結局、日が傾き始める頃までと政宗とのチャンバラは続いていた。
は汗だらけになり、前かがみになって肩で息をしていた。
「疲れた!!」
「じゃあここまでにするか?。」
「ううー汗かいた……。……これウエスト締まりそうだな……。」

腕を上げて思い切り背伸びをする。
これまであまり使っていなかった筋肉を酷使した感覚だ。明日には筋肉痛に襲われるかもしれない。
途中からムキになってしまい、無理してしまった。

「慣れだ慣れ。少しは使えるようになったほうがいいだろ。護身ぐらいできるようになれよ。」
「そうだね!何があるかわからないもんね!」
「……。」

に背を向けて、自室に向かう。
はそれには付いていかず、身体を回したり脚を伸ばしたりして運動後の体操をしていた。
政宗が口元を上げているのには気づかない。

受け答えは、嫌だ、怖い、守って欲しい、でも良かったのだ。
全く戦い方も知らず、そのへんのお姫様よりも弱そうで。
なのになんだ、あの好奇心と向上心は。
この俺が、守ると言っているのに聞いてねえのかよ、と可笑しくなる。

だが嫌いじゃない。

そのくらいの女のほうが好みだ。

自室で箪笥の中を物色し、新品の手ぬぐいを取り出した。
戻って、一息つくの背後に回り込んで肩に掛けてやる。
「お?」
「使え。やる。」
「わあ!和柄綺麗~!これ知ってる!鱗紋!」
「いちいち騒がしいな。黙って使えねえのか。」
「ごめん……ありがとう。」
政宗に振り返る顔が恥ずかしそうに微笑んでいて、照れ隠しに喋ってしまっている様に見えてしまった。

可愛らしいとこもあんじゃねえか、と、フッと笑う。

「ほら、早く戻るぞ。仕事終わってねえ。」
「え、仕事……って、政宗さんの仕事でしょ……?」
さん鋭すぎんじゃねえか~よしその力を借りればすぐ終わりそうだ。」
「つ、都合良すぎてなんて突っ込んだらいいのやら!!」





断れず、また政宗の自室へ向かい、政務の手伝いをすることになった。
今度は隣で、雑談をしながら政宗が書く書簡をまとめて包んでいく。

「小太郎が居ない間は俺が稽古相手になってやるよ。」
「えぇ!?ちょっとあんた立場判ってる!?あんた殿だぜ!?」
「判ってるわ!んだよ、殿に息抜きは必要ないのか?」
「す、すいませ……。」

そう言われればもう何もいえなくなる。

……くぅ、今の状態じゃ政宗さんに敵うわけないのに……。私に付き合うんじゃなくて私が政宗さんの息抜きに付き合うように思えるよ……。


「正直言うと意外だったけどな。」
「え?」
「短刀渡したけどよ、本当に振ろうとするとは思わなかった。」
「そうだったんだ。」

確かに、戦中に小太郎ちゃんが来たとき、心臓バクバクいってた。
小太郎ちゃんじゃなかったらどうなってたんだろうとか考えたりした。
……けど

「いっつも持ってるよ。」

懐から少し出して、柄を政宗に見せる。

「俺の前でもかよ。おっかねぇな。」
「御守りなの。」
「ah?持ってるだけじゃ守ってくれねぇぞ?」
「そんなことないよ?気持ちの問題。」
「気持ちだけじゃ人は斬れねぇ。」
……変なところひねくれてんな。

大名として生きる大きな責任を背負った政宗には理解してもらえないかもしれない。
そう思いながらも、自分の意見を耳に入れてほしいなという思いのほうが強くて、口を開いた。

「あのね、この短刀、政宗さんに似てるの。持ってると前向きになれるし、安心する。」

貰ったときに握られた政宗さんの手の温度を体が覚えてるから……かな。

短刀をまじまじと見つめながら、思い出しながら、ゆっくりと話す。

「危険に立ち向かえる勇気も、くれる気がする。だから強くなりたいと言うよりは……元気になりたくて振りだしたって感じかな。これ使って小太郎ちゃんに相手してもらったの。」


また何か言われるかな、と思いながら視線を政宗に向けると、目を丸くして驚いていた。

「え?」
「……。」

磔にされてるかのように動かない様子に、あまりに妙なことを言ってしまったかと不安になる。


「……あ、私としたことが……か、語っちゃったね……。ヒいた?」

こんな政宗が見れるとは予想もせず、慌ててしまう。
だが政宗から出てきた言葉はもっと予想していなかったものだった。

「……それは、俺が幼少の頃使ってた短刀だ。」

「え……た、大切な物なんじゃ?」

言ってくれよ!
だったらもっと丁重に扱ってたのに!

「……俺が一番辛かったときに、握り締めていたものだ。」

「……え……?」

まさかの
まさかの発言

辛かった?

……伊達政宗の歴史……。
……あぁ私の知識にはない!!
インターネット欲しい!!

「そんなもんに、そんな感情抱くとはな。」
かける言葉に困ってさらに慌てるとは真逆に、政宗の口調はとても穏やかなものだった。
「ほ、本当、だよ。」

政宗が少しだけ笑う
この雰囲気は見たことが有る。

右目関連かな……。


「政宗さん……あの。」
「嬉しいぜ?」
「……う、ん」

政宗が突然、あぐらをかいたままごろんと後方へ倒れた。
そして部屋に大の字になって寝転んでしまう。
「何してんだ!?」
「うるせぇ。」
「頭ゴッて音したよ!!」





正直判んなかったんだよなぁ

何で俺はよりにもよってそれをおまえに渡したのか

訳わかんねぇ、こいつ

妄想癖持ちかよ

なんか知らねえが

……救われる

ガキの俺の、足掻いていた気持ちを

前向きだ?

過去を美しくしたい訳じゃねぇ

可哀想って言われたくもねぇよ

こいつは単に受け止めるだけ受け止めてくれる

感じたことを

見えないもんまで

それだけだ

それが心地いい

ジイサンもこんな気持ちだったのか?



反動をつけてそのままの体勢で起きあがると、慌てっぱなしのの顔が真正面にあってまた笑ってしまった。

「脳細胞死んでない!?」
「死なね―ヴォケ。」
「普通にボケと言え!無駄に発音良くしてんじゃね―!」
「あ―もー喋んな。終わらね―。」
「終わりそうだろが!あと1文字だろが!宗!サイン『伊達政』で止まってるだけだろが!」

積み重なってた書類はもう無い。
明日は朝から息抜きするかなぁ……。
(政宗様!!)
小十郎の心の叫びが聞こえるが今は許せ。


「宗!ほら!……ゆっくり書くなー!イライラするわ―!」


自分が思ってる以上に俺はこいつが嫌いじゃないようだ。








■■■■■■■■
最初、政宗氏の右目切った刀にしようと思いましたが
それだとアレかなと思い(どれだ)
単に持ってたものにしました。
きっとその刀は小十郎が大事に持ってるでしょう。
それにしても主人公ちゃんにとんでもない事言わせた気がする。