「旦那!どこ行くんだ?」
「……まだ、仕留め損ねた兵がうろついているだろう。お館様に伝えてくれ。」
「……はいはい。俺も同行しますかね。」

戦になるとこうだ。
真面目すぎる狂気。
お館様のためにと、それだけの、純粋な黒い想い。


「今晩帰れるかねえ~……。」

槍を強く握り走り出す主を、ため息をつきながら追いかけた。
















「なぁ、疲れてない?」
「ヨユーヨユー……。」
町は通り過ぎて再び山道に入ってしばらく経った。
歩きっぱなしで、しかも身長も体力も全然違う慶次に付いて行くとなると、疲労の溜りが早く感じる。
バイクや車や電車に頼った生活をして、この世界の誰よりも体力が無いんじゃないかと考えて落ち込む。気にかけてくれる慶次に申し訳ない。

「……慶次は、疲れてない、よね?」
「疲れてないよ?」
「だよね!じゃあ私も疲れてない!」

気合を入れようと元気に叫ぶと、慶次が吹き出した。そして声を上げて笑い出す。

「負けず嫌いだな!俺に甘えたって良いって!誰も見てないんだし!」
「甘えって……弱音吐いたって距離が縮まるわけでもない……。」
「ほら。」

武器を前に斜めにかけて慶次がしゃがむ。
前傾姿勢で、肩越しに振り返る。

「乗りな!」
「お、おんぶ!?恥ずかしい……!」
「ここは人通りが少ないんだ。足を捻ったとでも思えばいいだろ。」

ほらほら、と促されて慌ててしまう。
断って、そのうち歩けなくなってしまう方がよっぽど迷惑だろうか。
おずおずと近づいて、その背に身を預けてみる。
どっこいしょ、というように立ち上がるかと思ったら、慶次は何でもないことのようにスっと自然に立ち上がるので驚いてしまった。

「軽い!走れそうだな。」
「ほ、ほんとに!?無理しないでよ!?」
「してないよ!余計な心配しなくて平気だから!」

体力が回復したら下ろしてもらおうと考えてお世話になる。

うーん……。慶次の束ねた髪が、顔や体に当たってくすぐったいやら気持ちいいやら。

「けーじー、ごめんね―。」
「あーあー!耳元で言うな!」









前田家に着いた頃には日が落ちていた。
結局慶次は疲れた気配も見せずにおんぶし続けてくれて、途中でまた馬を借りることもできてうまい具合にたどり着けた。
前田もこれまた城に住んでるのかなと思っていたが、案内されたのは大きめの民家に見えた。
門をくぐって玄関に入ると荷を降ろし、奥に向かって大きく叫ぶ。
「まぁつ姉ちゃ~ん!松茸もらってきた~!」

すぐに、ぱたぱたと軽い足音が近づいてくる。

「早かったわね、おかえりなさい慶次。寄り道しなかったよう……ね?」

出てきたのはエプロンをした綺麗なお姉さんだった。
わっ、この人がまつさん?素敵な人……!

「慶次!!また女の子に声かけて!節操がないのもいい加減になさい!!」
「っつ……!」

笑顔で迎えてくれたと思ったら、隣にいるの姿を一目見ると、眉を吊り上げて怒り出した。
怒ると怖い人なんだな!?

「まつ姉ちゃん!誤解されるような事言うな!困ってたから助けただけだよ!」

慶次が私の後ろに隠れてしまった。

「はっ、初めまして……。と申します。」

「これはこれは。見苦しい所をお見せしてしまいました。わたくしは前田利家が妻、まつにござりまする。」

その場で膝をつき、深々とお辞儀されたので、自分も慌てて頭を下げた。

「どうも……。ええと、目的地までの道が判らず、慶次さんが地理にお詳しいようでしたので、案内して頂いてます。」
「あらそうでしたの。私ったらてっきり……。どちらまで行かれるので?」
「奥州です。」
「まぁ、ではもう日が暮れております故、今日はこちらで休んでいっては?」
「え……?」
「俺もそうした方が良いと思うな。疲れただろ?強行軍だったしな。」

その言葉にまつが反応した。

「慶次!このようなか弱き女性に対して、何てことを!配慮がなってません!そんなことでは……」

お説教再開……!

「わっ、私が休まず行きたいと言ったのです!途中、私を案じて背負って下さったりして……!慶次さんにはお世話になってしまって!」
「あらそうでしたの?」

……嫌だぞ、こんなパターンが延々と続くのは……。

「そういうことだ!ほら、松茸!利は?」
「奥で休んでます。慶次、いたずらしてはなりませんよ」
「へいへい。」
「いたずらするの慶次?」
「へへ……後で良いもん見せてやるからな。」

慶次がまつさんに聞こえないようこっそり耳打ちをした。

利家さんドンマイ……。

慶次が私の腕を取って家の中に入った。
そのままついていくことにした。

「利ぃ!紹介したい人が居るんだけど!」
「ちょっと慶次!利家さん休んでるんでしょ!?」
「大丈夫だよ!あれ?俺、あんたに利の本名言ったっけ?」

言ってなかったっけ……?

「言っ……われなくても判るってぇ!!有名だし……「あ、そか、さっきまつ姉ちゃんが言ってたんだっけ。」
「……うん、そうだよ!!!!!!!!」
はコロコロと意見を変えたが、慶次はあまり気に留めていないようで、にこにこしていた。




「何だ慶次~。帰ったのか~!」

前から、今度はどたどたと大きな足音を立てて男が近づいてくる。
とても薄着の、露出の多すぎる男性で。
この人が利家?
直視していいのかしら?

「利!この子って言ってね、俺の嫁さんに「ならない。」
口挟んですいません。

「ははは!なんだ慶次!ちゃんと紹かっ」

ずぼっと床が抜けた。
上からタライが落ちてきた。(ドリフか
利家さんが下向いた。
何か踏んだようだ。

「いてててててて!!ぎゃー!!」
猫のしっぽだったようだ。
フー!!という鳴き声。
かなり引っかかれてるのだろうと、利家の表情で推測できる。

「あははは!利!猫は俺も予想外だ!」
「助けなよ。」
「いや!?お嬢さんが助けてくれても良いんだけどな!?」

ここは、幸せそうな家だ。








■■■■■■■■
これからブラック幸村降臨します。
苦手な方注意!
……そうでもないかも!?