「なんのつもりだ、小太郎。」
「……。」
は無事だ。私が青葉城まで送る。だから大人しくしていろ。……それをしまえ。」

国境を隔てた森の中の対峙。
互いに大木の枝に脚をかけ、いつでも仕掛けられる体勢を取っていた。
かすがとしては移動中に急襲されて、戦う理由には1つしか覚えがない。
の護衛をこの男がするということに現実味を感じていなかったが、こうして実際殺気を向けられては理解するしかない。
の居場所が知りたいのだろうと思い話し掛けるが、武器を下ろす気配はない。
このままやる気なら受けて立つのみ。それだけだ。
だがこの状況が面白くないかと言えば嘘になる。

「……。」
「お前……何をそんなに慌てている?一刻も早く会いたい、か?変わったな小太郎……。」
「!」
「迎えに来ることなど許さない……。謙信様の土地に踏み込むことは許さない……。」
「……。」

小太郎が構えを解き、高く飛び上がって消えていく。
気配が消えるのを確認した後で、かすがもクナイをしまい、ため息をついた。

埒があかない状況に、カマをかけたらこのざまだ。
伝説の忍も人だということだろうか。

「……気持ちは判らないでもない。」










服を着替えると、慶次が興味津々で近づいてくる。
「これ何て服?どこに売ってんの?」
「内緒だよ。」
「えぇ〜何それ!」

唇を尖らせて拗ねる慶次は無視して、謙信に挨拶をしようと部屋を訪れた。

「滞在させて頂き、ありがとうございました。」
「いえ…どうかごぶじで…かすがにはわたくしからつたえますので。」
「よろしくお願いします。」
「俺がついてるから心配いらねぇって!」

そう言うと、慶次が得意げに胸を張る。

「たのみますよ、けいじ。」
にっこりと微笑む謙信の美しさに、どきりとしてしまった。
かすががいなくて良かった、と思ってしまった。

こんなに有名な人に信頼されてるなんて、慶次も強い人なんだろう、と考える。
図体もでかいし、きっとこの筋肉も飾り物じゃない。
頼もしい仲間が出来た、と思っていると、ふとフルネームが思い浮かぶ。


前田慶次、って言った?
前田?
そういえば朝、まつ姉ちゃんに頼まれたとか言ってなかった?
……も、もしかして利家とまつ!?
ああああ会いたい―!!


「何百面相してんだよ!ほら行くぞ!」

慶次に腕を取られ、引かれるまま歩き出した。

「あっ!ご、ごめん!早く出発しなきゃね!」
「ふたりにびしゃもんてんのごかごがありますよう……。」
「おう!謙信!また来る!!」
「ありがとうございます!(……ビシャモンテンてなんだ?)」


大股で歩く慶次に不安を覚える。
ちゃんとついていけるだろうか……。








謙信のところを出てしばらく歩くが、周囲は木々が並ぶばかりであまり景色は変わらない。
あまりの大自然にまだ慣れてはいなかった為、景色を楽しみながら歩くことができた。
下り傾斜のため、まだまだ息切れするには至らない。
だがしかし、心配した体力よりも大変な問題には悩まされていた。

「……だから愛ってのはさ……。」

止まらねぇこいつの愛語り。

最初はちゃんと聞いて相づちを打っていたが、終りが見えず途切れもしない彼の持論語りに疲れてくる。

「……やっぱり満たされるんだよな……。だから男と女はさ……って聞いてる!?」
「聞いてます聞いてます……。ね―、夢吉―。」
「キー!」

夢吉は慶次の肩との肩を行ったり来たりして、楽しそうな鳴き声で応えてくれて可愛らしい。
今はの肩で、毛づくろいをしている。


早く着ける様に途中で馬を借りて時間短縮成功中です。
馬に乗ってる間も楽しそうに語るしな。
歩いてる間も休むことなく……。


「なぁんだよ夢吉!俺よりと仲良くなっちゃって……。なぁ!はどんな恋愛してきた!?」
「わたし!?え、えっと……。」
「照れることないじゃん!あ、奥手なんだな?」
「……その通りです。」
「モテそうだけどな〜!」

こんなに恋愛に燃えるとは……利家とまつが仲睦まじいから影響されてる……とかかな?
……慶次の話を小十郎さんに聞かせてやりたい(ニヤリ


「じゃあさ、松茸届けるついでに、うちの利とまつ姉ちゃんに会ってけよ!おしどり夫婦でよ、幸せそうで……絶対、あんな風になりたいなって思う!」
「ぜひ会ってみたい!」
「よし!じゃあ急ごう!それから奥州だって……。あ、ところで奥州のどこまで行けばいいんだ?」
「青葉城。」
しまった!と思って
「……の下町。」
ぎこちないと思いながらも、付け足した。

あまり害は無いように思えるが、戦国時代だ。
政宗のことをどう思ってるかわからないし、あまり接触させない方がいいのではないか、と咄嗟に考える。
青葉城近くで別れたほうが、政宗に迷惑かけてしまうこともないだろう。


「へぇ、あそこかぁ。……なぁ、行ったら家泊まって良い?」
「はぁ!?」
慶次は遊び人か!?と思う前に冷や汗!
家なんて無いから!
「え?……あ!そうじゃない!何するでもなくて!多分着くのがな、予想だと夜になりそうだし、遊びたいし……。判った!今のなし!近くに宿ある!?」
あぁ、良かった……。え?宿?知らん!

「や、宿ね〜……。うん、私、あの、最近引っ越したばっかりで……わからない、かな。」

私嘘が下手くそ!
慶次が首傾げて怪しんでる!

「じゃあ泊めて。」

顔笑ってないよ慶次!

「あんた親しみやすいから忘れてたけど、忍の友達で謙信が信用するような人間だろ?普通の町娘なわけねえ……。嘘つくなよ。」
「う……。ごめんなさい……。」
真剣に問われたら嘘を通せない。素直に降参することにした。
「独眼竜の血縁者か?それとも関係者?」
「うーん。関係者?関係者……っていうか……政宗さんは、恩人だから。伝えたいこと伝えに。」

……あれ、そういえば
お別れ言いに来たんだけど
次また現代の満月の日に来ることになるかもしれないのだった。
……いや、どこに飛ばされるか判らないんだ……。
その度政宗さんにお世話になるわけにもいかないだろ……。
どうしよう……。


「独眼竜が恩人?へぇ〜、そんで何で謙信とこ居たの?」
「戦に遭っちゃって、危ないところをかすがに助けてもらったの。」
「戦ぁ!?良かったな、無事で!」
「うん!かすがも恩人だ〜。お礼しなきゃ!ごめんね、嘘ついて……。」
「独眼竜のことを案じてついた嘘だろ?なら可愛いもんだ。嫉妬はするけど怒りはしないよ!」
「あ、ありがとう……。あれ?あれは町?」

狭い林道が終わり、民家がぽつぽつと見え始めた。
は嬉しそうに走り出した。




民家の並びをいくつか抜けると店が並んでいた。
店には主に海の特産物がたくさんあり、買おうとする町人で賑わっている。
海が近いのか?

「ここを抜けて、次の町だ。日が暮れないうちに着きたかったら休む暇ないぞ?」
興味津々で覗き込もうとしていると、後ろから慶次の声が掛かる。
「む、そうなのか。了解した!行こう!」
「おっ、根性あるな、じゃあ早速」
「「「慶ちゃーん!」」」

複数人の女の子の甲高い声に呼ばれ、慶次が振り返る。
も突然のことに驚きながら、声の主たちに視線を向けた。
町の女の子たちが、嬉しそうに笑いながら一緒に叫んだようだった。
まるでアイドルのような扱いだが、慶次のキャラに合っているように思えた。

「あ、あぁ!」
慶次も笑って手を振る。

「モテるんだね、慶次。」
思ったことをそのまま声に出すと、慶次が焦ったように振り向く。

「ごっ、誤解すんな!?」
「誤解?」









■■■■■■■■
慶次のことは呼び捨てです。
そう呼べと言われたと思われ(そのシーン書けよ!
慶次を暴れさせたい・・・
しかしそれはまだ先になりそうです・・・