足そうな顔をした。
「いいか、今度からは拭い紙で下から上に拭いて、打粉で刀身を軽く叩いてもう一度拭いて、油のくもりが取れるまでそれを繰り返す。そしたら新しい油を塗るんだ。ああ、1人でやる時は柄は外さなくていい。」
「え、え、拭い紙?和紙ですか?う、打粉?片栗粉か薄力粉?」
「あとでやるから。とりあえず手順は覚えたな?」
「うん!」

小十郎がを見つめる。
「政宗様、少しを貸して頂けませんか?」
弾かれた様に政宗が小十郎の方を向いた。
「え、な、何でだよ・・・小十郎・・・」

・・・嫌そうですね、政宗様。
でもすいません・・・


「は、はい。じゃあ、行ってきます」
が立って、小十郎の後を追う。

「こ、小十郎にとられた・・・」
政宗が呟いた。


薄暗い部屋に辿り着いた。
掃除はされているようだが、人の出入りは少ないような感じを受ける。
部屋の中は壁に沿って、大きな本棚がいくつか置かれている。
「ここは?書庫?」
「ああ、政宗様が年少の頃に学んだ書だ」
「い、いっぱいあるなあ・・・すごい・・・」

が近くにあった本を手に取った。
「読めるか?」
「・・・漢文・・・長い・・・」
「それは孫子・・・兵法書だな」
「えと・・・孫子曰わく・・・兵とは国の大事なり。死生の地、存亡の道、察せざる・・・べからざるなり?」
「読めるな?」
「頑張らないと読めない・・・」
の顔が強張った。

「未来では、そのような教養はどうしている?」
「へ?やらないよ。軍事ってことでしょ?一部の人間だなあ・・・(自衛隊とかだよな?)」
「全く?」
「全く。なんで?」
「あ、いや、」
目を泳がせてしまった。
まあ、正直に言おう。
「農村でのあれは、・・・こういった、勉学からかと・・・随分その・・・独特の・・・」
「やだな小十郎さん!!そんな大そうなもんじゃなかったよ!運が良かっただけだ!あと、みんなが頑張ったから・・・」
が俯いた。

「・・・織田の兵は、ほとんど生きていた」
「ほとんど、ですか」
顔をあげない。
「後悔しているか」
首を横に振った。

「後悔してない、けど、正しかったのかどうか考えると判んなくなるんだよなあ・・・最善は、事前に食い止める事だったなって・・・」
「そうする方法はあったか?」
「・・・判んない。あったのかもしれないし、なかったのかもしれないし」

結構ショックだった。
自分よりも小さい子供たちが、命を取り合ってたのは。

「・・・俺も、政宗様も」
「はい・・・」
が無事でよかったと、思っている」
の肩に触れた。

「あ、ありがとう、ございます」
戸惑っているようだ。

「突然消えたときの、成実様の騒ぎようもに見せたかったな・・・」
居なくなっちゃ嫌だとか戻ってきてよーとか、喚いていたな・・・
「えっ!そ、そんな・・・あの・・・」
が居ないと知ったときの、小太郎の落胆ぶりもな・・・」
部屋の隅に丸くなって、放心状態だったな・・・
最も一日経ったらすぐに探しに出て行ってしまったが。
「う、うう・・・」

頭を撫でて、顔を上に向かせる。

「俺たちは、を責めないし、間違っているとは思わない。・・・それだけじゃ、不満か?」
「不満なんて、そんな・・・!」
が目を丸くした後
「・・・ぷっ・・・」
笑った。
「どうした?」
「い、いや、なんか、小十郎さんに励ましてもらってばかりだなと思って・・・」
「そうか?」
「そうだよ!へへ・・・」

が、俺の腕にしがみついた。
「ありがとう・・・」
「い、いや・・・」

こ、これはちょっと
暗いし
胸当たるし

「かゆいっ!」
「・・・小十郎さん、それどうにかなんないのか」




廊下を歩いて政宗様の部屋に向かう。
「ま、まぁ、あれは単にの発想だったわけか…、あまり公の場であのようなことはしないでくれ」
「なんで?」
「使える者が居ると知られれば、狙われる」
「そんな…使えるなんて」
大げさだと思うか?
、世には占いすら本気で信じる将もいる…わずかでも勝算があがるなら、何でもする人間が居るんだ」
「あの…」
「竹中半兵衛には、特に気をつけろ」
「…はい」

…すまないな
人を疑うことにすら、抵抗があるのだろう
頼むから、俺たちに守られていてくれ…


どたどたと、聴き慣れた足音が近づいてきた。
成実様だ。
何かあったのだろうか。

「あ!!発見!!」
廊下の曲がり角から勢いよく現れた成実様の顔は、やけに焦っていた。

「片倉殿ぉ!!殿が…」
「!政宗様がどうした?」
「ひたすら米をとぎ続けているんだけど!」
「は?」
が大げさに手で口を覆った。
「そんな…手がふやけちゃう!」
「そうなんだよ!頼むよ!止めてくれよ…!!」

大変なことになった…
お、俺が突っ込むのか…

「も、問題はそこじゃないー!」
ぺちっとの頭をたたいた。
「痛い!」
「あはははは!片倉殿、ぎこちないなー!って、いや、マジなんだよ!殿は一体どうしたの?」
「えー?さっきは普通だったよね?」
「…」
俺がをとったのがそんなに精神にきましたか…?
す、すみません、政宗様…

の顔を見れば元に戻るだろう」
「え?」
「うん!そうだな!行こ!」
成実がの手を引いた。



ザッザッザッザッ…


引かれるまま歩いていくと


ザッザッザッザッ…


薄暗い調理場の隅の方で政宗さんが


ザッザッザッザッ…


ひたすら米を…


ザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッ…


「怖いよー!!ホラーだよー!」
「殿ー!殿ー!ちゃんが遊んでほしいって!」

「!」
政宗が肩越しに振り返った。
表情は至って普通であったため、成実とは強張っていた肩の力を抜いた。

「な、なんだよ、仕方ねぇな…遊んでやるよ…」

その場にいた全員が安堵した。

政宗が米を女中に預け、後は頼むと言った。
「じゃ、俺の部屋行くぞ!」
「うん!」
「判った」
「かしこまりました」
「なんで小十郎と成実まで!?」

この調子だと小太郎も来るだろう。



政宗は部屋に着くと、に小さな箱を手渡した。
、これが道具だ」
「刀の手入れのね?ありがとう!!」
成実が首をかしげた。
「刀、持ってるの?」
「護身用に頂いてしまいました」
「殿が?」
「ああ。」
「・・・むやみやたらに振っちゃいけないよ」
珍しく成実がまじめな顔をしてを見つめた。
責めているわけではない、警告するような口調。

判っている。
この世界で武器を持つ事の意味。
護身用であっても、変わらない。
傷つける覚悟があること
同時に、傷つけられる覚悟も

「それは、こいつだってよく知っている」
「は、はい」
そりゃ、持ってろって言われたけど
でも、それだけでなく

ここに居たいから、そのために
揺らがない、想いが欲しい
甘えたくない
政宗さんのように、地にしっかりと立っていたい

だから受け取った

「・・・そっか。うん、そうだよね」
にこっと、いつもの笑みに戻った。

「・・・」
小太郎が襖からひょっこり顔を出した。
手には紙とペンを持っている。
「ああ!!小太郎ちゃんごめん!!まだ途中だったね!」
「何がだ?」
「爺さんに手紙出そうと思ってね!」
「ほう、見せてみろよ。文面」
「嫌。」
はっきり言った。
みんな達筆なんですもん。
内容だってさぐりさぐりだし

「書き方教えてやるって」
「む・・・むう・・・」
正直それはありがたいお言葉だ・・・
だけど、手紙・・・恥ずかしいな・・・

「じゃ、じゃあお願いします。小太郎ちゃん、持ってきてくれてありがとう」
「・・・」
受け取って、机に置いた。
紙にはとりあえず書きたい事をメモしてあるだけ。
これから書き始める。
「最初は・・・」
カチカチカチとシャープペンの芯を出す。
最初だから下書きをしてから書く。
「お!?」

政宗さんと小十郎さんと成実さんがシャーペンを凝視。
「何だこれ?」
「黒鉛だよ。鉛筆。」
「・・・本当に、未来にはいろんなものがあるんだね・・・」

「あ、そうそう」
政宗さんがふと何かを思い出した。
「なに?」
「iPod、でんちぎれした」

また勝手にお前ー!!

気に入ってくれて、嬉しいけどさ…


その日は夜中まで、国語の勉強でした。

かなりのスパルタだったが、何とかそれなりに出来上がった。
出来上がった手紙は小太郎ちゃんに渡して、次に爺さんに会うときにでも渡してくれとアバウトに言った。

会いに行きたいが、いつきにも会いたいし、もう少し落ち着いてからだ。













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うちの小十郎がかゆいかゆい言ってるのは
利家・まつと戦っているときにこういうのはかゆくなっちまってだめだ的な言葉を発していた気がしたので(調べろ
その影響です