いつの間に眠っていたのか。

腰の傷はまだ痛むが熱は引いている。

この天井は見たことがある。


「武田……信玄の……。」
着物を着ている。
誰かが着替えさせてくれたのだろう。

ゆっくり起き上がると、傷に一瞬鋭い痛みが走った。
どのくらい眠っていたのか……。

「誰かいないかな……。」
首を回して辺りを見る。
枕元には洋服が置いてある。少し破れた防弾ベストも。
「……。」
静か。
けど外は明るいから誰か居るだろう。


のそのそと匍匐前進で移動し、障子を開けて外を見る。


「!!殿!目覚めたでござるか!?」

幸村さんが廊下で正座していた。
その声に反応して隣の障子が開く。

「本当か!?良かった!」
慶次だ。

「心配したよ!」
佐助さんも庭先の塀に現れた。


「まだ大人しく寝てるでござる!」
幸村さんに抱えあげられ布団に戻される。
佐助さんと慶次も部屋に入ってきた。
慶次は幸村さんとは逆サイドの枕元、佐助さんは幸村さんの隣に座った。

「……本当に、申し訳ない……。」
近くで見ると幸村さんの顔が腫れている。

寝ていないのか、それとも殴られたか……。

「大丈夫だよ。」
「何が大丈夫だ!?昨日は丸一日……今日でちょうど二日目か……起きなくてびびったんだぜこっちは!!」
「え」

慶次の言葉に軽くショックを受ける。
そんなに日が経ってしまった!?

「……心配かけて、ごめんなさい……。」

その言葉が幸村さんの何かのスイッチを押してしまったようだ。
涙が溜まって目が潤んでいる。

殿―!!何故某を怒らぬ!?叱って下され!殴って下され!」
「え?幸村さんはM?」
「えむとは何でござるか!?異国の言葉で惑わせないで下され! なぜ殿は平気で……!また某に笑いかけて下さるのか!?」
「幸村さんは私に嫌ってほしいの……?」
「そんなわけないでござるっ……でも……でもぉ!!」

佐助が幸村の頭に手を乗せる。
ちゃんは心広いね〜。良かったね旦那。 あとは伊達と片倉の旦那と…成実のやつもかな、あと小太郎に殴られれば終わりだ」
「うわひでぇ!」

ということは少なくとも慶次はマジで殴ったのね……?
というか小太郎ちゃんの事知ってるんだ……佐助さん……。

殿……傷は痛むでござるか?有能な医師を常駐させている故、何かあったらすぐ言うでござるよ……。」
「う……すいません、ちょっと手を貸して……起き上がりたい。」
「痛いだろ?」
「お願い……。」
「仕方ねえ……。」

慶次がゆっくり起こしてくれた。
「あ―……いたたたた……いや、大丈夫……。」

痛いと言えば幸村さんが悲しそうな顔をする……。今は禁句だな……。

「なぁ、ちゃん、何事なんだ?前田の風来坊の説明だけじゃ判らねぇ。何で上杉に?」
「長くなるかも。」
「構わぬ。」


この3人には帰れたことから説明すればいいのか
でもいきなりで、みんなにまた会いたくて、約束果たしたくて
そして戻ってきたら北の農村
農民の方と協力したら織田から一発受けて
かすがが助けてくれて

「どこにたどり着くか判らないなんて……酷だったな……。」
「うん……まぁ……。」
殿……某との約束を果たすために……!うう嬉しいでござる…!」
「だから幸村さん、お茶しよ?今から行こ?」
「……嫌でござる!」
「え!?」

思い切り首を横に振られた。

「旦那?」
これは佐助も予想してなかったようだ。

「はっ、果たしてしまえば……殿はもう某に会う理由がなくなる……!そんなの、嫌でござる……!」
「おいおい!はそのために頑張ってたんだぞ!?ガキかてめえは!」
「や〜、そんなこと言ってくれて嬉しいよ。幸村さん、私ももっといっぱい幸村さんとお茶したいよ」
「……でも、殿……満月の夜には帰ってしまうのであろう?」
「……。」


本当のこと、言ったらみんな心配してくれるのだろうか
まだ判らない。本当の事言うべきなのかどうか。
でも、みんなの顔見たら
嘘がつけそうにない


もしかしたら、強制的に来ることになっているかも、そう言ってみると、3人が黙ってしまった。


「あの……?」
「そんな……。」
「……どこにたどり着くか判らないってのに……?」
「危険でござる……。」

確かに今までは運が良かった。

もしかしたら戦場に来てしまったり(あ、それは前回だ
全く判らないところに来てしまったり(あ、それは今回か


、お願いしな。」
「?」
慶次が身を乗り出して言った。

「気持ちってのは強い。あんたは北条の爺さんの強い気持ちでこっち来れたんだろ?だったら、会いたいと思う奴に、会いたいって願いな。そうすれば、行きたいところ行けるかもしれない。」
「前向きだな〜。」
「うるさいな〜いいだろ!」
「……。」

そんなこと考えもしなかった。


殿がこちらに来る日は判っておる。その日は警戒するでござる。な、佐助?」
「そうだな、……それぐらいしかできない。ごめんな、
「むしろ、そんなことしなくていいよ!みんなの邪魔したくない」
「何でそんなこと言うんだよ!俺はあんたが危険な目に遭うなんて嫌だ!俺は探して回るからな! いいか!?織田のおっさんとこに迷い込んだら俺の名前出しな!助けてくれる!」
「奥州と甲斐、上杉と……北の領地は大丈夫だな……、なるべく敵は作るな……ああでも、上層部に接触するまでが大変か。」
「あぁあ……やはり早く天下を取らねば……そうすれば殿も安心してこちらに……!」


みんな必死。
……私なんかのために……


「ありがとう……。」

なんて幸せなんだ。


「信玄様に会いたいな……お礼言わなきゃ」
「動いたら痛いでござる!」
「じゃ〜手ぇ貸して」

ゆっくり立ち上がり、一番背が近い幸村さんに肩を借りる。
抱っこしようかと言われたがそれは遠慮した。







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慶次はついでに佐助も殴ったと思います(ひどい!