「政宗様、織田の一部の部隊が北の農村に向かったとの報告が。」
「魔王さん……。次は浅井かと思ったが……。」
「率いているのは森蘭丸、魔王の子と呼ばれる者。」

北の一揆を未然に防ぐ?
防ぐなんてとんでもない。
ただ農民を殺しに行く。

「……一揆の対応なら俺たちだってできる。」

わざわざお出ましとは
弱い者いじめがそんなに好きか

「さあて……ご挨拶に伺おうかね。」
「はっ。それと……についての情報は今のところございません。」
「そうか。」
「政宗様……。」
「生きていればいいんだ。どこに居たって……。」

もしかしたらどこかに連れ去られたのかもしれない。
なら助け出せばいい。
絶対に、助け出す。
……死なせたりなんか絶対にしねえ。
もしかしたら帰れたのかもしれない。
だったら……

「最後に見たのが泣き顔なんて、胸くそわりぃ……。」

そればかり、頭に残っている。










!こっち出来ただよ!」
「早いな〜!ありがとう!じゃあこっち手伝ってくれる?」
「任せろ!」

戸惑っていた一揆衆も、作戦を一緒に考えているうちに仲良くなれた。
今は気軽に、明るい声をかけてくれる。

そして今は何をしてるかっていうと、トラップ作り。
だって危ないもん。
真っ向から戦うなんて。

……。」
「お!いつき!そっちは大丈夫?」

さくさくさく、と、雪を小さく踏みしめながら、俯きがちのいつきに名を呼ばれる。
振り返って微笑みかける。

トラップ作りは私。
そのトラップへの誘導係を決めるのはいつき。

「大丈夫だが……。すまねぇな、こんなことしてもらって……。」

申し訳なさそうな声で、おずおずとおにぎりを差し出してくれる。

「ありがとう。というか、私が出しゃばっちゃって。」
「おらが、みてぇにしっかりしてたら……。」
「……しっかりしてる?」
「かっこ良かっただ……みんなに、命を大切にしろって……畑に血を浴びせることほど神様に失礼なことはねぇて……。」

突然現れた人間の言うことをすんなり聞くなんて思ってもいなかったのに、命を捨てに行くような作戦を聞いているとつい怒りがこみ上げてしまった。
そして説得というか、ただただ自分の意見を熱く語ってしまったのだ。

「しっかりしてないからこういうのが思いつくんだけどね」

図面を広げる。
この土地で、残された時間で、効率的に敵を戦力を削ぐ……なんてできたらいいなって、一所懸命考えた罠の数々。
大きなものは村の大工さんが指揮をとって勧めてくれている。
私は手軽にできる罠を張り巡らそうと頭を捻る。

「ハマったら笑ってやろうな!明るく一揆、だよね!」
「うん!」

優しくいつきの頭をなでた。

「あ、そうだそうだ、いつきにも手伝ってほしいものがあるんだけど……。」
「何だべ?」













「これで完璧だな!ちゃんすごいだなぁ!」

農民総出で取り組み、なんとか完成させた。
戦前の最後の会議ついでにみんなで集まり、食事をしながら穏やかな会話も交わしていた。

「とにかく兵を減らすための罠だから……戦いは避けられないでしょう。みんなちゃんと武装していつきちゃんを守るんだよ!」
いつきがハンマーを指差して立ち上がった。
「おらだって戦うだ!」
「判ってるよ。」

お米をもぐもぐ食べながら、いつきの細腕とハンマーの大きさを交互に見比べる。
一度、振れるの?と聞いたらひょいっと持ち上げて見せてくれた。
戦場でぶんぶん回したら大迫力じゃなかろうか。

「いつ頃来るの?」
「判らねぇ。見張りからの情報がはいらねぇと。」
「情報が見張りってーと……軍隊が見えたらってことだよね?」

美味しそうな味噌漬けに箸を伸ばす。
最初は貧しいのだろうかと食事も遠慮していたけど、私がどんなに食べても皆の食べる量には全く叶わなくて、今では満たされるまで食べるようになってしまった。
さすがは肉体労働者たちだ。

「……そうなるだ。」
「OK、余裕余裕。いつき達、いつもこうやってがんばってんだろ?だったら私も頑張んなきゃ。」
……。」
「いつき!私いつきの楽しそうな顔あんまり見てない!辛いときこそ笑うの! みんないつきの笑顔が大好きなんだから!いつきが笑えばみんな元気になれるんだから!ね?」
「そうだ!いつきちゃん、笑ってけろ!」
「いつきちゃーん!」
「みんな……。」

愛されてるな、いつき……。
私も戦えれば、力になれるのかなあ……。

ちゃんの事も、守るだよ!」

農民のありがたい言葉に照れてしまう。
だけど私は少しでも守りたくて、助けになりたくてここにいる。
気持ちだけもらって、できる限り戦おうと気持ちを高める。

「戦中はいつきのそばにいて良い?」
「もちろんだ!は……おらの、友達だもんな!」

いつきが手を握りしめてそう叫ぶ。
不安そうに。

「友達だよいつき―!」
私も拳を握り叫ぶ。
すぐにいつきの顔がぱあっと明るくなった。

!は、いろんな事知ってるだよな!教えてくれ!この村の外のこと、教えて!」

いつきが飛びついてきた。
軽いからしっかり受け止めることができた。

「うん、知ってることでよければ。」

その夜はいつきと一緒の布団に入り、いつきが寝るまでお話した。

向けられる瞳はずっとキラキラしていた。
……この子のことを、守りたいと思った。












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戦の舞台は最北端一揆鎮圧戦の時ので。