殿、殿」

困ったような声で呼びかけられ、肩に置かれた手にゆさゆさ揺らされる。

「眠い……。」
「朝でござるよ。今日は早くに甲斐に向かうでござるよ。」
「あ!そうだった!」

がばっと起きると周囲を見回して首を傾げる。ここは自分の部屋ではない。

「……ここ幸村さんの部屋?」
「あぁやはり無意識でござったか……。」

そして外を見ればまだ暗い。

「え?」
「……昨晩、殿が眠れぬ某のために添い寝してくださったのだ。」

幸村は淡々と言っているが、あまりに失礼なことをしたその内容に青ざめるしかない。

「……破廉恥なことしてすいません」
「だっ、大丈夫でござる!気にしないで頂きたい!!某、殿から大切なことを学ばせて頂いた故!!!」
「え、何?図々しさ?すみません……。」
「ちっ、違うでござる!」

慌てふためく幸村さんか―わ―い―い―!という感情で微笑んでしまう。
そして周りは静かすぎなのも気にかかってしまって話を変える。

「……あのさ、まだ誰も起きて無くない?」
「いや、何もやましいことがないとはいえ、一緒に寝てるところを佐助や政宗殿に見られたら……。」
「あぁ、なるほど。」

じゃあ自分の布団で寝直すわ〜と自分の布団に向かおうとしたら

殿〜、また寝るでござるか?」
「……。」

きゅーんとわんこの鳴き声が聞こえるぜ……。





私が起きた時点で、既に幸村さんはいつもの赤い鎧を身にまとっていた。
髪はそのままだったので、後ろで結ってあげ、部屋に戻って自分も着物に着替える。


そして外に出て

朝のトレーニングの相手を

「むっ、無理無理無理!!」
殿は武術の経験は無いでござるか?」
「全く!」
「じゃあ見ていてくだされ!何かおかしなところがあったら指摘してくださるとありがたい!」
「それも無理そうなんですが……。」

そういって二本の槍を持って立ち向かっていったのは

大木……?

「うおおおおお!!」

「う……うおわわわ……」

みしみし

ずううぅぅん……

「…………。」
大きな音をたて、倒れた。

目を丸くして驚くしか反応出来なかった。
こちらを振り向き、笑顔で自分の名前を呼ぶ幸村に、苦笑いで返した。


「どうでござったか!?」

倒れた木を担いで幸村さんが戻ってくる。

「あのなんかもうりっぱすぎておねぇちゃんはなにもいえないせいちょうしたねゆきむら」
「どうなさった!?」

簡単に、びっくりしたとしか表現出来ない。
幸村さんが槍を振れば、どんどん木が削れていった。
素早い身のこなしにも感心したが、どこかCG処理された映像を見ている感覚とも思える。

可愛い顔に似合わず、強い力を持った武将なのだなと感心した。

「いつも木を倒すのがトレーニング……訓練なの?」
「いや…昨夜、成実殿がだらだらする暇があるなら薪でも作れと申していたので…」

……それもののたとえで言ったんじゃないのかなぁ?
本気で受け取ったんだ?
いくら成実さんでも客人に薪作らせたりしないんじゃ……?

「……真面目だなぁ、幸村さんは。えらいえらい」
幸村さんの方が背が高いから思いっきり腕を伸ばして頭なでなきゃならないのが少し悔しい。

「こっ……子供扱いはやめて下され!」
「そんなつもりじゃないよ〜」

可愛いかったりかっこ良かったり、幸村さんて面白いなぁ。









「で、朝から何してんのお二人さん。」

「「薪割り」」

佐助が木の枝に足をかけてぶら下がってる。

「上手くなったでござるよ!殿。」

「本当!?うりゃあ!」
パコンといい音を立てて割れると気持ちいい。

「こんだけありゃあ十分じゃない?」

幸村とを囲むように周りに割った薪が散らばっている。
歪な形をしているのはが割ったもの。……たくさんある。


「竜の旦那が探してたよ?」
「えっ!?マジで!?」
「薪は某が集めて届ける。殿はどうぞ行って下され。佐助!」
「えっ!?俺も!?」
「ごめんね、ありがとう!」

ほったらかしていってしまうのは少し抵抗があったけど、幸村の申し出を有り難く受けることにした。
そしてしばらく走って気付いた。

「……はっ!?政宗さんどこか聞くの忘れた!」

アホすぎる。
こういうときは小十郎さんに聞くのが一番だろうと咄嗟に判断する。
きょろきょろと辺りを見回し、手を添えて人の名を叫ぶ。

「小十郎さー「俺じゃねえのかよ」

横からざくざく土を踏みしめる足音がした。

「政宗さん、おはようございます!」
「おぉ、今日はしんどいかもしれねぇが頑張れよ。」
「……甲斐はそんなに遠いのですか?」

山梨県だよね?そんで……ここは宮城のどのへん?

「ま、俺はとばすがな。」

ちょいちょいと手招きをされたので近寄る。
それを確認すると政宗さんが歩き出す。

向かったのはまだ踏み込んだことが無い場所だった。
動物の臭いと鳴き声で、馬小屋だろうかと予想は出来た。


初めてこっちにきたときに乗った白馬の前で政宗さんが立ち止まる。
そのときと鞍が違っている。

「乗ってみろよ。」
「ええと……。」

鐙に足をかけて乗ろうとするが、動きが止まる。

……鐙が高いんですけど……。

「……足が短くて乗れませんってか?」
「背が低くて乗れません!!」

思案している私をのぞき込んでにやりと笑ってそんなことを言う。
あぁ悔しいなぁ……。


「おらよっ」
政宗さんがひょいっと馬に乗った。

「そら、ちと背伸びしな。」

言われたとおりにすると、政宗さんが身を乗り出し私の脇に手を入れて思いっきり持ち上げた。

「……えぇえええ!?」
子供じゃないよ私は!
なのにそんなに軽々と!?

ぼすんと政宗さんの前に座らされた。

「お?なんか居心地良いぞ?」
「ならokだ。今日はこれで行くからな。」
「政宗さんと?」
「不満かよ。歩いていく気か?」
「よろしくお願いします!」

君もよろしくと馬の頭をなでる。
馬が頭をふるふると左右に振ったので、驚いて手を引っ込めた。

……え?嫌ってか?
「……お馬さん……。」

乗せてもらう身分、馬に変に嫌われるのも迷惑をかけそうなので、餌付けする必要があるなあと思い、あとで政宗に餌を下さいとお願いしようと思った。

「……白い、馬……。」
馬の姿をじっと見つめていると、どうしても思いつく言葉があるのは仕方がないと思う。


乙女の憧れ白い馬……
白馬……
白馬の…………
白馬の王子様…


ちらりと後ろを向く。
腕を組んで、なんだよ?と言われる。

吹き出してしまった。

眼帯に、整っているとはいえ切れ長の目にガラの悪そうな表情だ。

こいつは王子じゃないな!
二輪が似合うぜ政宗様……!


言うまでもなく頭ど突かれました。












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佐助は普通にどっかで寝てたとおもわれます
背景の木は細いな―・・・

馬。OPとか栗毛の馬ですが、ここは白馬で。
うちのパソコンの壁紙は白馬に乗った政宗氏
・・・すごい好き・・・です・・・