武田の二人を交えての朝食は不思議な感じがする。
慣れていないからだろうとあまり気にとめていなかったが、小十郎さんに、あの二人はお友達じゃなくて、好敵手なんだと言われると、なんだか納得した。
そんなに親しい関係ではないようだが、互いに意識している。
でもうまいうまいと幸村さんが絶賛しながら食べるから、政宗さんは全く悪い気はしていないみたいです。
その後部屋に戻って荷物の整理をする。
一泊するのだからその時に洋服を着て氏政の元に行こうと考え、衣類は着物のままだ。
そう思って洋服を鞄に閉まってふと思う。
「袴がいいなぁ……。」
さっきは着物だったから両足揃えて馬に乗っていた。
跨いだ方が楽そうだと考える。
「政宗さん。」
ひょいと政宗さんの部屋を覗けば道の確認をしてるのか、地図を広げて話している政宗さんと幸村さんが揃っていた。
「支度できたか?」
「あ~……、いや、お邪魔してすいません。あの、私袴履きたいなって思ったんですが……。」
「袴ぁ?」
「馬にまたがりたい……から……。すっ、すいません!小十郎さんに聞きます!」
政宗さんが怖かったわけではなく
政宗さんがニヤリと笑ったのでやな予感がした。
「あるぜ、ちょうどいいのが。」
「本当?」
「左にまっすぐ行った奥の部屋の箪笥の……どこかにあるはずだ」
「判りました!」
とたとたと軽い足取りでが去っていった。
「……政宗殿、顔が笑ってるでござる。」
「そりゃあ笑うさ。」
「殿が可愛いからでござるか?」
「……what?」
政宗殿がものすごい勢いで某を見てるでござる……。
しまった……触れてはいけないところに触れたのでござろうか……?
「お前はがcute……可愛いと思ってんのか?」
「可愛らしい方だとは思うが……政宗殿は違うでござるか?」
「……ah~そうさなぁ~……。」
驚いた。
政宗殿は殿に惚れていると思っていた。
だから、武お館様に頼んでまで北条に行こうとしたり守ろうとしたりしたのかと考えていた。
違うでござるか?
「まぁ、今から可愛いもんは見れると思うぜ。」
子供が悪戯を仕掛けたような笑みを浮かべるので、幸村は首を傾げた。
「政宗殿、それはどういう……?」
「政宗さん!これだよね?ちょうどいい感じだよ!女性サイズもあるんだね!よかった、これ借りて良い?」
「ぶぁはははは!!本当に着れんのかよ!!それ俺が10年くらい前に着てたやつだぜ!?ちっちぇえなぁてめぇは!!」
「貴様伊達政宗畜生―!!!」
……殿じゃない者がそんな言葉吐いたらただでは済まなそうであるなあ……。
しばらく笑われはしたが、とりあえず袴をお借りして甲斐へ出発だ。
佐助さんはぴょんぴょんと木の枝から枝へ移動したり鳥に捕まってぶらぶらしたりしてと政宗の乗った馬の横を進んでいた。
「ちゃん、ケツ痛くなったらいいなよ?」
「大丈夫です!」
「まだ当分イケんだろ。っていうかてめぇの心配はいらねぇ」
政宗の後ろで小十郎が、小十郎の横で幸村が馬を走らせる。
正直速すぎて最初はびびっていたが、政宗さんがしっかり支えてくれたからなんとか普通に喋れるまでにはなった。
「国境を越えたら休憩場を用意している!そこまで止まらず行くでござるよ!」
「馬は大丈夫なんですか!?スタミナ……えと、体力は……。」
「大丈夫でござるよ!そこも配慮してる!!なぁ、佐助!!」
「あぁ、うん……。馬にはね……しましたけどね……。」
「……真田幸村ァ……一応聞くが、休憩場ってぇのは……?」
「茶屋でござる!」
真田幸村ァァァァァ!!!
「俺はなぁ、ちゃんとしたモン食って休みてぇんだよ」
「甘いものは体力回復に……。」
「うるせぇ、てめぇ主体で考えてんじゃねぇ」
茶屋に着くと、お品書きには甘いものしか並んでおらずまさに甘味処。政宗がぶつぶつ文句を言い続け、幸村は慌てっぱなしだった。
「殿にも食べて欲しかったでござる!ここの団子は本当に美味である!」
「うん、おいしい!!ありがとう幸村さん!!」
すでに食べて2本目に手を付けるところだった。そのおいしさに笑顔になって幸村に微笑みかける。
幸村がほらみろと誇らしげに政宗に視線を向けたが、政宗と小十郎にギロリと睨まれ、後退りする。
「幸村さん、悪気があったわけじゃないんだし。」
「悪気がなけりゃ何でも許されるのかよ?ったくよぉ……。」
またぶつぶつが始まったけど、今度はお団子を食べながら。
その様子を見て、幸村がほっと胸をなで下ろした。
「そういえば佐助さんは?」
「馬の面倒を見ているでござる。」
……馬。
「ああ!忘れてた!私クリスティーナに餌をあげてなつかせようとしてたんだっけ!私も馬の世話してくる!」
「人の馬に変な名前付けてんじゃねぇ!」
政宗に頭を小突かれるが気に留めず、団子を一気に食べてお茶を飲み、馬の元へ走っていく。
「殿!」
「真田幸村。」
後を着いていこうとした幸村を政宗が制す。
「に深入りすんじゃねぇ」
「政宗殿?それはどういう…」
政宗は足を組んで、特に感情を高ぶらせているわけでもなく淡々と言う。
「あいつは居なくなる奴だからな。」
「……判っている。」
そうはいっても一度出会い、言葉を交わし、関わったのだ。
そうですか、はいさようならとお別れできるほど薄情にはなれない。
「しかし……かといって距離を置いては殿が可哀想だとは思わぬか……?」
「何だよ。一目惚れしたとか言わねえだろうな?そういえば城であいつが可愛いとか言ってたかお前……。」
「それに他意は無い!!知らぬ世に来て殿が不安でないわけがなかろう。」
「だろうな。」
「だから近くに居ようと思ってはならぬか?少しでも安心できるなら某が……。」
「お優しいことで。ああ、悪かったよ。そうだな。」
「……?」
政宗の反応に違和感を感じる。
わざわざその様に口にするとは、割り切っていないのは政宗の方ではないのだろうかと考えるが、それは口に出さないことにした。
「佐助さん!」
「はーい、どうした?」
佐助が馬の頭を撫でていた。振り返る佐助は長旅の疲れの全く見えない、穏やかな笑顔をしていた。
「私も馬に餌やる!」
「もうあげちゃったよ?」
「遅かったか‼」
近づいて馬を見上げると、満足そうな顔をして、寛いでいるようだった。
「餌あげて仲良くなろうと思ったのになぁ。」
「仲悪そうには見えないけど?」
「そうかな……。」
馬の頬をなでようと手を伸ばす。
すると、ぷいっとそっぽを向かれてしまった。
「ほらぁ!」
「あはは、竜の旦那取られると思ってんじゃないの?」
「誤解だ!」
「誤解なの?」
佐助はいつもの涼しい顔で、そう問う。
本当は少し面白半分。
健全な男女が仲良さそうにして、もしそういう感情が少しでもあったら。
北条に着いていざ帰るってことになって、そこでやっぱり嫌帰りたくないってことにでもなったら困っちゃうどころじゃない。
同盟関係が揺らいでる今、武田は北条の前でふざけた真似をするわけにはいかない。
「竜の旦那の事、どう思ってんの?」
「いやぁ、これでも結構憧れてるんだよ?」
あっさりと答える様子に特別な感情は見えない。
「……へぇ、そう。」
「一国を支えて、みんなからの信頼厚くてさ」
そういうところ、好きだわ~とにこにこしている。
ちゃん、面白いねぇ……。
「じゃあさ、別れんのつらくないの?」
「つらいね。」
これまたあっさりと。
「なら……。」
「かといってねぇ、私ここにいたいの!って訳にはいかないのよ。私にだってやりたい事があるの。元の世界に、夢があるの」
しっかり前を向いて、綺麗な目で言われては、本音だと思うしかない。
「……しっかりしてるねえ。そういう女の子好きだなあ」
「調子がいいな……佐助さんは……。」
佐助がまたにんまりと笑う。
「ねぇ、ちゃん」
「ん?」
「俺が行かないでって言ったら、どうする?」
あっさりとそれでも戻ると言うだろう。
そう思ったのに。
「……え?」
返ってきたその反応何さ……。
「あはは、冗談冗談。」
「び、びっくりした。」
「ちゃんって騙されやすいとか言われない?」
「言われません!!」
「そろそろ出発するでござるよ~!」
幸村の声に、すぐに反応する。
「だってさ。もう少し話してみたかったけど。」
「え?本当に?そう思われるのは嬉しいなあ!!」
「……やっぱ君は騙されやすいと思うよ……。」
もしかしたら、雑談中に竜の旦那の情報を引き出そうと俺様が引き出そうとするとか、そんなことを想像もしていないような雰囲気。
「可愛い子だねえ君は……。」
「な、なんか、馬鹿にしてませんか?」
「そんなことないよー俺様女の子には優しいよ?」
そうかなあ……と、佐助に疑惑の目を向けるに背を向けて、くすくすと笑ってしまった。
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ばさらの馬は凄いので、それにあやかって凄くしますわーい
ありえんスピードと体力でごめんね!!