奥州の見知った屋敷に戻ってくると、辺りはすでに暗くなっていた。
城の中はが居なくなったと少し騒ぎになっていた。
大丈夫だよ~ここにいるよ~とのほほんと姿を現すと、とくに怒りもせず皆がほっとしてくれた。

小太郎を紹介しようとしたらいやだと首を振り、消えてしまった。
かすがが教育しろと言っていたのはこのことか!?

それからなかなか出てくる様子もない。




「小太郎ちゃん~。」

夕ご飯を持って屋敷内をうろうろする。
どこへ行ったのだろうか。

「こ~たちゃ~ん」
同じ呼び名ばかり連呼もつまらないのでちょいちょい変えながら。。

「お腹空いたでしょ~?」

人気のない屋敷の隅のほうに来たところで、ストッと軽い物音が背後で聞こえた。
振り返るともちろんそれは

「小太郎ちゃん、ご飯!」

膳を部屋の畳の上に置くと、小太郎がその前に座り、手を合わせて食べ始めた。
その様子をが黙って見ていると、ご飯を差し出してきた。

「私はもう食べたから大丈夫だよ。小太郎ちゃんの分だから」
そう言うと手を引っ込めて再び食べだす。


忍って普段は何してるんだろ……。
私の護衛ってそんなに仕事無いんじゃないのかな?
色々、お願いしていいものなのかな……。


「小太郎ちゃん。」
「?」
「今日は、近くにいて欲しいんだよね……。」
「……。」
こくん、と頷かれる。
「良かった。ありがと。」
にこっと笑って、胸を撫で下ろした。

放っておけば、佐助のようにどこか分からない所で寝るのだろう。
最初からそれは不安だったし、特に今日は、一人ぼっちで過ごす時間は少なくあってほしかった。









食べ終えたら食器を片づけ、また部屋に戻る。


小太郎ちゃんを待たせて……
……いたはずなのに!

「いない!」
慌てて周囲をきょろきょろと見回し探し始める。

やはり忍の扱いは難しいのだろうか!?

「…………。」
「おわ!?」

背後にいた!
心臓に悪い!


にかまわず、てくてくと外に向かう。

「どこ行くの?」
「…………。」

振り向いて、おいでおいでと手招きされたので、急ぎ草履を履いて庭に出た。

「ま、待って……。」



ダッ

トントントン

スタ



何の音かって
小太郎ちゃんが屋根に登った音です。
……手招きしてるよ。


「無理だよ!」
「…………。」

戻ってきて

ゆっくり登って見せてくれた。

え、こうやるんだよ~って?

「……やってみるか。」


まずは塀にぴったりくっついて重ねられてる木箱に登っていって足場にして

塀の上に飛び乗って

屋根が最も近くにくるとこまで歩いて

……また飛び乗る。

これが怖い。

塀はそこそこ高いよ……?


「小太郎ちゃん……。」
情けない声が出たぞ……。

狙いの着地点の横に小太郎がスタンバイしてくれていて、大丈夫だから、と言われてる気がするから、受け止めてくれるのだろうか。
「……よ、よし」

確か小太郎ちゃんはなるべく前傾姿勢で前へ蹴り出す感じで……。

「とうっ!!」
戦隊モノっぽい掛け声が出たぞ。

なんとか片足が着いたので思い切り踏ん張って体全体を起こす。

……そういえば私
草履履いて……


ずる

滑っ……


「わっ……!」
小太郎が落下しそうになった腕を取って引き、なんとか体勢を整えることができた。

「ありがとう……。あはは、格好悪いなぁ」
「…………。」

は苦笑いするが、小太郎は無反応だった。

仲良くなるには前途多難だろうか、とも思うが、かすがと会った時も守ろうとしてくれる態度が見えたし、今も助けてくれたので本当に護衛はしてくれるのだろう。
何より、氏政が教えてくれた小太郎像を信じようと思う。
姿が見えなくても危機には必ず風のように現れて助けてくれる、頼りになる伝説の忍だ。


小太郎が歩きだしたので、も後をついて屋根の上を歩く。

夜空に浮かぶ、綺麗な月を見ながら。

大した距離もない、ちょっとした散歩だが、いつもより空が近くて新鮮な気持ちだ。


だが、小太郎にどうしても聞かねばならないことがある。
もしかすると、月を眺めて穏やかにしている小太郎の機嫌を損ねるかもしれないが、それを怖がってはいけないと思って勇気を出す。



「……小太郎ちゃん、明日政宗さんが帰ってくるの」
「……。」
「政宗さんには、言って良い?」
「………………。」

手が少し震えてる?

「……小太郎ちゃん、伊達のみんなに手を出さないで……。」

私は酷なことを言ってるのだろうか。

「……。」

立ち止まってしまった。


「でも、小太郎ちゃんを紹介しないと……ここに居られるか判らないし……私じゃお給料もあげられない……。私だって居候の身だし……。」

それに私が元の世界に戻ったら小太郎ちゃんは次どこへ……
……どこへでも行けるか?有能な忍だし……

ふるふる

小太郎が下を向いて首を振った。
突然の事に、は何に対しての否定か分からなかったので確認をする。


「紹介、やだ?」
ふるふる

違うらしい。

「伊達軍、許せない?」
ふるふる

これも違うらしい。

「お給料、欲しいよね?」
ふるふる

えっ!?うそ!?


小太郎がを見る。
かがんで、の耳元に顔を寄せて


「……え。」





……喋った……



ぱっと身を引かれて、背を向けて歩きだす。
またはその後を追う。



『傍にいさせてくれるなら、それだけでいい。
の好きにしてくれて構わない』



……なんだそりゃ。

……顔が熱い……。



降りるときも小太郎ちゃんのご指導が待っていた。
降りるのコワイヨー!!











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はい、喋ってしまいました。
ごめんなさい、腐ったイカは送らないで下さい