寝る前には氏政と二人きりで話をした。
お主らが通った大きな門は北条が誇るもので、栄光門というのじゃ、と自慢げに言う。

「しかしのう、本当に、心から誇りに思うのは、美しく咲く桜なのじゃ……。」
「桜……。」
「春になれば見事なものなのじゃ。ほっほっほ。他言するでないぞ?膨大な人と金を投資した門より桜が北条軍の自慢だなどと、我が家臣にも怒られてしまうのう。伊達の小倅など、鼻で笑いそうじゃ。」
「そんなことないよ。政宗さんは、そういう風流なものは好きだと思うな。」
「そうかのう……。あんな鬼のように眼光鋭い男が……。」

桜の木の下で佇んでいた氏政の霊が一体何を考えていたか、少し分かった気がした。

ずず、とお茶を飲む。

「あ、そうだ、爺さん確か、痔で悩んでるんだっけ?」

同じくお茶を口にした氏政はぶっと吐いた。

「ななななななぜそれを……。」
「え?だから未来で……。」
「そ、そうじゃったの……。叫んだばかりじゃが……あまりに突拍子もなくてつい忘れてしまうわい……。」
「突拍子もないからぜひ覚えておいて欲しいんだけど。あのね、爺さん、痔が痛いなら、こういう座布団を特注すると良いよ。」
は宙にドーナツ型を描く。

「なんじゃ?どういうものじゃ?」
「うーんとね……。」

荷物からルーズリーフを取り出し、今度は円座を立体的に、具体的に座ってる人間の絵も描いた。

「こんなふうに、お尻当たらないように。」
「ほう!!なるほど!!」
「馬乗る時も、こんな感じに座るとこ作れば、痛くなっても大丈夫!!」
「は、恥ずかしいことでも、打ち明けてみるものじゃのう~~~。未来のワシ……感謝するぞい……。」

目をキラキラさせて嬉しそうにする氏政を見て、も嬉しくなる。

「未来のワシを知っているからか、お主は話しやすいのう。お主のように老体に優しい者がたくさんおれば良いのにのう。」
「優しくないのは、爺さんを武人と見てるからだよ。誇らしいじゃないの。」
「……まあ、そう言われればそうかのう……。」

髭を撫でて、視線を上に向ける。

「……ありがとうね。爺さん……。」
「む?なんじゃ、突然。」
「こんなに権力使って、文字通り虎の威をかる狐になって押しかけてきた自分を、受け入れてくれて……。」
「何を申すか。言ったであろう。感謝しておるのはワシじゃ。お主の言葉で、迷走していたワシが目指すものが見えてきた気がするのじゃ。」
「そ、そうかな……。」
「背負いこんで潰されそうじゃった荷が、少し減った気がするぞい。大切なものを忘れ、北条という名ばかりに固執しているのじゃ。」
「爺さん……。」
「しかしワシのこれはすぐには直らんじゃろうな。だがワシは……嫌だと思ったのじゃ。小田原の民が、桜が、織田に支配されるということが。」
「そっか……。」


お互い弱い身だが、精一杯生きようねと握手をした。
握手といっても、氏政に手を差し出してもなんだか分からないようで首を傾げていたが、無理やり氏政の手を握った。


そして用意してくれた部屋に戻った。




明日になれば奥州に戻る。
戻ったらその後は……





お館さむぁぁぁ!!
幸村あああぁぁぁ!!

「……朝はちゅんちゅんすずめの声で起きたいもんだ……。」


のっそり起きて、着替えを済ませる。
襖を開けて隣の部屋に行くと、準備を整えていた小十郎が顔を上げた。

「おはよう、
「小十郎さん、おはよう。政宗さんは?」
「……調理場に。」
「……へぇ。」


ぅおやかたさまぁぁぁぁ!!
ゆぅきむらああぁぁぁぁ!!
ジイサンこの食材どこで仕入れた!?


ぅおおおおおやかたさむわぁぁぁ!!
ゅゆぅきむらぁぁぁぁぁぁぁ!!
朝餉の支度させろぉぉぉ!!



「……うるさいね。」
「……そうだな。」
「俺様も避難してきた。」
「……。(こくこく)」

4人揃って、心地よい朝日が差し込む早朝から、深いため息をついた。








朝食を済ませ(やたら豪華だった)、再び旅支度を進める。
馬に乗り、城を出ようとすると、門の所に氏政が立っていた。
一歩後ろには小太郎が佇んでいた。
政宗さんは馬を止めずにその前を通る。


!そなたは必ず戻れるぞ!それまで生きるんじゃぞ!」
「もちろんだよ!!」
「未来のワシによろしくな!」
「過去の爺さんも頑張れよな!」

政宗さんに当たらないように気を付けながら、思い切り手を振り上げた。


正直生きてほしい。
死なないでほしい。
でもこの時代は戦国時代で


「……う。」
。」
「は、はい。」

涙ぐんでしまった。
頬を伝う前に必死に指で拭く。

「爺さんは覚悟がある。」
「う、うん。」
「お前も覚悟決めな。ゆっくりでいいからよ。」
「うん。」

昨日よりも政宗さんが近くに感じる。
政宗さんは鎧だらけて体温なんか判らないはずなのに
なぜか暖かかった。





しばらく馬を走らせていると、分かれ道に差し掛かる。
そこで止まり、信玄が政宗に声を掛ける。

「わしらもここでお別れだな!」
「あぁ、良い経験させてもらったぜ。毎朝うるさくてかなわねぇ……。」

小十郎さんと目を合わせ、二人でげんなりした。
政宗も人のことを言えない所がある。

殿……。」
幸村さんが馬から降りて小走りで近づいてきた。

「また共に茶屋に行けるでござるか?」
「行けるよ!ねぇ、政宗さん!」
「……俺に聞くなよ」

それを佐助さんはいつもの笑った顔で見ていた。

「真田幸村……。次会ったときは殺り合おうぜ。」
「うむ、本気でいくでござる!」
「や、やりあう?」
、そんなに深く考えなくていいぞ。」




政宗さんが手綱を引く。

!!お主の話はなかなかおもしろかったぞ!機会が有ればまた聞かせてくれ!」

「はい、ぜひ!!信玄様、幸村さん、佐助さん!ばいばい!」

ばいばい?と3人が一瞬首を傾げたが、すぐに ばいばい! と返してくれた。
信玄様までばいばいと言うのは……なかなか新鮮だ……。

「byebye、だろ?」
「ばいばい、でいいの!」

政宗のやたらと良い発音に悔しさを感じながら、これから先の事を考える。
向かっているときは怖いと感じていたスピードが、今は爽快感と共に微かに気持ちよさを感じているのは、ただ慣れただけではないと思った。


私は何をすべきなのか

私に何が出来るのか

一つの可能性が消え、必死に頑張るしかないと思ったら、腹を括れた気がする。



「奥州に戻ったらとりあえず出来ること探しだ!!」
「おう、仕事してえならいっぱい押し付けてやるぜ!」













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政宗氏を暴走させてすいません
でもこれからもするかもしれません
笑って許してください・・・