「……。」
ぱちりと目を開けると真っ暗い部屋の中。
首を動かして周囲を見れば、初めてこのお城に来た時に目覚めた部屋と同じ場所。
政宗が自分にくれた部屋だ、と理解するには数秒を要した。

あれ……?夕ご飯をみんなで食べてたんじゃなかったっけ?
……あ。

「私……お酒飲んで……みんなで踊ってそのあと……。」
寝ちゃったんだっけ?
「わあ……やっちゃった……!」
そして誰かがここまで運んでくれたのだろう。
まさか初めからこんな調子になるとは思っておらず、恥ずかしさに布団の中で丸まってしまう。

「絶対食事残した気がするし……!……明日謝らなきゃ……!」

頭を抱えて反省して、ため息をつきながら布団から起き上がる。
のどが渇いてしまったため、どこかに飲み水はないかと探しに廊下に出た。





極力忍び足をしているのに、キシキシと足音がたってしまう。

「……あれ?小十郎さん?」
廊下の突き当たりにあぐらをかいて座っている人影。
シルエットから小十郎だとすぐに判った。

「どうした?」
「喉……かわいちゃって……。」
「そうか。付いて来い。」
ゆっくりと立ち上がり背を向け、案内してくれるようだ。
少々怖い雰囲気があるが、基本は良い人だと思う。


後方をしばらく付いて行くと、小さな小部屋に小十郎が入っていった。 後ろで待っていると、瓶から水を湯呑に一杯注いでくれているようだった。

「ほら。」
「ありがとうございます」
差し出された湯呑を受け取ると、すぐにこくこくと飲み始めた。
喉が潤う感覚に、はふう、と息を吐いた。

「……俺が」
「はい?」

その様子を見つめながら、小十郎が無表情のまま話し出す。

「毒を盛るかもしれねえ、とは考えないのか?」
「毒?いえ、別に……。」

きょとんとしてしまう。
小十郎はそんなことしないはずだと、考えてしまう。

「俺がお前を受け入れてねえのは感じているだろう。」
「感じています……。が、それは、小十郎さんを疑う理由と直結するんですか……?」

あまりに極端、と思う。
しかし簡単で、判りやすい。

「俺は、政宗様の突き進む道の弊害となるものはすべて切り捨てる。」
冷たい目で見据えられる。
でも強い意志を持った目というのが伝わってくる。

「……はい。」
「力のない者でも、女でも、この時代の者でなくとも。」
「はい、ねぇ、小十郎さん。」
「なんだ?」
「私、小十郎さんとも仲良くしたいです。」
「……。」
「私、小十郎さんほど政宗さんに強い気持ちは抱いてませんが、政宗さんのこと好きですよ。」


こんなに親切にしてもらっているんだもの。

嫌いなわけがない。


「好きだと思う人の望みは自分の望みにもなるじゃないですか。私、政宗さんの邪魔になるならもちろんここを出ます。」


これは本音。
意地を張ってるんじゃない。


「お前は……。」
「小十郎さん、政宗さんのこと大好きなんですね!!やだな、取ったりしませんから安心してくださいよ!政宗さんだって小十郎さんのこと大好きですしね!!」
「な……!?だっ……だいすき……!?」

小十郎が頑固な表情を全く崩さないものだから、ちょっとふざけてみると予想以上に狼狽えた。

本当に政宗さんのこと好きなんだな―……。
かわいいなぁ……。


「…っ!へらへらするな…変な奴だな…」
「未来人ですから!」

がにやりと笑ってみせる。
すると小十郎の表情が少し和らいだ気がした。

「うーん、でも、本当言うと、政宗さんの邪魔になるような事が私に出来る気がしませんよ?あの人、我が強そう。思ったら即行動。」
「なんだ、お前、こんな短期間で政宗様の性格見抜いたか。政宗様のやんちゃっぷりには俺も手を焼いている。」
「絶対、今日は寂しいから一緒に居てーとか言ったって、ヤダよって即答されそうなんですが。」
「……そんな女の我儘に付き合う政宗様か……!?想像できねえな……。」

二人で、女性の言いなりになる政宗を想像して、同じタイミングで、それはないと首を振った。
それに気がつき視線を向ければ目が合った。
ぷっと笑ってしまう。

「……すまねえ。」
「何がです?」
「政宗様の人を見定める力を疑ってはいねえ。だが、用心に越したことはねえ。俺が独断でお前を疑う役になった。」
「大事なことと思います。」
「変な女だな。ずっと睨みつけてた男にそんな言葉かけるか。怖くなかったか?」
「まあ、あの、少し……。」
「言いづらそうにしなくていい。」

一国の主のそばに、天下統一の夢など微塵もない人間がいるのだ。
小十郎の気持ちも分かるような気もする。

「俺はまだお前のことを理解したわけじゃねえ、が……、ちとガキっぽいが、それなりに頭は回るみてえだし、害じゃねえなとは感じてる。」

ガキっぽいのは本人が十分承知なので、つっこみは入れないことにした。

「まあお前もいきなり知らねえ場所に来て大変だとは思うが……。」
が小十郎の口に手を当て、まった、と声をかける。

「何、会話終了にもって行く言葉発してますか。」
「何だ、他に何か用はあるか?」

ええ、ありますとも。

「私は、まだ小十郎さんを理解するに全然至っておりません。」
「というと?」
「小十郎さんのことが知りたいのですが。」

ならば、明日の朝起こしに行く。
そして黙って付いて来い、という言葉を残し、小十郎は去っていった。

あの筋肉、どんな鍛錬をしているのだろう……とドキドキするだったが、対照的に小十郎の顔はクスクスと笑っていた。


















「……面白くねぇ……。」

政宗は大きな岩に寄りかかって、畑を眺めていた。

視線の先には、仲良くかかしを立てる小十郎との姿があった。
昨日まで全然話していなかったのに、一体何があったのか。

仕事が一段落したため、と遊んでやろうと思ったら小十郎と畑に行ったよという成実の一言。

「いつの間にfriendlyになったんだ?」

良いことなのだが、政宗が居ないところで、というのが気になった。



「政宗さーん!見て見て!」
「……政宗でいいっつってんのによ……。」

やれやれ、と近づいていく。
……まぁ、が楽しんでいるなら良いか、と気持ちを切り替える。

慣れない環境で肩に力が入ってしまっていたのを知っていた。
穏やかで、笑えばその場を和ませるような雰囲気を持っている女なのだから、その良さを引き出してやろうと思っていた。
まさか小十郎に先を越されるとは。

「で、なんだこりゃ。」
「政宗カカシ。」

カカシの顔には、睨みをきかせた顔が書いてあった。

「似てねぇよ。俺はもっと……。」
「似てますよ、政宗様……ふふ。」
「小十郎……お前……。」

なんつー顔で笑ってんだよ。
心の底から楽しんでんじゃねぇか。

「あっちに小十郎カカシも作ったの!何も寄って来なそうだわね!」

いい仕事したぜ!とが汗を拭った。
女ってのは不思議なもんだ。
汗だくでも大して臭いはしないし。

「政宗様を案山子になんて、失礼だと言いましたら、俺の野菜を守るには最強の守護神が必要だと言われまして……。気分を害されましたか?」
「だから似てねえっつーの!!どうでもいい!!」

それにしても、小十郎が畑に入る許可を与えるとは。

「思ったより早く終わったので、俺はもう少し畑の様子を見ていきます。 、疲れただろう?政宗様と城に戻るといい。」

気遣っている!?

「うん、判った。小十郎さん、ちゃんと水分取るんだよ!」
「はいはい。」

が手についた土をぽんぽんと叩いて落としている。

ピンク色の小さな爪は今は茶色い。
身だしなみも全然気にしねえでよくやるぜ……。
この根性に気を許したのか?小十郎。


「ずいぶんと仲良くなったもんだなぁ?」
「うん!まぁね!小十郎さん、良い人だもの」
「まぁ、良い奴だけどよ。」

……本当に不思議なもんだ。
隣でこいつが笑ってると俺まで笑う。

「仕事……終わったんですか?」
「あぁ、あと経費の処理して、……事業の許可申請あったか?そんぐらいだな」
「そうですか……。」

あ、下向いちまった。
判りやすいなこいつ。


「今日中に終わらすぜ。明日行くか?城下」

「……っ!!うん!!」


勢いよく顔を上げて、満面の笑み。
……犬みてぇ。尻尾振りそうな勢いだ。

「よーし、よしよし」
「だからペットじゃないよ!!」
思いきり頭をなでてやった。













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頭撫でられるの好きです(管理人の個人趣味
小十郎さんの畑ってどんなだろう・・・