何にせよ、帰れる希望が見つかって、万歳して喜んだ。
政宗さんが単純だな、と笑ったが、いいんです!
嬉しいんですもの!

「といっても今すぐってわけにもいかねぇからな、今日は城の中案内し」
「政宗様、仕事がたまっております。」
政宗が言い終わる前に小十郎が口を挟んだ。

「しかしこいつは客だし」
「北条側にもう一度文を出しましょう。話し合いの場を設けませぬと。のことを多少記して構わねえな?」
「えっ!あ、えと……はい、もちろん。」

政宗にかける口調と、自分に向ける口調の違いに驚いてしまった。
しかし、少し乱暴な物言いの方がこの強面には合っていると感じてしまう。
それに、いやらしいものでなく、彼のように対する人物によって素早く態度を切り替えることが出来るというのは、格好良い。

「小十郎……おい、」
「政宗様」
「…uh……判ったって、たく、おい、女中に案内してもらえ。さっきの奴。」
「はい、ありがとうございます」

政宗は手を振りながら自室に戻っていった。

残されたは小十郎に視線を向ける。
それに気付いた小十郎は、部屋に散乱した鞄の中身を指差した。

「片付けるのは、手伝う。」
「す、すいません」

まだどう接して良いか判らず、自分からはなかなか話しかけづらい。

(というか警戒されてるよね絶対……。いや、逆にいきなり城に来ちゃった人を警戒しないほうがどうかと思うけどさ、小十郎さんは正しいと思うけど……。)

お世話になる所の人間だ。
信用してもらうために自分から積極的に動かなければいけないとは思う。

「…………。」
(ご趣味は?なんて聞けないしなああああああ!!!!!!!!)

悩んでいるうちに、片付け終わってしまう。

「この部屋、」
「何でしょうか!!!!」
「……お前の部屋にして良いからな。」

小十郎から話しかけられたのが嬉しくて、思いっきり元気のいい返事をしたら、用件はそれだけだった。

「私のためにこんな広い部屋を、ありがとうございます!」
しかし構わずハキハキとした態度で返す。

「……怪我は心配ねえ様だな。」
「あ、怪我は、大丈夫……みたいです。」

答えながら、次の日に大丈夫、と言える様な深さで無かったことを思い出し、腕を見る。

「……少し、ズキズキしますが……。」

傷口の様子が気になる。
だが、妙な予感がして、一人のときに見ようと思った。

「……まあ、大人しくしていてくれな。色んな意味でよ。」
「承知してます……つもりです……。」
散歩がしたいとは言えなくなってしまった。

「小十郎様、お待たせいたしました。」
「おう、こいつを案内してやってくれだと。」
小十郎の言い方に、うっ……と言葉が出そうになるのを堪える。

(それは、政宗様がそう言うから仕方ねえ、俺は許可してねえ、って意味ですよねえ……。)

悲しみを感じながら、しかし今どうにかできるものではないと判断し、女中さんに近づいてよろしくお願いしますと頭を下げる。

「城内をご案内致します。どうぞこちらへ。」
「あの……私といいますが、あなたは……?」
「私は篠と申します。」
……笑ったら絶対可愛いのに……顔崩さないなぁ……

小十郎にお辞儀をして別れ、先行する篠の後ろを着いて行く。

「まずは……そうですね、温泉がございますので、そちらへ」
「おおおおんせん!?」

まさかそんなものがあるとは予想できなかったため、必要以上に驚いてしまう。


廊下をしばらく歩くと、1つの戸の前で立ち止まる。
「こちらです」
引き戸が開けられ、脱衣場らしき部屋に一歩踏み込む。
さらに奥にある戸の隙間から湯気が漏れていて良い香りがする。

近づいて、からからと戸を開けて中を覗く。

「わぁ!いいなぁ!毎日温泉入れるなんて!」

感動のまま駆け寄り、湯に手を入れるとちょうど良い湯加減。
柔らかな水質で、期待が膨らんでしまう。
案内してくれたのだから、きっといつか入らせてくれるだろうと考えてしまう。

「政宗様は基本的に、ご自分で体を洗います。」
「へ?」
なんですかそのプチ情報。

「たまに背を頼まれることがあるでしょうから、そのときはあちらにある清潔な布で……」

んん?

「次は調理場を。」


何か引っかかるがそれが何なのかよく判らないので彼女に従い後ろをついていく。

「調理を任せられることはないでしょうが、こちらです。」
「はぁ」

たどり着いた先にあったのは、竈など時代劇で見たことがあるものが揃う調理場だった。
もし料理しろといわれたら、絶対に一人では無理だ。

炊飯器も冷蔵庫も、それどころかガスも電気も無い生活が考えられない。
……水汲みと、漬物ぐらいなら、できる気がします。
そのくらいしか思いつかず、苦笑いした。


「戦があると忙しくなります。その時は兵達への配膳の手伝いもしてください。」

‘も’?

「次は……あぁ、そうです……こちらへ……!」
「ちょ、待ってください、えーと、風呂があっちでここが調理場で……!」

必死に城内見取り図を頭の中に作りながら、そして迷わないようきょろきょろして目印を見つけながら着いて行く。
障子も柱もいっぱいありすぎて目印になるのかは謎だったが。

今度は比較的小さな部屋。
廊下に面していない、襖に囲まれた部屋。

「こちらが寝巻きです。」
「あぁ、どうも……。あれ、でもさっき……。」

この部屋を使っていいからな、と小十郎さんに言われたから、寝食は先ほどの部屋では……?

「殿が来る前にこちらにいて下さいね。蝋の火は消さずに。」
「……殿?」

あぁ、何?
篠さんは私を政宗さんの嫁さんか何かだと思ってるの?
いや、扱いからしてあれだろ、いわゆる

「篠さん!!私、違います!小姓でも側室でも何でもないですから!」

「hahaha!俺はそれでも構わねえけどな!」

スパーン!と良い音を立ててひとつの襖が開いた。

「政宗様!」
「ままま政宗さん!?」
「隣で仕事中だよ。声筒抜けだぜ」
「びっくりしたけど丁度良いや!!あの、私はここで一体どういう立場で……!?」
「oh、Don't worry!今夜の夕食の席で紹介しようと思ってたんだぜ?」

手を顎に当てて笑いながら、何かを思案中な政宗はとても無邪気な子供の様に見えた。

「いっそ、そういうことなら誰も怪しまねぇかもな……。というか、こんな珍しいやつ正室にしたら面白そうだな!!」
「いややややや!無理無理無理無理!!形だけでも無理!ってゆーか正室いないの!?」
「おいおい、つれねぇな……。傷つくぜ。」
「政宗様の事を思っての無理!」

武将の嫁なんて務まる気がしない!!!!











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戦国の調理器具、主人公ちゃんがよく判らんというか
管理人が判らん!!
ああ、戦国時代に詳しくなりたい・・・
女中さんの名前もこんなんでいいのでしょうか・・・
喜多さんじゃなくてすいません
喜多姉さんは後ほど…