温泉に入るようになってからお肌の調子が良い気がする。
独特の香りも好きで、生活の楽しみになっているのは確かだ。

嬉しそうに顔を緩ませながら、浴室へ小走りで向かった。

「あれ?先客だ」

脱衣場には一人分の衣類がすでに置いてある。
自分のものはまさに今胸に抱えているので、誰かが居るのだろう。
女中の人ならば、お世話になっている身、仲良くするしかない。
そう思い、礼儀と思い長い布を体に巻いた。


「いきなり裸の付き合いなんて緊張……いっ、いやいや、行くぞ!」


ガラッ


「…It slows in coming!いつまで待たせんだよ!!」


ぴしゃっ



……なんて口の悪い女中さんだろう。
仲良くなれるかしら?
いや、無理だよね。うん、なんかすごい筋肉ついてたしさ、短気そうだったし、目つき悪かったし。
ちょっとヘマしたら平手打ちくらっちゃうって、うん、やっぱ自分の身が大切だよね……。


ガラ


「何してんだよ、早く入れよ。寒いだろ?」
「何普通に話しかけてきてんだ!!!!!!」


引き戸の反応で察して下さいよ!!と叫ぶも政宗は気にした様子がない。

「まっ、政宗さん!?破廉恥でござるよ!?」
政宗の事を直視できず、下を向いたまま後ずさった。

「haー?ちゃんと腰巻きしてんだろー?いいじゃねぇかたまには。幸村の真似してんなよ。」



あぁ、頭がくらくらしますよ、政宗さん……。

政宗さんにとっては私と風呂なんて犬猫と入るのと一緒なのかも知れませんがね?

私は心臓止まりそうです。



「……意識してんじゃねぇよ、何想像してんだ?」
「この過酷な試練にどう立ち向かおうか考えております……。」
近づいて屈んで、に挑発的な視線を向けるが、は下を向いて目を閉じて眉間にしわを寄せている。
動揺している様子にこれではいつもの調子は望めないとため息をつく。緊張を解すのが先だ。

「どういう意味だそりゃ!さっさと入れ!襲いやしねえよ!」

腕が伸ばされ、政宗の手がの腕を掴む。
そこでやっと顔を上げ、政宗の姿を見た。

思ったよりも細身で筋肉の流れがはっきりわかる。
無駄な肉なんかなくて、女なら誰だって見惚れてしまうだろう。

……いや、女じゃなくてもか……?
逞しいと言うよりも、綺麗だなと思った。


桶が置かれた場所に近づくとしゃがんでなにかをし始める。
背中から腰にかけての線が滑らかで美しい。


……私が襲うかもしれませんよ……。


「上等だ」
「ななな何が!?」

私の心の読まれちゃ一番いけない部分を読まれましたか!?

「ah?お前も見ろよ、これ。上等なもんだぜ?すげえ良い香りする。」
そう言って政宗が取り出したのは、竜の形が掘られた石鹸だった。
「昼間の、珍しいものって……。」
「あぁ、もっとも一般的な用途はガキが溶かしてシャボン玉作ったりしてるらしいがな。こういう使い方もあると聞いて試したくなった。」
「えっ!もったいないなぁ!子供の玩具にするのが一般的なんだ?」
無いものだと思っていたから、毎日じゃなくても使える日があるというのがとても嬉しい。
顔を近づけると柚の香りがした。

「使いたい!」
「おぉ、いいぞ。」
「政宗さん!お背中流します!!」
「頼む」

政宗が本当に何でもないことのように振舞うので、もこの状況に慣れてきた。
自分に魅力が無いのでは、という思考は奥底に封じる。

使い方は自分の知っている方法で良いだろうと思い、まずは泡立てる。

「はい、政宗さん、いきます。」
「おぉ。」

桶で湯を掬って軽く背中にかけて、布で優しく肌を擦る。 「……。」
そんなに目立った傷が見えるわけではない。
むしろ綺麗な背中だと思う。
けれど、腕や脚に付いた細かい傷跡が、に、この人は武将なんだと再確認させるには十分なものだった。

こちらへ来た時に遭遇した戦のようなことが、この世界では珍しいものではないのだろう。


「……ん?どうした?」
「……へ!?ううん、何でもないよ!」

手が止まっていたことに気が付き、慌ててまた洗い出す。

「もっと強めがいい?」
「いや、そのくらいでいい」
「はい。」

返事は少し、上の空だ。

……後ろからじゃ表情は見えないのだけど
政宗さん何か考え事してる……?


「……。」
「……。」


気まずい沈黙でもなかったので、無言で洗い続けた。
一通り洗い終われば、お湯をかけて流す。

自分は政宗に洗ってもらうわけにはいかないから、終わりましたよ、と声をかけようとしたが、政宗が話出す方が早かった。

はよ」
「えっ!?はい?」
背を向けたまま政宗がいきなり名前を呼んだ。

「死んだジイサンが、この時代で生きている自分を見せたくてこっちに送ってきたんだったな」
「……はい。」

今はその話はあまりしたくないと思う。
どうしても、この人たちとお別れしてしまうのが寂しいと感じてしまう。

「とすると、最悪ジイサンと会った瞬間戻っちまう可能性だってあるよな?」
「は、はい。」

最悪、という言葉に反応する。
即帰ってしまうことが最悪。

……え、政宗さん、私との別れを悲しんでくれてるの?

「んで、ジイサンが全く関係ないってpatternもあるんだよな」
「そうですね……。」

別れは寂しいが、それはそれで困るので、は困った口調で返事をした。

あ〜……と唸ったかと思ったら、政宗が項垂れた。

「政宗さん?」
「ひとつ言っとく。」
「うん?」
「俺は北条のジイサンに感謝してんぜ。」

……え?

「まっ、さむね、さん、……そそそそれは……」
「だから、……お前に会えてよ」
「はい!!」

「……こんなアホ丸だしの生物が未来にいるなんてことを知れてだな」

こら―――!!

「勉強になった、うん」

テンション落ちるぜオイ!!

「ちと癒されたしな。馬鹿犬でも飼ってみるもんだな」

「な―!!何でそう言うかな―……あ?」


……癒されたって言った?今?


本当に?

おいおいちょっと

政宗さん、私、政宗さんの言うとおりアホで馬鹿かもしれません。

めちゃくちゃ嬉しいですよ、殿。


「殿―!!!」
「何してんだてめぇ―!!」

いいだろもう、犬なんだろ私は!

タオル一枚で後ろから抱きついてしまった。

「私っ、じゃ……邪魔じゃなかった!?本当に!?」
「ha!邪魔ならとっくに切って捨ててる!おい、離れろ!」
「嬉しいよ政宗さん!!」

ゆっくり離れると政宗が振り向いての肘を掴み、勘弁してくれと口の端をヒクつかせていた。


とても怖い。ごめんなさい。


だって政宗さんは殿なんだし。
でも私の相手してくれて
嬉しくて楽しかったんだけどどこか不安だったんだよ。


「私、政宗さんがそんな風に思ってくれてたのが、本当にうれし……」
「……あぁ?どういう意味だそれは?もしかして誘ってたのか?」
「ん?」

まさかの問いかけに、は目を丸くして口を結ぶ。

「……そうか、しかたねぇな。折角の縁だ。相手してやんぜ。」
「いや、そんなことないって……えぇ!?」

政宗の手がの身体を覆う布に伸びる。
びっくりしてその手を払い、後ずさりする。

「んだよ、したことねぇとか言わねえよな?」
「しっ……したことって……。」



聞くなよ!
なっ……無いですよ!


















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半端なとこで切ってしまいました!
次の話の政宗さんはちょっと弱いかもです
強い政宗さんが好きな方にはすいません