!無事だったか!』
「……。」
『なんと!立派な着物を着ているのう!わしは太っ腹じゃったろ?』
「くそジジイ」
『なんと!?』

枯れた桜の木の下に座っている。
着物のまま。


、安心せい!一晩しか経っとらん!満月の力で行き、新月の力で戻ってきたんじゃ!とにかく早く帰り着替えろ!日が昇ってきとるぞ!」
「あ、あぁ……。そ、そうなの……?」

ふらりと立ち上がり、帰路につく。
体が異常にだるい。まるで長い長い夢を見ていたようだ。
いつの間にか手にバッグを持っていたし。

鍵を取り出し、マンションのドアを開ける。

いつもの、少し懐かしい部屋。

シャワーを浴び、着替えて、パンを食べる。

戻ってきた……。

ハンガーに掛けた着物をみる。

「……。」

懐に、刀の重み。

懐には佐助がくれた下駄。

腕には治りかけの傷。

夢ではない。

一旦意識を現実に向け、講義の準備をする。
「ジジイ―!!」

自分でも呆れるくらい元気よく家を出た。
舗装された道路は歩き易すぎる。

見える!いろいろ見える!霊感復活してる!

あぁ!ポチ!今日も元気に顔半分つぶれてるね!

お嬢ちゃん!今日はいつもより腸が出てるよ!?

大学に近づくにつれ、すでに登校している人がちらほら見えた。
現代人だ……。洋服だ……。
すぐにまた桜の木の下に向かうと、氏政が待ってたとばかりに現れた。
!早いな』
「ジジイ……説明してくれ……。」
『だから、ご先祖様が、力をわしに』
「満月の夜、私はまた戦国に行ける!?」
氏政が目を丸くする。
『何を言っとる!?危険じゃ!』
「なんで……大丈夫っていったじゃん!」
『あのお主をさらに不安にさせてどうする……。気休めの勘じゃ。どこに飛ばされるかもわからず、の体を向こうで保つための力はお主の第六感だ!疲労しているだろう!?』
「う……。」
だから向こうじゃ何も見えなかったのか。
『こんなことをしてすまなかった!だからもう行くでない!』
「でも……。」
『どれだけ心配したと思っておる!?』

氏政の顔が、今まで見たことないくらい真剣なものになる。

『向こうで何があったのかは判らんが、忘れろ……。さぁ、勉学の時間じゃぞ。』
「……。」
氏政の言葉に納得してしまう。
でももどかしくて、拳を握ってしまう。

あんな……あんな別れ方……。

、わしはお主に触れたようじゃな』
「え?」
『手が、暖かくなった』
「うん……。」

振り返って、教室に向かった。



!おはよ!早くない!?」
「おはよ―!もうやる気満々!」
友達と合流し、一緒に座って講義を受ける。

雑談しながらお昼食べて、また講義を受けて
大学が終わったら、友達と寄り道したり、勉強したり、バイトに行ったり
その反復が、また始まった。

「ね、サークル入らない?」
「私、バイトに専念したいな……。」
「ちょっと!せっかく大学来たんだから!サークルで出会い探そうっていってんじゃん!」
「うえ~?出会い~?」
「彼氏ほしいでしょ―?」
「あんたは欲しいかもしんないけど私は……。」
女の子グループで話していると
「ね!今日あいつの誕生日なんだけど、飲みに行かない!?」
男の子からの誘いがきて、友人たちは目を輝かせる。

「いく―!!」
間髪入れずに答えて、すぐに待ち合わせ場所やお店の情報を聞き出し始める。

……はいはい、私も行きますよ……。人として……。




こっちに戻ってきてから勉強は、ちゃんとしてるつもりだ。
でもこういう場は……
思い出しそうで、あまりいかないようにしてた。

「飲んで無いじゃん!」
「飲めないの!悪いか!」
隣にいて話しかけてくれるのは藤本という、大学来て初めて出来た男友達。
「そうなの?なんだ!楽しくないのかと思った!良かった。」
「え、ごめん。」
「いいよ!俺こそごめん。」

彼はなかなか良い人だ。
いろいろ気を使ってくれるし、いつも楽しそうにしていて見ていると元気をもらえる。

って話しやすいよな~。俺結構人見知りしちゃうんだけど、は大丈夫だった!」
「それは嬉しいね!」

気がつくともうみんな男女1対1で話してるし。
ごめんよ藤本……私なんかが相手で……。





!」
「う~?」
「ありゃ。この子だめだ……。藤本!あんた車?送ってってあげてよ!」
弱いってわかってたのにいつもより飲んでしまって、友人にもたれ掛かってしまった。
「立てるか?」
「うん……。」
腕を掴んでもらって立つが、足がふらふらしてしまう。

ぼすっと何かに座らされる。
あぁ、車か……。
ケツ痛くなんなくてすむ……。

!起きろ!家どこ?」
「大学近くの……マンション……。」
「わからねぇよ!おい……ちゃんと言わないとお持ち帰りすんぞ?」
「……む~……ファミマの角曲がったとこ……。」
「あ、言いやがった。あそこか……判ったよ、マジでギブなんだな……。」

エンジンがかかる。
上の空で、あの日から欠け続けている月を見つめた。
~、今度二人で飯食おうよ。」
「……うん、いいよ~。」
「そんでまあ色々語ろうぜ!」
「語る?」
「そ!俺、のこともっと知りたいし!あいつらといるといっつもどうでもいい話ばっかりになるしさ。」
「……そうだね、私も……。」

あの日

もっと早くこう言えれば良かったのか。
教科書だとか
歴史とか関係ないから

目の前にいる政宗さんを知りたいと

教えてくれと

触れられる距離にいたのに

過去の人だと、そういう目で見ていたのか

……最悪だ

?」
「ん?」
「眠いか?」
「……うん」
「……俺の前で寝んなよ?理性吹っ飛んだらどうしてくれんだ。」
「……欲求不満?」

車が大きく蛇行した。

「お前は―!」
「ご、ごめん」
「にっぶい奴だな!」
「……?」

マンションが、見えてきた。
すぐ前で車が止まる。
「ありがとう。」
降りようとすると腕を捕まれる。
「藤本?」
「約束したかんな……今度は二人で。」

約束


また共に茶屋に行けるでござるか?

……幸村さんと

帰るときは、俺にちゃんと挨拶してから帰れ。勝手に消えるな。

政宗さんと……

破りたくない

どんなに辛くなろうとも、後悔したくない。


「藤本ぉ!」
「ん?」
「ありがとう」

悩んでるくらいなら命かけてやる!
絶対もう一度会って……さようならの言葉を。

さあて、明日は爺さんの説得だ!

ガチャッと車のドアを開け、外に出る。
「…何が?」
藤本の言葉は聞こえなかった。








新月まであと4日くらいか。

「なるほど、規則性なのね。15日周期。」
確か佐助さんと会ったときは居待ち月。
逆算して、向こうについたときは満月の次の日。
きっかけとしたら多分、戦国の満月の夜と今の満月の夜がシンクロして、爺さんのわけわかんねえ力がさっさと成仏しろよジジイ。

説明途中でキレるでない!

そして月が力を使った後、私は存在した。
だから着いたのが日が昇った後。

次に行けるのは新月の日だと爺さんが言った。
とにかく満月と新月の日に行き来できるらしいが……。
ご先祖様に聞いたって……。

なんじゃその目は!わしはボケとらん!

問題は時間の流れ。
こっちは一晩しか経っていなかった。
むこうもそうだろうか?
泣いてしまった日の次の日に行けるか?


『うむ。それは行かないと判らぬ。まあこちらの生活に支障はない。じゃが、わしが心配してるのは』
「私死なないよ。小太郎ちゃんがいるもん」
『なに!』
「きっと探してくれる!」
すいません、テキトーな事言ってます。
『風魔が……。』
「うん。仲良くなっていつも一緒にいたの。きっと急に消えて、驚いてるかな……。」
『あの風魔が……。』
話を盛ったが、氏政には随分と効いているようだ。

しばらく考え込むと、わかった、と頷いてくれる。
『仕方ない!もう一度だけじゃ!しっかり会って別れを言ってこい!』
「ありがとう爺さん!かっこいい!」

かっこいいじゃと!?と照れている。
お世辞だったが。

『しかし、やはり不安だから準備は怠るな!武装はするんじゃ!お主の最大の武器は未来の人間であることじゃからな!』
「へへ~、実は防弾ベスト注文しちゃった!ネットで!」
織田の名前が盛んに出てきたから、織田といえば鉄砲!と思い購入した。
……防刃ベストのがよかったのかな?

『むしろ鉄砲を買っては……。』
「買い方知らないよ……。」
そして犯罪だよ……。

「じゃ、頼むよ!もう少しだなぁ!」
『楽しそうじゃのう……。わしらの生きた時代を好いてくれるのは嬉しいのう……。』
「何言ってんだよ!じゃ、今日は帰るね!」
いろいろ準備しなきゃいけない、と、足取り軽く帰路に着いた。




防弾ベストが届き、短刀や着物を一緒に一つのバックに入れる。
「ジジイ!」
それを肩にかけて、元気よく桜の木の下に向かおうとしたら氏政の声がして振り返る。

―!!』
「ぎゃあ!」
慌てた顔して窓にべたぁと張りつく氏政が目に入る。
「何し……。」
『勝手に空間が歪んだ!こっちに来るぞ!』
「え?」

つまり

心を決めなくても

ずっ……

『頭上にっ……!』

頭から飲み込まれて

「強制ですか―!?」








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オリキャラ藤本君。
彼には悲しい役回りさせます。
ごめんね・・・
そして未練ありまくりの主人公
いきなり帰ってきちゃったので、断ち切れません。
許してあげて・・・
それにしてもなんて安っぽい会話を書いてしまったんだ・・・