「では、姉上、本日中には青葉城に戻ります」
「ええ、気をつけて。梵天丸様によろしくね。」
「だから政宗様だと何回言えば…」
「いくつになっても私にはかわいい子だわ…」


政宗の乳母でもある小十郎の姉、喜多は白石城に滞在していた。


「気になるならば、会いに来ればいいものを…」
「会わずとも噂を聞けば判ります。元気でやっているわね。」
「まぁ…心配はいらない」


ゆっくり流れる雲を見ながら姉弟で淹れたての茶を飲む。

話は尽きないが黙る時間も心地よい。


「そう言えば、聞きましたよ?梵天丸様が一人の女性を側に置いているとか。どのような娘なの?身分は?」

騒ぎ立てることでもないと感じているのは、が良い子だと判っているから。

知らない者は焦っても仕方ないだろう。



「会いに来ればよいでしょう?(今は居ないが…)喜んで姉上に迫っ…近づきましょう。…姉上は身分を気にしますか?」

「私はともかく、義姫様が…あの方の耳に届くのも時間の問題でしょう?」

「…」



確かに、それは怖れている事態。
風呂場で結婚の話をしてもは動じなかった。
政宗様をそのような目で見ていない。 …見えてないだけかもしれないが。
まだそれが救い。


義姫様の耳に届けばは何をされるか判らない。

快く歓迎されるとは思えない。

身分はありません。それは未来の者だからですなんていえる訳がない


政宗様の友として認められればいいが…女として見られたらそれは難しい…

引き離すためには追放なんてことになったら…
いや追放なんかで済むか?殺されてしまう…




「そんな難しい顔しないで。ごめんなさいね、けどまだ大丈夫だと思うわ。それほど広まってないもの。」
「…本当ですか?女のお喋りには恐ろしいものが…」
「女同士の陰湿さはもっと恐ろしいわよ?ふふ…広めようとするものなら…うふふ…」
「……」


成実、お前は正しかった。

の修羅など可愛いものだ。


口元がひきつり目を細め血管が浮き出そうな姉の顔。
すいません、俺は何も悪くないんですけど謝らせて下さい。



そんなことをしていたら、急に城の外が騒がしくなった。


「かっ…片倉殿!!侵入者!侵入者ぁぁぁ!」
「…何!?状況は!?」
「馬に乗り、門を突破!死者は居ませんが、このままでは…」

強化したばかりの陣を突破?


「おもしろい・・そこそこできる奴だな・・・目的は俺の首か?上等だ…」

刀を取り出して目をギラつかせた。

「いえそれが、野菜をくれと…」
「…」


気合い入れ損。


「どうしましょう!!野菜が・・・野菜が持っていかれてしまいます!!」
「お前帰れ」
「え!?」


喜多が湯飲みを置いて立ち上がった。


「まぁ、有名になったものねぇ、小十郎の野菜も…うちの畑のでもいいかしら?気候が違うから多少味は違うけど自信ありますわよ?」
喜多は動じない。
「姉上にはかないませぬ…しかしただでやるわけには…」



…さーん…


「!!」
今の声は


かたくら―!!
こじゅうろ―さーん!
やさいくれぇ!
ごめんなさいこの



「バカ慶次いぃぃぃ!!」


ばっと馬が塀を飛び越え小十郎の前で着地した。


「な…」
「小十郎さん!!」


慶次に馬から下ろしてもらい駆け寄る。


「小十郎さぁぁぁん!!」
抱きついて頬を胸にすり寄せた。


後ろからすたっと何かが降り立つ音がして小十郎がびくりとする。


「あれ!?小太郎ちゃん?いつのまに小十郎さんと仲良しに?」
「…許可してない…」


小太郎がふらふら近づいてきて、小十郎からを奪い抱きしめた。


「心配してくれたの?ごめんね、大丈夫だよ!」
「……(ぐすん)」
「泣くなよもう!可愛いな―!!」

が小太郎の頭を撫でてよしよしと慰める。
何そいつ泣いてんの!?と小太郎を観察する慶次。
何で前田のこいつと一緒なんだか判らないけどとりあえず兵の立て直しが必要だと考える小十郎に、
が居れば後はもうどうでも良い小太郎。

喜多の目には異様に映ることもなかった。


「小十郎、もしかしてその方が梵天丸様の…?」

何故判るんだ。



「ぼんてんまる…?あ、政宗さんの事ですか?はい!お世話になってます!」


ちょっとは勉強してきたんだよ!


「初めまして、喜多と申します。」
「こちらこそ初めまして、…喜多さん?こっ…小十郎さんのお姉さま!?」
「よく知っているな…そうだ、俺の姉で…」
「姉弟水入らずのところ邪魔してすいません!」

が思い切り頭を下げる。
慶次も謝れと怒りだす。


元気そうだ。
鉄砲に打たれたのではなかったか?

…城についたら政宗様と一緒に聞こう。


「な―、あんたが竜の右目だろ?野菜分けてくれよ〜」

…もしこいつに助けられたのだとしたなら、何か気に食わない。


「俺の作った野菜は青葉城だ…」
「やっぱり?じゃあ青葉城まで俺らは行くぞ!」
「え!小十郎さんは!?」
「俺も戻る」
「じゃあ一緒に」
「え―!?二人きりじゃねぇの!?」
「……」

小太郎がを背後から抱きしめながら慶次を睨む。

「なぁんだよ、おっかねぇ忍だな…」
慶次が小太郎の気迫に少し後ずさった。


「ここには私が作った野菜がございますよ?よろしければ如何ですか?」
「おっ、姉ちゃんは親切だな!いいのかい?ならそれも欲しいな!」
「よく判らないけど、とにかくさんを連れてきて下さったお礼…ということで、ね?小十郎?」
「…姉上がそう申すならば」


喜多がにっこり笑って、歩き出す。

もっと他に聞きたい事があるだろうに。
小十郎は何も聞かない姉に感謝した。


「こちらにございます。」
「おう!!ちょっと行ってくる!」
「うん!慶次!喜多さんは口説くんじゃないよ!」
「…は?」

小十郎さんの顔が引きつった。
慶次がにっこり笑った。

「はは!俺も少しは空気読めるよ!」
「ホントかよ―!あはは!はっ!?小十郎さん!顔怖い!冗談だから!」
「俺も行ってくる…、馬を見ててくれ。…忍、ちょっと」
「…」

小太郎ちゃんが私を見る。

「?小太郎ちゃん、小十郎さんが話あるって。行ってあげて?」
「…(こくり)」

ゆっくり離れて、時々振り返りながら進む小太郎を見て、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

「またすぐ…離れ離れになっちゃう…」

そのたびに小太郎はあんな風に心配してくれるのだろうか。
…心配かけたくない…
何が正しいのかどうしても判らない。
全てを言うべきか、それとも…


後ろで馬がせわしなく頭を動かしている。

「…あ、お水欲しい?」

ヒヒィィンと少し大きく鳴いて、

走り出した。


「えー!?」

繋いでおけばよかった…!!

「待って!」

急いで追いかけた。





慶次と喜多は野菜についての話しで盛り上がっている。
その後方を小十郎が歩く。
小太郎は小十郎の後をついて行く。

「忍、お前さっきの話聞いていたな?」

こくりと頷いた気配を感じ、話を進める。

が今どういう状況にいるか判らないが…義姫様からを守るのはお前の役目だ。」
「…」

…首を傾げたようだ。

意味が判らないか?それとも義姫って誰?か?

「義姫様は政宗様の母君…が義姫様に目をつけられてしまったとき、一番自由に動けるのはお前だからな」
「…」

…また首を傾げた
振り返って少し様子を見た。

「…お前」
あぁ、何だ。
俺がそんな事言う意味が判らなかったのか。
言われなくても、相手が誰でも、どんな時でもを守るってか?

「…俺も負けてられねぇな」







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義姫様は山形城にいらっしゃいますという設定で。(それか米沢城・・・うーん、どちらにしよう・・・)

喜多姉さんは最強だとおもいます。
そして野菜作りは姉さんに教えてもらったような
そんな会話をちょこっと入れてしまい申し訳ない
管理人の妄想です