「わっ、わぁ!なんですかあれ!」
「だから俺のそばから離れんなっつってんだろが!」

城下は思ったよりも栄えていて、は興味津々に目に付いたあらゆる物に駆け寄っていった。
昨夜、きちんとした歩き方をしようと思った事などすでに忘れている。

「ぎゃあああああ!!!首掴むな首を!」
「ならちょろちょろすんな!首輪つけんぞ!?」

そんなやりとりをすると政宗を、小十郎は穏やかに見つめていた。

。」

小十郎が呼ぶとくるりと振り向いて首を傾げる。
あれ、あれ、と一軒の店を指さしている。

そこは客で賑わっていて、みんなが手にしているのは

「団子!?」
「あんみつなんかもあるぞ?」
「政宗さんー!」
「朝飯食って大して時間経ってねぇじゃねぇか……しゃあねぇな……。」

わーいと喜び、店に駆け寄ろうとしたら
「だから!!」
「ぎゃー!髪掴むなハゲる!」







店の暖簾をくぐると、座る席が見あたらないほどの繁盛ぶり。
外にも席はあったがそこはすでに埋まっている。

店の主人は殿!と驚いて挙動不審になったが、政宗が何か一言言うと奥へ引っ込んでいった。
権力を使ったのだろうか…。
そのあたりは政宗に任せて周りを見回していると、奥の方からでかい声が聞こえてくる。


「うまいでござるよ佐助えぇぇ!!今日はどうした!?こんなにっ……こんなに団子……がふっ……!」


その声に政宗と小十郎の動きがぴたっと止まった。

「あ〜、もう、詰め込みすぎでしょ。取ったりしないからゆっくり食べなさい?」

次に聞こえた声はつい昨日聞いたばかりで。
「……佐助さんの声?」
「……出るぞ」
「え?」
「もう少し見て回ったらここに来よう。」

政宗と小十郎は静かに出口に向かうが

「おーい!遅いじゃん!旦那達!こっちこっち!」
佐助が手を挙げて叫んでくる。

「待ち合わせしてねぇ!」
政宗は勢いよく振り返り、不快感たっぷりに怒鳴った。







仕方ねえなとため息をつきながら、政宗は佐助たちに近づいていった。
よく状況が判らないままだが、それについて行くしかない。
そして、佐助の隣に政宗が座った。

、政宗様の隣へ。」
「はい。」

小十郎に促されたので、そのまま座る。
先程大声を出して団子を頬張っていた男は、目を丸くして席に着く三人を見つめていた。
斜向かいの位置で、初対面の彼の様子を観察しやすいので見つめてみるが、政宗に視線を向けたまま硬直している。

「政宗殿……?」
「真田幸村。お前そこの猿に連れてこられたのか?」
「う……うむ。団子を好きなだけ食べて良いと……。」

もだが、彼のほうが今の状況に混乱している様子だ。
真田幸村という武将の名前は知っているが、政宗とはどういう関係なのかは知らない。

「道中ずっと目隠しをされていたが……。」
「怪しめよ!!」
ドン!とテーブルを政宗が叩き、茶が湯呑みから少しこぼれた。

「佐助ぇ!こっ……ここは政宗殿のっ……がはっ!」
「あ〜、ちょっと、飲み込んでからしゃべってよ〜。」

様子を見ていても、幸村から感じるのは、可愛い男の子といった雰囲気だけだ。
戦場に立ったら目立つであろう真っ赤な鎧がとても似合っている。

じっと観察しているとは幸村とばちっと目があった。
第一印象は大事かと思いにっこり笑ってみたのだが、
「ぶはぁ!」
「汚ねぇ!」
団子を喉に流すために含んだ茶を吹き出して更なる惨事になった。

「まっ……まままま政宗殿!?その女性は……!?」
「あぁ?こいつは……」

紹介しようとの肩に政宗がぽんと手を乗せると

「ぎゃあああ!破廉恥でござるぅぅぅぅ!」
「うるせえぇぇぇ!」
突然の叫び声に、幸村以外の全員が耳をふさいだ。

呆れかえった政宗は自分で名乗れと紹介を放棄して頬杖をついた。
姿勢を直して、幸村に体と顔を向ける。
「真田、幸村さん……?」
「はっ……そっ、某は真田源次郎幸村と申す!」
「初めまして、政宗さんにお世話になってます、と言います。」
「おおおおお世話になっている……?」

幸村はと政宗の顔を交互に見て、顔を赤くした。


何想像してんだ。
あんたが破廉恥だ。


「お待たせしました〜。」
その微妙な空気をお店の女の子が可愛らしい猫撫で声で割り込み、団子を持ってきてくれた。
小十郎がそれを受け取り、政宗との前に置く。
コトッと置かれた皿を凝視してしまう。

団子の表面には香ばしく焦げ目が付き、キラキラしたタレがよく絡んでいる。
とても美味しそうなみたらし団子だ。
しかも高そうな皿に盛られている。

「……えぇ!?そんなのあったの?」
「ha!俺ら限定だよ!」
「おいしそうでござる……。」
「……幸村さんの皿、あたしたちの倍以上あるんですけどまだ食べたいんですか?」
しかもほぼ無くなってるんですけど。

「……団子は別腹で……あぁ!」

政宗がパクリとひとつ。
続いて小十郎もひとつ。
その姿を幸村はじいいいいいと凝視している。
申し訳ないかなとも思うが、これは自分の分のお団子だし、と思い直し、もひとつ口に運ぶ。
「……わあああ!おいしいいいい!!」
「……うぅ……!」

幸村は前かがみになり、とても食べたそうにしている。

「俺は餡の方が好きだがな」
「なっ……ならば下され!片倉殿!」
「文句言うんじゃねぇよ、小十郎。今日はに合わせろ。」

……幸村さんを無視してぱくぱくぱくぱくと……
佐助さんは必死に笑いをこらえてるし。
幸村さん、涙目だし……

……え!?涙目!?あんたそんなに団子好き!?

そして、全く相手にしてくれない二人は諦め、幸村さんのターゲットは私になったようだ。
すんごい物欲しそうな目で見てる。

「幸村さん……。」
「なっ、なんでござるか!?」
「己の望みを叶えたいと思ったとき、人は試練を乗り越えてそれを達成すべきではないですか?」
「……え、う、うむ、某もそう……思う。」
「じゃ、はい。」
幸村の前に串に刺した団子を差し出す。
「え……。」
「口開けて。あーんて」
幸村の顔がみるみる真っ赤になっていく。

「あー!いいなぁ、旦那!ちゃん、俺にも!」
「黙れよ、猿。」
俺すらしてもらったことねぇよ!と政宗が文句を言った。
「は……れんち……。」
「じゃあいらない?幸村さん?」
「食べたい……。」
「じゃあどうする?」
「う……。」
葛藤する幸村さん可愛い……。
私、Sっ気があったのかな……。

「っ……頂くでござる!」
意を決したように眉尻を釣り上げたと思ったら身を乗り出し、ぱくりと一口で食べてしまった。
あ、と4人が声を上げる。
自身も、まさか本当にいくとは思っていなかった。


「おいしいでござるよ殿おぉぉ!!」
「あははは!政宗さんに感謝しなさいな!特注らしいから!」
「弾力からして先程のとは違う!ありがたいでござるよ政宗ど……」

殺気を感じて幸村が止まる。
気づいてないは、のんびりと団子を食べ続けた。

「政宗殿……。」
「破廉恥野郎。」
「なっ……!心外でござる!撤回して下され!」
「いや、今のは旦那が悪い」
「佐助まで……っ!ぐわあああ!」
隣から小十郎がお手拭きで幸村の口を思いっきり拭いたというか擦った。

「な……何してるんですか?」
遅れて周りの異常に気づいたは、小十郎に問いかけた。

「いや、粉がついていたもので」
「へぇ、小十郎さん優しいんだね!」
「優しくないでござるっ!あいた!何でござるか!?」

間接kissたぁ良い度胸だ、とテーブルの下で政宗が幸村の足を思いっきり蹴った。

「あ、そういえば、はいこれ。」
今思い出した、といった雰囲気で佐助が懐から文を取り出す。

「これがmainだろうが。ついでみたいに出すんじゃねぇよ。」
「昨日のお返事?」
「そうだよ〜。」
「む?な、何事なのだ?佐助?」
「旦那には決まってから言おうと思ってね。」

いや、言ってやれよ……。と思ったのはだけではないはずだ。

「……ok、この条件で良い」
「はい、決定〜。あのね、旦那、伊達のこの二人が北条側に話があってね、でもなかなか北条の爺さんが首を縦に振らないからうちが仲介役をする事になったわけ。 で、日時は明後日、俺ら同行で北条の屋敷にて。」
「お、おぉ」
「明後日か……。」
思ったよりも早いことに、寂しさを感じてしまった。
もしかしたら明後日でお別れになってしまうかもしれない。

「……猿、このlast一文は断る。」
「え〜?何で〜?」
「政宗様、何が書いてあるんですか?」

まさか無理難題な事が書かれているのでは、と小十郎が心配そうに聞いた。

「……明日、幸村と佐助の案内で甲斐に来い。一泊した後、共に北条へ向かおうぞ……って事は今夜はうちに泊まるっつーことか!?」
「だめだめ、そこ重要なんだから。 ね、ちゃん? 俺居た方が心強いよね?なんなら布団の中も一緒に居たげる……」
「破廉恥ぃぃ!!」
「ぎゃー!」
幸村がテーブルをひっくり返した。

当然向かいに座ってた3人に被害が及んだ。








■■■■■■■■
とにかくテンパる真田幸村が書きたかった・・・