「というわけなんですが、政宗さん。」
「まぁ…有能な忍なんだろうが……。」
「ヘッドハンティングだと思えばいいじゃないですか。小太郎ちゃん、良い子ですよ?」
「お前、ちゃんとあいつの世話できんのか?」
「世話て!小太郎ちゃんを何だと思ってんだい!」

政宗に小太郎を伊達軍に入れてもらえるように交渉していた。
当の本人の小太郎はどこかに行って不在だが。
明日の朝、氏政の所へ出発する事にしたらしいのでその準備でもしているのだろう。

今は政宗との二人きりだ。

はぁ、とでかいため息を吐かれた。

「まあ、あの調子なら危険は無いと思うが。」
「ね!超良い子!!」

そうか、と政宗さんが頭を掻く。

「あいつと一回話しがしてぇ……が……。」
「……喋るかなぁ……?でも結構態度で判るよ?」
「面倒だな……試しに酔わせてみるかなぁ……ベラベラ喋り出すかもしれねぇ。」
「だったら面白いっっ……!」

というかお酒飲むかな?と首を傾げていると、廊下から足音が聞こえてきた。
これは小十郎さんだ、と分かるようになってきていた。

「政宗様。」
「おぅ!準備できたか!」
「あ、夕食?」
何言ってやがる、と政宗さんがニヤリと笑う。
「partyに決まってんだろ?」
「そうか!」
勝ち戦だもんね!!
……全く準備手伝ってない!






広間に行けばもうみんなすでに酔いが回ってどんちゃん騒ぎ。
成実が豪快に飲んではしゃいでいるのが目に留まる。

「殿―!ちゃん!先に始めてるよ―!」
「おう。」
「成実様が二人は愛の抱擁でもしてるだろうから邪魔するなって!あははははは!」
「……留守さん、完全に酔って……。」
「あぁ、忘れてた。」

政宗が両手広げてに近づいてくる。

「いっ……いらんいらん!」
「恥ずかしがんなよ」
もちろん逃げますとも!

「あれ?」
駆け回ってたら女中も家臣に混じって一緒に食べてるところが見えた。

「小十郎さん!」
は一人で静かにお酒を飲んでいる小十郎に駆け寄る。
隣に座れば小十郎が微笑みかけてくれた。
「政宗様は?」
「後方で捕まったよ。」

部下たちに酌されているのを指さすと、仕方がないな、というように小十郎が軽いため息をつく。

「なぁ、、戦中何かあったか?」
「え?」
「女中がやたら主張するようになったんだが……。前はこのような場は遠慮していたのに。」

参加したいと意見したのだろうか。小十郎は心底不思議がるだけで、不快に思っている様子が無くて安心する。

「女性だって楽しいことが大好きなんですよ、ふふ。」
「そうだな…!?」
「片倉様!お酌させてください!」

風呂場で小十郎に憧れていると言っていた女中が、の後方から声をかけてきた。今まで声をかける機会を伺っていたのかもしれない。
小十郎はそれにただ戸惑っていた。

「い、いや俺は……に酌を……。」

目がと女中を何度も往復してる。
本当に苦手なんだなぁ、こういうの。

「一度で構いません!」

かなり勇気を出してここまで来たんだろう。
必死だ。

「何遠慮してるんですか?いいじゃないですか。」
「そ、そうか?じゃ、じゃあ、頼む。」
「ありがとうございます!」

トクトクと御猪口に酒が注がれる。
なるほど、ああいう風にするのか……、と感心しながら見つめていた。
注ぎ終わったらお辞儀をしてすぐに去ってしまった。
お話とかしたかったんじゃないかな、と思うが、居候の身、そこまでのお節介は出来なかった。

「何なんだ……。」
小十郎が困惑しながら盃を呷る。
思わず笑ってしまった。

さん。」
「篠さん。」
篠は湯呑みのような物を持って、に近づいてきた。
「これなら飲めるわよね?特別に作ってみたの。」
「甘酒!?」

これなら酔わずに飲める!と喜んで受け取った。

「ありがとう!」
「いえいえ。」
「篠さんお酒飲む?私、お酌を……。」
「あ、私は……。」

酒が入ると口が悪くなっていろんな物を投げつけちゃうから……。

す、すいませ……。



篠もそそくさと去ってしまい、またすぐに小十郎と二人になる。

「仲良くやっているみたいだな。」
「はい、良くしてもらっちゃって……あ、これ食べていいんですかね?小太郎ちゃ~ん。」

はい、天井からスタッと参上。

小十郎さんが少しびくっとした。

「食べる?」
こくり
「飲む?」
…………ふるふる

あ、なにその間。ちょっと飲みたかったんじゃないか?

しかし人前だと装備外さないなぁ……小太郎ちゃん……。

「ね、この肩のやつとか頭のやつ、外して。」

ふるふる

「だめなの?」

こくり

「……どうしても?」

こくり

「……小太郎ぉ」

びくっ

「……、勘弁してやれ。」

小十郎さんに言われちゃしょうがない。
大人しく甘酒を飲むことにした。






真夜中になっても騒ぎは終わらない。

「……。」
あ、小太郎ちゃんじゃないです。私です。

最近規則正しい生活してたから、眠くなってきた。
……現代じゃ普通にオール出来たのに……。


まだまだ楽しくて、寝たくないなあと思いながらうとうとしてると小太郎が肩に手を添えて支える。
それに甘えて、が寄っかかる。

ちゃん!眠い?」
「……ねむかねぇ……やい……。」
「眠いんだな……。」
「ha!前は酔いつぶれて今回は眠気に負けんのか!?」

いつの間にやら政宗も近づき、の顔を覗き見る。

「まけてねぇ……やい。」
「完敗してるだろ……。仕方ねぇな、運ぶか。」

こくり

頷くとすぐさま小太郎がを抱きかかえて部屋へと運んでいった。




「……。」
「殿、残念。」

政宗はを運ぶ気満々だった。

「ある意味真田幸村よりやっかいな好敵手かもしれませんね?」
「……どーゆー意味だ!しらねぇよあんなやつ!」

大股で不機嫌さを全開にしながら政宗が部屋を出ていってしまった。
成実と小十朗は少し笑って、兵達に殿に構わず宴会を続けるよう促した。






「そいつ寝たか。」

障子を開ければ、寝ているの横で小太郎が俺に背を向けてあぐらをかいている。

こくり

「女の寝顔をずっと眺めるたぁ、あんまり良い趣味とはいえねぇな。」

びくっ!

「……。」

くるりとに背を向け、俺の方を向いた。

……確かに、分かりやすいか?

を大事だと思うか?」

こくり

……素直だな

が伊達軍に入れと言ったら入るか?」

こくり

「俺のために死ねるか?」

こくり

躊躇わねぇな……。
……そういう教育されてんのか……。

「しかし、お前が死んだらは泣くぞ。俺の言ってる事が判るか?」

沈黙

「死のうとするな。生きるために戦え。」

「……。」

「判らねぇか。」

一度下を向いて
顔を上げて

判りたい、と

口が動いたのを、確かに見た。

「……判るようになるさ。」

そいつの傍にいれば。










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二度目の宴会
女性進出
・・・していいものか、本来参加すべき事なのか・・・
まあ伊達軍だし(え