静かな朝を迎える。

皆でわいわい風呂に入った後は、調理場で今度はゆっくりとやり方を教えてもらった。
そして、夕餉のおかずのおひたしを作って、皆に食べて貰えた。


それ以降も、家事手伝いをして過ごす。
朝は風呂掃除から始まり、お団子の作り方を教えて貰った。
政宗が戻ってくる頃には、一通りお手伝い出来るようになってやると気合を入れる。

日を追うごとに、城の人達を仲良くなれた。
自分に城下へお使いを頼んでくれる日もあり、変化のある生活が楽しかった。


そして、政宗達が明日城に戻るとの連絡を、は小十郎の畑で収穫をしているときに聞いた。

勝ち戦だったそうだ。


爺さんが死んで

いっぱい血が流れたのだろう。


「……。」
そういえば、ちゃんと聞いてなかったな。
政宗さんは、天下を取ってどうするつもりなんだろう。

「……まぁ、基本優しいからなあの人」
きっと、平和な世を目指してくれる。恐れずに聞こう、と思った。
「…………。」
だが、政宗英語は世の中に浸透してはいけないと思うのは、私だけではないはずだ。

収穫した野菜を届け、井戸で手を洗う。
一休みしようと、一度背伸びをして、整えられている庭を散策する。

大木の前で、ぴたりと足を止めた。



「…………。」

まいったな……

……誰か後ろをつけられている……。

女中さんだろうか。
なら、話しかけてくれるはずだ。
それとも残ってた兵の人が私を見はっているのだろうか?
足音がしたわけではない。
ただ、誰かがいる気配がするのだ。

「……。」
ゆっくり、懐に手を入れて、政宗さんが貸してくれた短刀を握りしめた。

刀を振ったことなど無い。
けど持ってるなどと思われてはいないだろう。
最初の一瞬ならば、脅かし程度にはなるから、びっくりして撤退してくれるかもしれない。

私って結構肝が据わってるのかも……。

と、自画自賛してみる。




「!」

先に動いたのは向こうだった。
刀を取り出す時間すら与えてくれない人物は静かにの前に立った。

黒い服に血のりを固めて。

「……小太郎ちゃん!?」
「…………。」

何でここに?

いや、その前に

「怪我してるの!?」
ふるふると首を左右に振る。

懐に手を入れ、すっと折り畳まれた紙を差し出された。

「私に……?」

受け取って、少し血に濡れ所々張り付いてしまった部分を丁寧に剥がして広げる。


殿』
……。
『北条氏政』

う、氏政!?
何!?何で!?
あのさ!
「達筆すぎてそれ以外読めねぇぇぇ!!」

小太郎ちゃん!読んで!

ふるふる

こら!

「うぅ……。えと、滅びる、命?に、後悔は無し……。しかし、お主が、伊達……軍、にいる事が、気、がかり……。」
読む気になればなんとか読める。
間違いがあれな反応してくれるかなーと、小太郎の様子も伺いながら声に出して読んだ。

「小太郎を、……本日限りで、解……雇し、お主の……護衛の任を与えることとした!?」

ばっと顔を上げ、小太郎を見るが、ただ腕を組んで立っているだけだ。

「小太郎ちゃん……。爺さん、死ぬかもって時に、私の心配してくれたの……?」
「…………。」
何も反応が無い。

「……小太郎ちゃん……爺さんの事は……。」

やばい。
視界が潤んどる。

「……あなた、爺さんの最後は、見てきたの……?」

首を横に振られた。

「そんな……。」

負けを悟って、小太郎をこっちに送ったのか。
大事な戦力である小太郎をこっちに送るということがどんなに大変で恐ろしいことか、にも分かる。

「そんなー!!爺さん馬鹿だよー!!!何してんだよ!こっちじゃ……1日だけしか会ってなくて……そんな……情かけられる事してないのにっ……!」

でけぇ置き土産してんじゃねぇよー!

夕日の馬鹿やろうー!


夕日などまだ出ていなかったが。
涙がボロボロ出てきた。


「戦はどうなってるの!?終わったの!?政宗さんは明日戻るって……。」

小太郎は何も言わず(いつものことだが)、の手を握った。

「え?」

とにかくグイグイ引っ張られた。

「……どこいくの?」

まさか小田原?

「!」
ひょいとお姫様抱っこをされて、いつぞやの佐助のように

バシュ

ごと消えてしまった。

(どうなってんだ!?)









「……ここどこ?」
「…………。」

小さな山頂のようだった。
見晴らしがよく、見下ろせば小さな村が見える。
遠くには紅葉し始めてる山を眺めることができる。

「……きれいだね。」
小太郎はを下ろして、そのまま座った。
着物の裾を引っ張られたため、も横に座った。


そのまま沈黙が続く。
日が傾いてくると肌寒くなった。
着物の上から肌をさすっていると、小太郎が背後に回り込んでぎゅっと抱きしめてくれた。


……暖めてくれてる……んだよね
「ありがとう」

青春くさくてちょっと恥ずかしいな……。


「小太郎ちゃんは寒くない?」

小太郎はこくんと頷き、そのままの肩に顔を埋めた。

「小太郎ちゃん?」
「……。」

あぁそっか。
小太郎ちゃん、今は独りぼっちか。

「こ……。」

また名前を呼ぼうとすると、小太郎がゆっくり顔を上げて前方を見つめた。

視線の先は、真っ赤な夕日。

山と山の間に沈んでいく。

空と地が真っ赤に染まっている。

「わぁ……。」
「……。」
「…素敵だよ。さっき馬鹿やろうって言ってごめんなさい」
きっとお気に入りスポットなのだろう。
「…………。」

少しだけ、笑ってくれたような気がした。










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……そのうち……
小太郎喋らせていいですか?
というか
喋らせてください(土下座