「昼からね~、夕方までずっとおにぎり握ってね~。も~腕が訳判らなくなってね~。」
「おう……。」
「そんでその後たくあんを切っててね~、だんだん長いままのたくあんが政宗さんの兜の三日月に見えてきてね~」
「失礼だな!たくあんかよ!」
「途中から三日月型のたくあんを大量に作ったよ。」
「そんで腱鞘炎になってりゃ世話ねえな。」
「そ、そこまでいってないよ!ちょっと痛いだけ!……って腱鞘炎て言葉、もう有るんだ?」
「おまえの本に載ってた。」
「……勉強熱心なことで。……ところで」
「なんだ?」
「……何で私がまた政宗さんの背を洗っているのでしょう?」


今日は浴衣着てるので、慌てたり焦ったりすることはないが、これが日常になった記憶はない。

「いいじゃねぇか。手が痛いか?」
「大丈夫だけど……。」

そういう事を言いたいわけでなない。
恋人でも何でもない男と女が一緒にお風呂場に居るという状況に疑問を抱いてほしかったが無理だった。

政宗の引き締まった体は一度見たからといって見慣れるものではなかった。

(う、後ろからじゃなかったら……直視できないって……。目のやり場に困る……。)

政宗が悪いのであって、決して自分が変態なわけではないと必死に思うしかない。

はというと、浴衣が濡れないように袖は肩まで捲くって、足は太股まで出ているがタオル一枚よりはましだ。

今日はそれ以外にも変化がある。
政宗が眼帯を外している。

「髪も、洗うよ。」
「頼む。」

サラサラした髪を、後頭部に向かって流す。
これで洗うんだ、と言われ出されたものは、粉だった。
お湯で濡らして、まず頭皮を指の腹で優しく洗う。


「ん~、巧いなお前……。」
「ほ、本当に?」
「あぁ……気持ちいい……。」

嬉しいと思うが、それ以上に口調がゆっくりなのが気にかかる。
眠そうな声で心配してしまう。
昨夜遅くまで仕事をしていたりしたのだろうか。

「政宗さん。」
「ん?」
「流すから、前にかがんで。」
「もう終わりか?」
「え?うん、終わったよ?」
「もう少しやってくれよ。」
「え?」
政宗の髪から離れようとしたの手を捕まれた。

「いいじゃねぇか……。気持ちいいからもう少し……。」
「ちょ、ちょっと、政宗さん……。」

がたん!がたがたがたっ

「え?」
脱衣場から何かを蹴ったような盛大な音がした。
「あん?誰だ?」

ガラッ

「政宗様!に何てことを!」
「小十郎さん?」
珍しく慌てた声で、の方がびっくりしてしまう。

政宗が上半身を回旋させ、手で素早くの目を覆ったため、姿は見えない。
なぜそんな行動に出たのかは想像がついたので大人しくそのままで居た。

「お前が何てことを~だよ。前を隠せ。」
「なっ!?いや、会話から察するに……え?」
「いいから隠せって。お前のはデカすぎてこいつにはちと早い。」
「その情報いらない!!」

耳も覆ってくれよ!!


「おや……?政宗様……。」
「何だ?」

小十郎はふと気が付き、政宗を凝視した。

「あ、えと……。」
は、眼帯をしていないことに反応したのかなと気づいたので、もちろん政宗も気が付いていると思う。

「……いえ、何でもございません。」
その理由に心当たりがあるのか、小十郎はそれ以上何も言わず微笑んだ。
は、少し聞いてほしかった気がするが、政宗が自分に心を開いてくれたということなのかな、と解釈することで満足しようと思った。










「この小十郎、勘違いをしておりました……。」
「気持ちいいだろ?」
「はい。」

今度は小十郎を洗う。
政宗は湯に浸かってのんびりその光景を眺めている。

「あの、いつまた小田原に向かうの?」

どちらへともなく聞いてみた。

「準備が出来たらだ」

答えてくれたのは政宗だった。

は大人しくしてるんだぞ?」
小十郎はに振り向き、優しい言葉をかけてくれた。
小十郎お父さんと呼びたくなってしまう。

「う、うん、待ってるね。」

二人は戦に出陣することを割り切っているだろうし、から言えることなど限られている。

「怪我、しないでね……。」

その中から心から思う事を選び、真剣に言ったのに

……2人は手で口を押さえて笑いをこらえてやがる。


「……あのう、お二人さん」
「いや、すまない……。」
「平和ボケしてんなぁ……本当に……。」

……平和ボケは悪いことじゃないと思う。

「安心しろ、政宗様の背は俺が守る。」
「頼もしいな!小十郎さん!」

政宗は何も言わず、微笑んで目を伏せる。
まるで、当然だと言わんばかりの態度に、はドキリとした。

絆だ!
絆だよ!ステキ!
と、心の中で連呼し、戦う二人を見てみたいとも思ってしまった。


「……いいもんだな、こういうのも。」
「?」
「政宗様?」

小十郎も洗い終わり、仕上げにお湯をかけた。
ありがとうと言ってくれた後、小十郎が政宗の所に向かった。
続きが気になったので、も政宗達の近くに座った。

「帰りを待ってる奴が居るってぇのは、悪かねぇ。」
「政宗さん可愛い……。」

おっと、口が滑った。

「何で可愛いなんだよ!!」
「だってなんか、そんな事しんみり言うから。」
「……政宗様。」

小十郎が少し震え出したかと思ったら、政宗に詰め寄った。

「それは嫁をもらうのも良いかもしれない、という意で?」
「ha?」
「貰う気に!?」
「いや別に……。」

嫁の話かあ、と、は聞き手にまわる。
この時代の結婚は、家柄気にしたりするのだろうから、恋愛結婚が良いと考えるは黙っておこうと思った。

「結婚よか、今は天下……。」
「政宗様、そのような事態を想定しておく事も必要かと!」
「小十郎さん、テンション上がってる……。」
!お前んとこは結婚てどんなだよ!?」
「え?私の時代?大体は好きになった人と結婚してるよ。」
「じゃあ俺もそうする!最先端をいくぜ!」
「政宗様!」

二人の態度から、今始まった話題じゃないのかもしれないな、と感じる。
この話題を政宗は拒み続けてるのだろう。


「……まぁ……政宗様が嫌なら強制はしませんが……。」
「……してたよな。」
「……してましたね。」
小十郎が落ち着いてきたところで風呂場をでる。

「……。」
結婚かぁ……
政宗さんが結婚……

ちらっと、政宗の顔を横眼で見る。



……Mな人じゃないと務まらんね……



「おーい、?」
「むう!?」

何も口に出していないのになぜかほっぺたをつねられた。

ちくしょう!視線で読みとられたか!?

















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結婚の話を入れてしまった・・・
でもぶち当たる問題ですよね
え?そうでもない?
堂々とした政宗氏が書けないなあ・・・