「おい!どーした!?もっと動かねぇと気持ちよくなれねぇぜ!?」
「ひゃ!ひっ……酷い~……頑張ってるの……にっ!」
「もっと腹も腰も使うんだよ!おらぁ!俺が主導権握っていいのか!?立てなくなるぜ!?」
「ちょ……もう握ってるじゃんっ……!……あっ……待って……!」
「あぁ!?こんなもんで済むと思ってんのかぁ!?」
「……。」
ずずーっと小十郎が縁側で茶をすする。
「おはよう、片倉殿……。何事?朝から元気に卑猥だね」
とたとたと、朝食を済ませた成実が様子を見にやってきた。
「……卑猥だと思うのは俺達が汚れてるからだ。」
「ひっどいなぁ……。って、達って、片倉殿も思ってんじゃん。」
「……。」
ずずーっ……
「当の本人達は至って健全ってオチですか。」
庭で繰り広げられるスパルタ政宗の剣術特訓。
政宗曰く息抜き。
曰くいじめ。
「武器は絶対手放すっ、な!」
「ぎゃ―!負けん!」
政宗はずっとの手から武器を弾こうと攻撃をする。
は必死で受け流している。
最初は上手くいっていたが体力の差は歴然で、そろそろがついていけなくなっている。
「政宗様、その辺にしてあげてください。」
「あ?」
政宗が攻撃を止めるとは息を荒げ座り込んでしまった。
「あ―あ。ちゃん、くたばってんじゃん。もっと手加減しなよ。」
「これ以上は出来ねぇな……。というかこいつはまだ動けるってんだ。な?」
「あったりまえじゃ―!!まだまだ!!」
「……政宗様、。」
小十郎の声がワントーン低くなり、二人がビクッと肩を震わせた。
「仕事、ありますよね?」
「「……はい。」」
朝のレッスン終了。
「へえ~、これ日本地図……。」
ちゃんとしてる。
どうやって描いたんだろ?
当然だけど、県がないや。
藩もないしね。
伊能忠敬は江戸時代だったか……?
「美濃は織田に落とされたと。さて、俺らはどうするかね……。」
「織田はどこ?」
「ここだ。尾張。」
は違和感無く政宗達の会議に入ってしまっていた。
一緒に地図を囲んで、分からないことだらけのが一番真剣な顔をしていた。
「うちの隣は越後。軍神様がいらっしゃるぜ?」
「軍神様?」
「上杉謙信だ。」
かすがの主だったはずだ。
すぐ隣だったのか。
「徳川は?」
「三河は……ここだな。」
「豊臣。」
「ここ。」
「……。」
「……。」
「お前はそれだけしか知らないのか!?未来人!」
「すすすすいません~!」
政宗がの鼻をつまむ。
「まぁまぁ、ちゃんは医学学んでるらしいしさ、仕方ないよ。」
成実が政宗の腕をぽんぽんと軽くたたく。
「う……。まだ学習中の身ですが……。」
「まぁいい。さぁて……。」
政宗がまた地図に向かう。
同じく覗き込み、また勉強再開だ。
「これ、なんて読むの?」
「四国か。ちょうそかべ、だ。」
「へぇ……。あ、毛利、ここも知ってる。ん?ここは?北の……青森あたりの……えと……。」
「ここは農村が広がってる。こっちは津軽。」
「りんごだな。」
「あぁ、りんご……。ふざけてんなら下がってろ!!」
「すいません!!」
ここは本気で、頭を下げて謝罪する。
小十郎はその騒ぎを意にも介さず話を進める。
「確かに織田も気がかりですが、豊臣……。奴らは軍事力拡大のため、本多忠勝すら狙っていると。」
「ふーん……。」
本多忠勝?と首をかしげると、成実が耳打ちをしてくれた。
「徳川家康の家臣だよ。戦国最強を名乗ってる。」
「最強!?」
「まあ、その名に相応しくすげえよ、あれは。」
最強の名を持つもの……!かっこいい……!でも怖っっ!冷酷残虐なのかな……?と思うが、成実は感心するような顔で恐れている様子はない。
そんな人なのだろう、と想像していると、茶を出せと政宗に言われ、仕方なく部屋から出る。
「尾張の織田……か……。彼は本能寺で……。」
廊下を歩きながら独り言をつぶやく。
「……どうなんだ?」
自分の知ってる歴史どおりに進んでいるとは思えない。
そもそも現代で氏政から聞いた時点でそれはありえないだろう、と思うことばかりだった。
もし、織田が死ななかったら?
「……判んない。」
自分の無知に嫌気がさしてきた。
「そーっと……。そーっと……。」
人数分の茶を一気に運んでしまったら、大量になってしまって重い。
こぼさないように、慎重に歩く。
政宗の部屋の前まで来て一度お盆を置く。
正座をして、両手で障子を開けて……。
教わったわけでなく女中さんの真似をしているだけ。
「はいお茶ですよ……。って解散してんじゃねぇよ!!」
まだ地図を囲んでいるとばかり思っていたが、中には成実しかいなくて一人つっこみだ。
「ありがとね~。飲む飲む~。あ、殿はねぇ、忍のとこ行ったよ~。黒脛巾って言葉出てきたら忍のことだから覚えといて。ちょっと時間かかるかも。」
「お茶欲しいって言っといてあの人は……。」
「まぁ、許してあげて?」
湯呑みを持って無邪気に笑う成実は、最初に会った時から変わらず優しそうで、話しかけやすい。
片倉殿は馬の様子見に行って~と、いろいろ教えてくれる。
「……成実さんは普段何してるんですか?」
「ん?俺?稽古してるよ?」
「兵の指導とかもしてるんですか?」
でも、日常があまり見えない、一番謎な人でもあった。
「興味持ってくれて嬉しいよ。そうだね、指導もするし……軍務もちとやって、たまに大森城に行ったり……。」
「え、え、成実さんのお城?軍務!?頭良いんだね成実さんて!」
「違う違う。頭使う仕事は大体片倉殿だから。ちょっと手伝いする程度だって!」
「へえぇぇ…」
「あ、ちょっと、照れくさいなもう!そんな目輝かせないで!」
両手を振って、照れの仕草。
お前は少女マンガのヒロインか。
可愛いな……
可愛いうえに優秀なんだな……
「俺は肉体労働!次どこ攻めようが、絶対勝つ!」
「頼もしいね!」
「頼もしいのはちゃんも同じ!」
意外な言葉にぱちぱちと瞬きをする。
「頼もしい?」
「うん」
「筋肉無いよ……?」
袖をまくりあげる
ついてるのは脂肪……。
あ、泣きたくなってきた畜生。
「細いな―!……って違う!うんと、ちゃんが来てからさ、いろいろうまいこといってる気がする。」
「え?」
成実がお茶二杯目に突入する。
「前なんてさ―、1回出陣した後休み無しでまた出陣みたいな……。気持ちは分かるけど無茶苦茶だよね!馬も兵も疲れてんのに……。
でも今は……いや、安全策とってるなんて言えたもんじゃないけど、調子良い感じする。悶々してたとこに、君が現れて、思いもよらなかった突破口が見えてるんだ。殿は、きっと。」
「そう……なの?」
「俺の観察眼が信用できない?」
「そんなことないっ……けど……。」
「あはは、顔赤い!可愛い~。」
成実さんがお茶三杯目に突入する。
「……だから、さ、その、殿の事……裏切らないで欲しいんだ。」
「……裏切る?しないよ!絶対!」
どうしてそんなことを聞くのだろうと、疑問に思いながらも必死に訴える。
そんな風に見えたのだろうかと、焦ってしまう。
「ごめ、あの、言いたかっただけ!気にしないで!」
成実さんが四杯目のお茶を一気に飲む。
「飲みすぎじゃないですか?」
「せっかく淹れてもらったんだもん飲まないと。」
「成実さんっ……!」
成実さんの気遣いにヲトメモード発動。
手を胸の前で組んで上目遣い。
「……。」
ノリがいい成実さん。手を私の頬に当てて王子モード発動。
「……。」
「……。」
「かっ……厠―!!」
「行ってらっしゃいませ~。」
飲み過ぎだから、と、手を振って見送った。
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成実さんは普段可愛くて戦だと豹変すると信じて疑わない管理人。