見失ってしまった…
どうしよう…
馬…
武田の…
「確かこっちにさぁ!!」
赤い鞍だったから目立つはず…
必死に探すと小高い丘に出た。
「あ…いた…」
けれども隣に誰か居る。
白と紫色を身にまとった、細身な男の人。
馬を撫でて、なだめているようだ。
…こちらを向く。
なんだか異様な格好・・・
「君の馬かい?」
耳に残る優しい声。
「借りものですが…すいません…ちゃんと繋いでいなかったので…」
側まで寄る。
謙信様とはまた違う美しさ・・・いや、儚さと言ったほうがいいだろうか・・・
「いや、大丈夫。大人しい馬だ…しかも立派な…君はどこのお嬢さんだい?」
馬のどこにも武田の家紋は付いていない。これは信玄様の配慮だろう。
「なっ…名乗るほどでも…」
「そうはみえないけどね…あぁ、失礼、初対面でいきなり失礼だったかな」
不思議な人だと感じた。
「いえっ…こちらこそ馬をなだめて下さって…ありがとうございます」
手綱を受け取った。
馬がまたヒヒンと鳴いてきょろきょろしだした。
「う…私馬に嫌われるようで…」
男の人がクスッと笑った。
何て上品に笑う人だろう。
お偉いさんかな?
「馬を怖がってないかい?」
「え?」
私の手を取って馬の鼻筋の上に乗せた。
男の人の手が上から重ねられる。
そのまま撫でる。
「強ばってるよ…力抜いて…」
「は、はい」
強ばってるのはあんたのせいでもあるのだが…
「怖くない…優しい目をしているだろ?」
そう言われて目を見る。
初めて馬の目を凝視した気がする。
本当だ。
可愛い…
馬が目を細めた。
「ほら…大人しくなったね。もう大丈夫だよ」
「確かに私怖がってたのかも…ありがとうございます」
「お礼を言われるほどじゃない」
「いえ!だってこんな親切にされて…わっ…私、と申します」
男の人の顔を見上げ、目を見つめた。
端正な顔立ち…絶対ただ者じゃないが…
「僕は竹中半兵衛…」
「半兵衛さんですか!ありがとうございました!今日から馬と仲良しになれます!」
「お手伝いができてなによりだよ」
また笑った。
「半兵衛様―!!そろそろ行きましょう!」
家臣らしき人が丘の下から叫んだ。
「判っている!!
じゃあお嬢さん…また機会があれば…」
マントを翻して去っていく。
「はい!またね―半兵衛さん!」
とても不思議な人だった。
男の人なのに、良い香りがした。
「ん?」
竹中半兵衛?
……
「豊臣のぉ!?」
なんたること!
こんなところで…今から向かうのかな…
慶次と会っちゃう確率高い…
あわあわしていたら小太郎ちゃんが丘をかけ上がってきた。
「小太郎ちゃんごめん!馬が逃げ出しちゃって」
「〜〜!!」
ぎゅううううと抱きしめられた。
また不安にさせてしまった…
「ごめんね!小太郎ちゃん!!でも…私そんなに…ひ弱じゃないよ…」
「…(ふるふる)」
「う…そりゃ…みんなに比べたら弱いけど」
「…(ふるふる)」
「?」
会いたかったんだ
離れないで
そばにいて
今は甘えさせて
「…小太郎ちゃん?大丈夫…だよ?」
「…」
はこういう感情には鈍い…
馬を引いて戻ると野菜を木箱いっぱいに入れて嬉しそうにしている慶次と、自分が乗るのであろう馬を引く小十郎さんがいた。
「どこいってたんだよ!そいつにこれ積むんだからな!」
「ごめんごめん!」
慶次と小十郎さんが器用に荷を積む。
喜多さんがやってきておにぎりをくれた。
なんて親切なのだろう…
小太郎ちゃんは馬など要らないようだ。
足で行く気満々。
「は俺の馬だな」
「…へ…あっ!荷を積んで…うあしまったぁ!謀ったなぁ!」
「小十郎さんの馬〜凛々しい顔〜」
馬を撫でてスキンシップ。
ありがとう半兵衛さん、本当にもう大丈夫そうです。
「おい!は怪我してんだからな!気をつけろよ!」
「慶次!小十郎さんは優しいから大丈夫なの!」
「何だよ俺だって優しかったろ!?」
「最初だけじゃねぇかぁぁぁ!!」
「…怪我とは…」
「…」
小太郎がの肩に手をおく。
探るように手を動かし
「ふぎゃ―!小太郎ちゃん―!弄るんじゃない!くすぐったい!うあははは!セクハラ…ぎゃははは!ふぎゃ!」
腰の部分で手が止まり
思い切り服をひっぺがえした。
「度が過ぎる―!!」
最も、防弾ベストが見えただけだが。
「??」
はじめて見た素材なのか、防弾ベストを触っている。
「いい加減にしろ忍!は腰を」
「腰ぶっただけだから!!小太郎―!脱がしにかかるんじゃない!打ち身だからああ!」
小十郎さんが小太郎ちゃんの首根っこをつかんで引き剥がしてくれた。
小太郎ちゃんは大人しくそれに従った。
「…、そういうことにしといてやる。早く出発しよう」
「はい…」
明らかに疑われてますね…
仕方ないけどね・・・
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半兵衛に出会う。
主人公ちゃんは好印象です。
なぜか小太郎は小十郎に懐きました。