しばらく夕陽を眺めていると、背後からカサッと音がして、小太郎が立ち上がると同時に背に携えた武器に手をかける。

「……。」
けれど、すぐに離して胸の前で腕を組み、俯いた。

「え、な、何…?」
敵ではないのだろうと感じてひとまず安心する。
小太郎の友人だろうか。
カサリ、と小さな音を立て、木々の中から人影が現れる。
金髪の、やたら胸元が開いて体の線が見える服を着た女性だった。

「し、忍……?」

その女性が声を発する。

「ふ、ふふ……。」

急に、肩を震わせて笑いだす。

「ま、まさか小太郎が……小太郎のこんなとこが見られるとは……。」

名前を知っているのだから知り合いだろうと思うが、こんなところにいるのだから北条軍では無いと考える。

「…………。」
「な、何を!?貴様言うようになったな!私は謙信様のおそばにいられればそれで良い!」
「……え?」
小太郎は、何も言っていないが、女性は心外だと言わんばかりに怒りだした。

「……………。」
「えぇい黙れ!」

黙ってますよ?

自分だけが蚊帳の外というのは寂しい。
それに、文の内容を考えると、小太郎は伊達軍に来るというか“居る”ことになるのだろう。
小太郎の交友関係を知っていた方が良い気がする。

「あの、こんにちは……。」

女性はずっと、小太郎と同時にを観察するような視線を向けていた。
話かけると身体ごとこちらに向けられるが、眩しく感じられるほどの美しく整った顔、体に見惚れそうになる。

「お前は何者だ?なぜ小太郎と一緒にいる。」
、と申します。ええと……。」
「北条にこのような娘や孫がいるなど聞いていないな。だが、姫か?小太郎と逃げてきたか。」
「ちが、違います。私、あの、北条氏政と面識がありまして、その、」

言葉に迷っていると、女性はため息をついたあと、こちらに一歩近づいた。

「どのような人間でも、今私はお前の命を取るようなことはしない。」
「わ、私も、状況がうまく分かって無くて。」

小太郎が、悩むの姿を女性から守るように前に出る。

「…………。」
「その娘の護衛だと?」

ここは小太郎に任せようと思った。

「北条が終わり、さっさと次の客の傭兵か。器用なものだな。」
「……。」
「……北条の依頼か……。何者だ。……まあ、口を割らないなら調べるまでだ。謙信様の害にならないなら、私は敵ではない。」
「あの!!」

険悪な空気が流れ始めたところで、は声を張り上げた。

「何だ。」
「なんで、小太郎ちゃんの言う事が判るんですか?」
「私たちは忍だ。読心術で分かる時は分かる。」

そう言うと、悔しそうに親指の爪を噛んだ。

「隠している時は、全く分からないがな……!!」
「そ、そうなんですか……。」

小太郎の技術が上で悔しがっているのだろう。
女性なのに闘争心があって、好感が持てる。

「私、あなたの敵にはならないと思います!!」
「なんだ、突然。」
「だから、お名前をお聞きしてもよろしいですか?」

一瞬目を見開き、ああ、と呟いた。

「名前を聞いておいて、私は名乗っていなかったか。これは失礼。私はかすがだ。」
「かすがさん。」
「かすが、で構わない。その方が慣れている。」
「分かりました。かすが。では、私の事を呼ぶときは、でお願いします。」
「分かった。」

小太郎が退き、はかすがに近づいた。

「女性の忍にお会いしたのは初めてです。」
「女だからと侮るな。」
「もちろんです!!小太郎ちゃんの、お友達ですか?」
「違う。これまでは敵だったが、今はお前……の判断で敵かどうかは決まるぞ。」
「じゃあ、お友達ですね!!」
「と、友達、だと……?」

さらに近づき、はかすがの手をとって握る。ぎゅっと力を込めて、少しでも必死さが伝わるように。

「お友達に、なってください!!」
「……は……?」
「お会いできたらお話する程度で構いません!!!それで、いろいろ、教えていただけると嬉しいです!!」
「教えるとは……?しかし、お前は……。」
「私は今、伊達軍にお世話になっています。」
「だ、伊達軍だと!?」
「伊達軍と敵対してらっしゃいますか?でも、私は今帰るところがなくて、帰り方が分からなくて、少しでもこの世の情報が欲しいんです!!!先程も言った通り、私はあなたの敵にはなりませんので…!!」
「乱世だぞ!?小太郎を操るお前が敵対するかどうかなど分からない!!お前の意思でなくとも、敵対することだってあるんだ!!」
「絶対、なりません!!!!!!」
「な……。」

の必死さと、熱意のある瞳にかすががたじろぐ。

「なぜ……私……。」
「今日偶然会ったからです!!!!!」

チャンスを逃すわけにはいかないんだ、こんなところにいるなんて、きっと広範囲を移動する方なんだ、いろんなことを知っているに違いないと、期待に満ち溢れていて暴走する。

「ぷ……!」
かすがが、吹き出して笑いだす。

「偶然会ったから、だと!?あはは!!正直にも程があるだろう!!」
「だって……!!」
「はは……。私を利用したいのなら、私を欺いて情報を取り出すがいい。」
「そ、そんなこと、できないから……!!」
「ふ……!」

を見て、口元を上げる。

「悪い娘ではなさそうだな。いいだろう。その代わり、敵にならないという約束、忘れるな。」
「はい!!」

は笑顔になって、思いっきり頷いた。

「しかし、護衛が小太郎とは……。北条は好き勝手使っていたからそうでもなかったろうが、もし小太郎ときちんとした交流を望むなら苦労するだろうな。」
「う、うーん、そうか、読心術が、できればいいのかな……?」

小太郎がの隣に来る。

「どうしたの?」
「……。」
「……小太郎は」
「あ、そっか、うん!ごめんね、私の護衛、よろしくお願いします!!小太郎ちゃんが良いならぜひ居てほしい!」

そういえば手紙に書いてあっただけで、まだ許可していなかったことを思い出した。

「……判るじゃないか」
「え?あの、今のくらいなら……。」
「…………。」

小太郎が寄ってきたので、握っていたかすがの手を離した。
「わわ。」
「……。」
腕を引かれ、小太郎に引き寄せられた。

「伊達軍にお世話になっている、か……。小太郎は伊達の忍……ということになるのか……?」
小太郎は横に首を振った。
そして手をの肩に乗せた。

「お前が護衛だけというのは想像し難いな…。せいぜい腕が鈍って戦場に出ないでくれると嬉しいが。」
「…………。」
「う……。」

そういえば小太郎は腕の立つ忍のはずだ。
自分の護衛なんかにつけていいものなのか、悩んでしまう。

、小太郎に問題があったら必ず叱れ。きちんと教育するんだぞ。」
「そんなことしなくても……。」

小太郎ちゃんはそんな歳じゃないだろう……と思うが、何かあった時のために一応言葉を受け止める。

「はっ、しまった。早く戻らねば、謙信様が待っておられる……では。」
「謙信様……。」
の知る『謙信様』は、上杉謙信しかいない。
偉大な人間につかえているのだなと感心する。

「かすが、じゃあね。」
ひらひらと手を振り、バシュ!と消えるのを見送った。


「きれいな人だったなぁ……。」
「……。」
「お?」

がしっと
小太郎にしがみつかれる。

「こ」

バシュ!

移動するよと言え!
無理か!










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かすがと出会う
そして管理人は寡黙キャラかなり好きです