「good morning!!」
「む……むぅぅ……。」

ぴしゃあん!と音を立てて障子が開かれた。

「ha!まだ寝てるのかよ!」
「お……おはようございます……今起きます……。」

怪我人にその起こし方は無いんじゃないか…?と思うが、この城の主が自分と話したがっている良い兆候と受け止め、疲労が抜けきれない体を懸命に起こした。

「あれ?」
視界の隅に、ぴんとはねた髪が映る。
寝癖がついてしまった。
「鏡……。」
バッグの中から鏡を取り出す。

「oh…」
「わああ!ストップ!!身だしなみ整えますから!まだ寄らないで!」

政宗が後ろからのぞき込もうとするのを、鏡で顔を隠して防いだ。
昨日会った人間に寝起きを見せられるほど、自然体でいられる人間ではない。

「これが鏡?でけえなぁ……生意気なもんだ。」
「生意気って……。」
百円ショップで買ったものですが……?

待たせるのも申し訳なく、ある程度整えて政宗の方を向くと、廊下に小十郎が立っていた。
「あ、おはようございます、小十郎さん」
「……お早うございます」

何か言おうと口を開いたら、ぱたぱたと軽い足音が聞こえてきた。

「失礼します、政宗様。着物はこちらでよろしいですか?」
女性だった。
質素な着物ながらも、教養のある人物なのだろうと感じさせるオーラがあった。
しかし、話す内容を聞けば女中のようだ。
所々に小さな花の模様のついた、薄いピンク色の着物を政宗に見せていた。


「おう、いいじゃねぇの?」
「着物?ま、政宗さんそんな可愛らしいものを着るのですか……?あ、いや、に……似合うんじゃないでしょうか?」
「ah?何言ってんだ?ほれ、お前に。」
「え?いいんですか?こんな可愛いもの……。」
「ってゆーか着替えろ。その服汚れてるだろ?洗ってもらったほうがいい。」
昨日、馬に乗ったり森に行ったりしたことを思い出す。
「ということは布団も……。」
「あぁ、今から洗う。」
「すいませ……。」
「なあに、気にすんなよ。」
仕方ないこととはいえ、お世話になりっぱなしなのが申し訳ない。

政宗と小十郎は廊下に出て行った。
女性が着物を着せてくれるらしい。
下着姿になった時点で彼女の動きが止まる。

「これは……?」
そうだろうなと思いつつ、残念な気持ちでいっぱいになる。
「えと……こういった感じのものはここには……」
「あの、申し訳ないのですが、このようなものを見るのは初めてで……。」

下着を付けないというのは、正直抵抗がある。
しかしいらない布でもあったらそのうち裁縫でもして作ろうと思い立った。
これから政宗や小十郎と話す時にはもちろん間に合わないが。

「い、今は、仕方ないですよね……。」

とりあえずここは彼女を困らせないよう努める事にした。
着終わると、次に何をしたら良いか戸惑うに、片づけをしながら言葉をかけてくれた。

「とてもお似合いです」
「あ、ありがとうございます!」

そしてすぐさまの着ていた衣類を持って行ってしまった。


「えっと……どうしよ……。政宗さん〜?」
部屋から顔を出し、政宗の姿を探そうと思うが、その前に目の前の風景に目を奪われる。

「わぁ!!」

庭には、緑や石がバランスよく設置されている。
池も見え、ひとまず落ち着いたら歩き回りたいなと思った。

「おっ、なかなか似合うな。」
横から足音と政宗の楽しそうな声が聞こえ、急いで振り向きお辞儀をした。

「政宗さん……ありがとうございます。」
「捕虜じゃねえんだから、当然だろうが。朝飯食おうぜ。come on!こっちだ」
「はい!」

どんな食事かすごく楽しみになり笑顔になった。
この時代って健康食じゃなかったけ?




ここだ、と案内された部屋には小十郎しかいなかった。
それと3人分の膳が用意されていた。
ご飯に野菜のすまし汁、鰹、大根の味噌漬けなどが並び、現代社会で不規則な食生活になっていたには、食べきれるか不安になる量だった。

政宗が肩にぽんと手を置いた。

「俺の部屋だ。」
「えっ……。いいの?ここで食べて……。」
「あぁ、少人数のが何かと話しやすいだろ?」
「ありがとうございます!」

正直うまく話せるか判らないけど、出来る限りがんばってみよう。

両手を合わせていただきますをして、すまし汁に箸を伸ばす。

「おいしい!」
「そりゃそうだ。小十郎が作った野菜だぜ?」
「小十郎さんが!?」
じぃっと小十郎さんを見つめて、すごくおいしいです!とにやけ顔を隠さず向けたら、少し笑った気がした。

それが嬉しくて、絶対に残さず食べよう、と思った。



一通り食事を済ますと、いよいよ本題に入る。
意外にも切り出したのは小十郎だった。

「……で、あんたは本当に北条の奴じゃねぇんだな?」
「は、はい。」
「小十郎、そんな怖ぇ顔すんなって。」

そうですよ、と同意したくなるくらい、睨まれている。

「で、あんたは何だ?珍しいものを持ち、衣類も我々のものとは違うな。南蛮から来たのか?」
「違います。えと、あの、未来から……来ました。」
いざ口にすると恥ずかしい。
はいそうです南蛮人です、と言えば納得するのかもしれないが、それは昨夜の政宗との約束に反する。
どうしてもそれだけはしたくなかった。

「……政宗様、この者は……。」
「ちょっと!最後まで聞いてよ!そのかわいそうな人間を見る目はやめろ!」
「…unbelievable」
政宗は普通に左目を丸くし、驚いていた。

「政宗様!?信じるのですか!?」
「yes」
「政宗様!」

疑われるのは承知の上だった。
構わず続けることにした。
「未来で……元居た世界で私は北条氏政に会いました。もちろんすでにお亡くなりになってました。霊を見る能力が私はあったので……。」

小十郎が政宗に向けてた目を再びに向ける。
政宗はずっとから目を離さなかった。
それに応えるように、先を続ける。

「それで氏政爺さんが生前の自分を私に見せたいってご先祖様に頼んだら叶えてくれたんだとさ。つまりジジイのせいで時の迷子さ。あっはっは」
しかしいざ言葉にしてみると、何この私の境遇、ゲームのやりすぎじゃないの?などと思えてきて、投げやりになってきた。

「小十郎、来い。 、お前もだ。」

突然、政宗が立ち上がり、足早に部屋を出てしまった。
と小十郎は慌ててついていく。

向かった先は、が寝床にしていた部屋だった。
問答無用と言わんばかりに、のバッグを開けて逆さまにし、中身全てぶちまけた。

「いや―!!ケータイ―!!」
「……これは……?」
「全て未来のものなんだな?aren't you?」
「そうだよ!丁重に扱ってよ!」

昨日は気がつかなかったが、お菓子やら友達に借りた小説も入ってた。
こんなに詰め込んでいたかと、自分のものながら慌ててしまった。

小十郎が、興味あるのだがどこから手をつけていいか判らないようで、とにかく目についた物に触っていた。
そんな小十郎が少し可愛かったので

カシャ

「!?」

コミュニケーションにもなるだろうと、写メをとってみることにした。

「小十郎さん、写真写りいいねぇ〜。」
「なんだそりゃ!?見せろ!」
「政宗さんも!止まって〜!」

カシャ

きょとん、とした表情の政宗が撮れた。
かっこいいんだか可愛いんだか判らなくて、クスッと笑ってしまった。

「俺が居る!見ろよ小十郎!」
「はぁ……ど、どうなっているのだ……?」

二人で小さい画面をのぞき込んで、首を傾げて不思議がる。
失礼ながらも、可愛らしく感じて仕方が無い。

その後も、本を開いて説明をし、

iPodを聞かせて、楽器の話をしたり、

朝食を食べたばかりだったが、入っていたチョコレートを開けて一口ずつ食べてもらったりして、自分のいた世界の話を聞いてもらった。

約400年先という飛んだ文明を見て、小十郎も、南蛮のものなんじゃ……、という疑いは薄くなっていった。
何より、政宗が信じている。
を疑い続け、発言を続けるのも限界があった。

「……判りました、政宗様、この小十郎も、この者の言うことを信じます。」

「いいねぇ、coolだぜ!小十郎!」

「ありがとう!小十郎さん!あ……の……それで、どうやって帰ったらいいか判らなくて……。」
一番の深刻な問題だった。
正直、このままここにいても、戦国時代を生き抜ける自信はない。

「……爺さんがkeyになってるかもしれねぇのか?そうさな……面白いもん見せて貰ったし、いいぜ、、協力してやるよ。どの道、俺も爺さんに用はあるしな」

「まさむねさまああああああ!!」

なんて優しい!
心が広い!

と思ったら、なんかにやにや笑ってる!

違う!この人楽しんでるだけだ!!







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氏政じいさんに会いにいくよー