あぁ、ごめんなさいお母さん。
あなたの娘は節操なしです。
近くにいろと言ったばっかりに
現在私は小太郎ちゃんと一緒に布団に入っております。

だってこんな可愛い子に出てけなんて言えますか!?

……それに一人じゃ爺さんの事考えそうだし。
あ、考えちゃった……。

「……。」

小太郎ちゃんは寝てる、と思われる。
兜は外しているけれど、長い前髪が目の周りを覆って、瞼を閉じている、だろう、くらいしかわからない。
髪を上げてみようと手を伸ばしたらすごい勢いで掴まれたのがちょっと怖かった。
寝息はわずかに聞こえるのだが、物音したらすぐに起きそうな、警戒は解いていないような強張りを感じる。

「……。」

その姿を見つめながら、氏政からもらった文の内容について考え込んでしまう。


小太郎ちゃんは、私なんかのためにここにいて良いのかな……。
理想は政宗さんに仕えてくれたら……。
でも爺さんの手紙にそうあったのに、無下に出来ないよ……。


北条で見た氏政の笑顔を思い出し、また涙ぐみそうになってがばっと布団をかぶる。
小太郎が起きてびっくりしたようだったが、一言、ごめん、としか言う余裕がなかった。

あぁ……寝よう……。
明日政宗さんに相談しよう……。
でもあれだな……読心術が使えるなら……。
小太郎ちゃんに私のこの迷い、気付かれてるんだろうな……。

今度は、ごめんね、と心の中で思いながら、目を閉じて眠りにつく。








政宗達の帰還は昼頃になるとの連絡があった。

それまで小太郎に剣術を教えてとお願いし、庭に出た。
政宗にもらった短刀を持って。

「おりゃ!」
「……。」
腕を振ると、ぱしっと小太郎の右手に掴まれてしまう。
小太郎は左手を軽く握って自分の腹をぽんぽんと叩く。

「え?もっと腹使えってこと?こう?」

今度はやや低く構え、お腹に力を入れて、体全体を使うように意識して攻撃を繰り出す。
小太郎が刀を抜いて、その一撃を受け止める。

ガキィン!

「あ、いい音響いた!」
「……。」(こくり)

小太郎が軽々受け止めるのに悔しさを感じてしまうが。
少しずつ、回数を重ねるほど感覚が掴めてくる。

「もいっちょ!」
大振りになってしまったが、体重を短刀におもいっきり乗せられた感覚。
「……!」

小太郎の軸足が少しずれた。

「今の良かった?」
こくり
「おお~!なんかちょっと扱い慣れてきたような!」




「……。」

素直に喜び、笑う様子を見ながら小太郎は考える。


は、飲み込みが早い。

俺の動きを事細かに観察し、分析している。

……無意識かもしれないが。

体力と力が無いのが欠点だ。

しかしそれを補う速さを身につけられれば……。

あるいは、的確に急所を突く技術を身に着けられれば


……何を考えてる。


俺はを守るためにここにいる。

命だけではない、立場も。

には未来の知識がある。

頭もいいようだ。

観察力、分析力、適応力、発想力、行動力、判断力…

相手をしていれば判る。

長けている。

気づかれれば、利用されてしまうかもしれない。

そうなれば、今の乱世の情勢が変わるかもしれない。

そうなれば、は傷つく。



だから俺が守る。
そう氏政様と約束をした。
それに何より……。


「…………。」
たくさんの蹄の音が迫ってくる。


「政宗さーん!小十郎さーん!みんな―!」

が大きく手を振る。


「って、あ―!消えないでよ小太郎ちゃ―ん!」



……あの男は、

伊達政宗は、彼女に対してどのような感情を向けるのだろうか。










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ちょっぴり小太郎視点
主人公ちゃん、優秀なようです。