「す……すまなかった……。」
「気にしないで幸村さん!」
所変わって呉服屋。
一番被害にあったのは佐助だった。
幸村が食べた団子の皿をもろにかぶって粉やら餡子やらが体の所々についていた。
は政宗がかばってくれたため大して受けなかったが。
「政宗さん、かばってくれてありがとう。」
「ha、当然だ」
腕を組んでなんでもないことのように政宗は振舞う。
かばいつつ自身も避ける瞬間を見ていたので、実際そうだったのだろう。
あまりに自然に体を逸らして、ごと避けてくれた。
服を買いに来たわけではなく、更衣室のみ借りている。
替えの服を佐助は持っていたし、政宗や小十郎がそれなりの格好をしているのに自分だけ町人の格好は不自然だと主張した。
「はーい!お待たせー!」
「おわ!黒!」
「似合うー?」
「似合う似合う。落ち着いてる感じする!」
店の奥から出てきた佐助は、全身真っ黒な着物を着ていた。
これはこれで目立つと思うが、大人な顔つきをした佐助にはとても似合って風景に溶け込む。
「殿、あまり褒めない方が…調子に乗るでござるよ」
「幸村も言うようになったじゃねぇか。俺も同意。」
「実は私も同意かもしれない。」
「えー、何ソレー」
結局、幸村と佐助を一晩泊めることになった。
ついでに城下案内にまで付いてくる。
「ちゃん、欲しいのあったら遠慮なく俺に言ってね?昨日のお詫び。」
「いいってば、そんな……。」
「さっ、佐助!殿に失礼な行いを!?某もお詫び申し上げる!……して、殿は政宗殿とどのような関係で?」
幸村が恐る恐る質問する。
正直何が正解で何がはずれか分からないが、先程の反応を考えれば男女の関係でなければ問題ないだろうと思う。
「私は女中「嫁だ「義理の妹です」
順番に、政宗、小十郎が発言した。
「小十郎……。」
「何ですか?政宗様?」
にこにこと笑ってはいるが、政宗様ふざけたこと言うのもいい加減にしてくださいというオーラが出ている。
これが黒い笑いか!
初めて見た!!
しばらくは周囲を見ながら街をのんびりと歩いていたが、一軒の店舗から政宗を呼ぶ老人の声が皆の足を止めた。
「これはこれは、殿……。」
「おぉ……。ちと行ってくる。小十郎、こいつら見てろ。」
「はっ、……って、こら!お前ら!」
小十郎が振り向くと、の手を引っ張り佐助がスキップをして行ってしまった。
幸村も楽しそうに後ろをくっついていく。
「着物に比べてさぁ、履き物が地味だと思ってね。」
「ちょっと!篠さんのコーディネートに文句言わない!」
「殿、こーでねーととは?」
「えっと、着物や履物の組み合わせを考えることかな。」
「ほぉ!なるほど!南蛮語でございますな?さすがでございます!」
政宗のおかげである程度のカタカナ語をうっかり話してしまっても大丈夫なようだ。
しかし控えよう……と幸村の尊敬の眼差しを浴びながら考える。
「いらっしゃいませ!」
佐助に引かれるまま店に入ると、若い女性の声が元気に迎えてくれた。
「試着していいかな?」
「はい、どうぞ!」
佐助が確認を取った声が聞こえるとすぐ、幸村は女性物の赤い下駄を1足持ってきた。
「殿!これは如何でございますか?」
「あぁあ本当だ〜!ちょっと高さがあるけど…可愛い!」
「だめ!ちゃんにはこっちのが似合う!」
「欲しいのあったら言えっていったじゃん!」
あれにしようこれにしようと幾度か言い合いをしたが、結局、佐助好みのを買い、その場で履き替えることになった。
知り合ったばかりで申し訳ない気もしたが、プレゼントしてもらって、は素直に嬉しかった。
「ありがとう、佐助さん。」
「そんな高いもんでもないしさ。」
「大切にするよ。」
「やぁ、そんなこと言われると照れちゃうね。」
今まで履いていた物は綺麗に拭いてもらい、布にくるんで小さい巾着に入れた。
店を出ると小十郎が店の壁に寄りかかって待っていた。
買ってもらった下駄を、どうでしょう?と見せると、良かったな、と微笑んでくれた。
「お待たせしてすいません、小十郎さん。」
「いや、政宗様がまだ話終わらなくてな……。」
「ならまだ自由でござるか!?」
政宗さんが居ると不自由みたいな言い方するな……。
「殿!あちらにうまそうな饅頭が!」
「まだ食べるの!?」
今度は幸村がの着物の袖を引っ張る。
「仕方ないなぁ……。」
「あまり遠くへ行くな!」
「はい!」
「俺様が居るから平気だよ。」
お前が一番不安だ、そう思って小十郎がため息をついた。
「待たせて悪い……。って小十郎、あいつらは?」
「……饅頭を食べに行きました」
「really?また食うのかよ!?」
仕方ねぇなあ、と政宗が頭をガシガシとかいて、3人の後を追う。
その一歩後ろを小十郎が歩いた。
そこで、気になっていたことを聞いてみた。
「政宗様、北条氏政はを未来へ帰す能力があるのですか?」
「知らねぇ。だが爺さんがこっちにあいつ寄越したってぇなら、爺さんに頼ってみるっきゃねぇだろ。」
「そうですね……。」
ゆっくり歩きながら空を仰ぐ。
今日は快晴だ。
「これも何かの縁……か?」
「政宗様?」
後ろからでは、政宗の表情は見えない。
「短い間だったが……まあ、楽しかった。城が騒がしくなってよ。」
それを聞いて、小十郎がぷっと笑った。
「俺に言ってどうするので?」
「うるせぇな!こんなありきたりな事言わねぇよ!」
「遠回しだと伝わらないかもしれませんよ?」
「わぁってらぁ!」
こんな政宗を見るのはかなり新鮮だ。
「うまー!」
「うむ、やはりうまい!」
幸村は饅頭をひとつ、と佐助は腹がふくれていたので一個を半分こした。
そして話は好きな食べ物の話に。
「某は甘いものが好きでござる!」
うん、知ってる。
「私は……何だろ……。」
あんまり意識したことが無い。
高級品は別として、現代は食べたくなったら何でも食べれる。
といっても高級食品食べたいと思う人間でもない。
「伊達の旦那んとこの食事は凝ってるでしょう?たまには質素なもん食いたくなるよねぇ。」
「え、あれ普通じゃなかったんだ?」
大名すらあまり分からないのに、食文化の知識が入っているわけがない。
驚いてそう聞き返したら、二人とも目を丸くして驚いている。
……口を滑らせたようだ……。
「……ちゃん、どこのお姫様?」
「違う、一般人、一般人。」
「殿、何者でござるか!?」
「だから、女中「よ「義理の妹です」
また同じやりとり。
後ろからでかい手がの頭をがしりと掴んだ。
といっても政宗さん、『よ』しか言えなかったね。ドンマイ。
そう言いつつ笑ってンじゃねえ!!
「政宗さん、小十郎さん、もう終わったんですか?」
「あぁ、珍しいもの取り寄せたってんで見せてもらった。」
「政宗殿!殿は本当に女中なのか!?」
「……何で俺でも小十郎でもなく、こいつの言うこと信じてんだよ。
、どうするんだよ、猿が殺気立ってんぞ。……俺に向けて。」
「ううん?じゃあお城戻ったら小十郎さんにしたのと同じ事しようか。」
「いいのかよ?」
「だって、隠し事してるのバレバレだし……これから協力してもらう人達なんだし……。私は構わないよ。」
「……仕方がねえか……。信じなかったら、俺らの頭がおかしいってことでいい。」
「その時は私の頭がおかしいでいいって……。」
その会話を聞いていた幸村は、政宗殿は意地の悪いことを言うことはあるが、嘘は付かぬと知っている!!と叫んだ。
そう思ってくれているというのは、政宗も小十郎にとっても良いことなのだろうが、言う内容が内容なだけに、素直に笑えない。
城へ行ってから、ということで勘弁してもらい、しばらく城下を探検して城に戻った。
■■■■■■■■
幸村さん、主人公ちゃんに慣れてきました
お姉ちゃんみたいな感覚