気を失うことなく、真っ黒の空間を抜けられたのはまぁ、良かった。
昼間で明るく、周囲の様子がよく見えるのも良い。
そして時代劇で見たことのあるような町に抜け出ることができたのも、まぁ良かった。
人がいっぱい居るというのも、まぁ良しとするところなんだけど

人々が手に持ってるのは刀で
血飛沫をあげて倒れる人も居て
戦をしている事を知る。

「じ……じいさ〜ん……氏政じいさ〜ん……。」
絶対に恨む。
しかし、頼れる人は氏政しか居ない。
けれども、とても落ち着いて探せるような空気ではなかった。

逃げ腰で立ち上がり、民家の影に隠れた。

「氏政〜……こ、小太郎ちゃん〜……?」
とりあえず知ってる名前を口にしたが届くはずもない。

「……!!!!」
こそこそと周囲を見渡した瞬間、喉に矢が突き刺さり、絶命する人間が見えた。
一気に足が震える。

「映画の中だけにして欲しいよ……!!!!」

涙目になるが、このままで居るわけにはいかない。
危険すぎるのもあるし、この乱戦の中を利用してうまく潜り込まないと、氏政と会える機会など無いのではないか?と、城へ続く道にある巨大な門を見て思う。

「……あの……お城見学とか、開催してたらまた別なんですが……。」

戦が終わったばかりのときに、お城一般公開イベント。
想像して、いやいやいや無いだろうと首を振る。

自分の着ている服を見る。

女の子です。

着物では無いし、自分の感覚ですが、この格好は明らかに女の子です。

「……よし。」

逃げ遅れた町娘、ということにしよう。
そして、氏政と同じ家紋の人に助けを求めてみよう。

「……。」

言うのは簡単だ。
足がすくむ。

平成を生きていた人間にこの空気はきつい。
死ぬか生きるか……
話しかける人を間違えたらすぐ殺されそうだ。

「どうしよ……。」
泣きたくなってきた。
氏政が無責任に言い放った言葉を思い出して怒りを覚える。なにが大丈夫だ。

迷っていると、徐々に兵の流れが変わってきた。
見た限り、北条側が押されているようだ。

「……やば……。」

この場所が敵軍に占領されては、ますますどうしたらいいのか判らなくなる。
馬の蹄の音まで聞こえてきたし、とりあえず氏政を探すしかない。

心の中で、3、2、1、とカウントダウンする。

ジジイ―!!
そして、叫んで一気に走り出した。
しかし、その突進はすぐ阻まれてしまった。
巨大な馬によって。

「hey、girl!あんた爺さんのとこ行くのかい?ぜひとも案内してほしいもんだぜ!」
「hey!?」
後方からやってきた馬はのすぐ横を通り過ぎたと思ったら地面にJの字を書いて止まった。
乗っているのは青い陣羽織に三日月の前立をした青年だった。

「何だ何だ?そりゃ南蛮の服か?」
そう言って、男は馬を下りて近づいてくる。
「政宗様、その女、何やらおかしなものを持っております!不用意に近づいては……。」

後ろからもう一人、同じく馬に乗り近づいてきた様だが、振り向いて確認する余裕は無かった。

……今、まさむね様って言った?
まさむね……正宗……政宗?

「ha!どう見ても武器じゃねえだろ?心配しすぎだぜ、小十郎。」

おかしなもの、というのはバッグの事だ。
確かに武器じゃない。
武器だったらどんなによかっただろうか。

……いや、大学帰りのままだから解剖学やら疾病やらの太い教科書が入っているはず……。
角が肌に当たれば痛いんじゃ……。
あぁ、だめ、携帯が入ってる……。
お兄さんの防具にでも当たったら壊れる……。

そんなことを考えてたら、突然胸倉を捕まれ、顔が近づいた。

眼帯をして、名前が政宗だろ?
私でも知ってる人ですか!?
伊達政宗ですか……!?

「さぁて、案内して貰おうか?あのジジイ、途中で逃げやがって……。」
「ににに逃げたぁ!?あのじいさん!?」
何してんだよ爺さん!
ってかこの時代ですでに爺さんかよ!
惚れねぇよ!!


「政宗様って……伊達政宗様ですか……?」

こんなテレビもネットも無い時代、偉い人でも知らない方が自然だろうと思い、確認してみる。

「話逸らしてんじゃねぇよ……。まぁいい、その通り、俺が伊達政宗だぜ?Do you understand?」
「……い、Yes I do……。」

つられて英語で答えてしまった。

「お……いいねぇ、異国語が使えるってのは。お前、名前は?」
それを聞いて目を丸くするのは一瞬で、すぐににやりと笑って目を細めた。

……です……。」

あの、顔近いんですけど……
かなり整った顔なんですけど……
恥ずかしいんですけど……

「はっ……離せ!」

耐えられなくなって、彼の手を振り解いた。
そしてすぐ後悔した。
周囲の人は目を丸くして、口開け、政宗はさらに邪悪な笑みを浮かべる。

「怖っ……!」
「おいおい、そりゃないぜ。互いに自己紹介したらもうオトモダチだろうが?こんな粗末に扱うのか?」

胸倉を掴むのはいいのか

という言葉は飲み込んだ。

「決めたぜぇ、てめえの口から爺さんの居場所吐いてもらう。」

そういえば、誤解されたままだ。
氏政の居場所なんて知らない。
爺さんの語る武勇伝に逃げ場所なんてなかったぞ……

「知りません……。」
「ほぅ……?」

腕を組んでを見下ろす様は明らかに信じてない。
先ほど、小十郎と呼ばれていた人は刀構えている。

これでもか弱い女の子なのに!
厳しいぜ!戦国乱世!

「ほっ……本当!といいますか、私が一方的に氏政のことを知ってるというか……。」
「あんた、どこかの忍か?俺らの戦覗き見たぁ、高くつくぜ?」

一方的に……は……そういう意味じゃない!!

「私、全然忍んでないだろ!?忍びのわけないだろ!」
「目立つ忍びなんて慣れっこだぜ。信玄公んとこのほどじゃねぇよ」

信玄公おおお!!
目立つ忍びって何いいい!?
って、信玄て武田信玄か……
これまた有名人だよ……

「嬢ちゃん!筆頭が怒る前に吐いちまった方が良いぜぇ!?」
周囲の臣下らしき人のアドバイスに従いたくなる。
そうしたいけどさ……
そうしたいけどさ……
知らないんだよ……

もしこの場に自分ひとりだったのならば、めそめそ泣き出していただろう。

「ちっ、思ったより頑固だなぁ……しゃあねぇ、こいつは人質だ。」
「いやいやいや!使えませんよ!私!!」

の事知る人なんていないことは分かりきっているため、ぶんぶんと首を振るが、彼らには何も効果がない。

「謙遜すんなよ……そんなご立派な衣装身につけて、おキレイな顔して、大切にされてんだろぉ?」

くそぅ!ときめいてしまった!!
キレイだとおおお!?
言われたことない!


政宗はひょいとを肩に担いで、そのまま馬に跨った。
政宗の前に座らされる。

「わぁ!?」
「軽いなおい。俺はもっと肉ついてる方が好みだぜ?」
「そうか!じゃあもっと痩せるわ!」
「てめぇなあ……。」
「馬!馬初めて!!」
「あぁ?しゃあねぇな、ほれ、手綱もって、支えてやっから」
政宗が後ろからがっちりとの腹部に腕を回した。

防具が当たって痛いのは我慢しよう……。

「行くぜ!ついてこい、小十郎!」
「はっ!」

どこへ!?






少し走ると、一人のリーゼントが政宗を呼び止めた。

あの……リーゼントってさ……

「筆頭!吐きましたぜ!氏政は屋敷裏の森に逃げ込んだと!」
「はぁ?森だとぉ?厄介なとこ行きやがって……。」
「……森?」

森に逃げるって、普通のことなのだろうかと、首を傾げる。

「いかが致しますか?もはや我々の勝利は確定しておりますが……。」
「今回は勝ったからって喜ぶもんじゃねぇ……あのじいさんに話つけねぇとな……。」
「では……。」
「あぁ、行くぜ。あんたもだ。」
「えぇ!?もういいじゃんよ〜!居場所判ったんだし……。」
「話聞いてろよ!あの爺さんを殺しに来たんじゃねぇ!まぁ……向こうはやる気満々みてぇだが……。国境付近での不審な動向についてだなぁ……魔王さんが絡んでたら厄介だ……とにかく情報がねえんだよ!Shit!文も返さねぇであのジジイ……。」

吐き捨てるように言葉を発し、馬を再び走らせる。

……身内でもないが耳が痛いぜ……。


政宗と小十郎は、森が見えると馬を止め、降りて1刀、抜刀し構える。

「!!」
の視線が、政宗の両脇に装備された刀を捉えた。
先ほどまでは慌ててしまい、気付けなかった。

……六爪流……あんたのことか……?

「政宗様!それほど大きい森ではありませんが、気をつけて!」
「あぁ、背後は任せたぜ、小十郎……。」

うぅ……二人ともめちゃくちゃ殺気立ってる……。
おとなしくついていこう……。
……政宗様と小十郎様に挟まれて逃げれないし……。

びくびくしながら進むが、疑問を感じて仕方なく、きょろきょろと周囲に視線を巡らせる。

なぜ森なのか。
そりゃ木が障害物になって隠れんぼには最適だ。
しかし、広いし、もし持久力勝負になったら氏政の負けは目に見えている。


気になってしまい、話を聞いて、理解できる範囲で、も自分なりに推理する。

そこで、1つの答えに辿り着いた。


……まさか

いや、絶対そうだ。

ここには風魔小太郎がいる。

氏政の代わりになって、政宗様と小十郎様を返り討ちにする気だ。

自分は非力で何も出来ないのに、どうしよう、と考えてしまう。
正直二人に死なれたら嫌だ。
勘違いされているとは言え、この二人が死んで良かったと胸をなでおろす自分はどこにもいない。

死ぬのは嫌だ。

「あ、あの、ここは引こう!?」
「あぁ!?お前誰に指図……。」

政宗が振り返ってを見てしまった。

右からシュッという音が一瞬聞こえて、反射的に政宗を突き飛ばした。
もちろん倒れはしないが、一歩後方に下がらせることはできた。

……政宗様は防具がっちりつけてんのにさ……。
私現代人の格好なのにさ……。
なにしてんだろ……。


「……おい?」
「……痛い……。」

腕からバッと血が飛び、クナイが左側の木に突き刺さった。
震える手で、怪我した部位を抑えて、座り込む。
すぐに小十郎が政宗との壁となり、見えぬ敵に刀を構えた。

「……な……お前北条の人間じゃ……。」
「……違う……ここには私の帰る場所なんて……無い……。」

なんてネガティブなことを口にしてるんだろう……。
きっと痛いからだ。
血がドクドク出て気持ち悪い。
止血しなきゃ……




これほどの怪我を負ったのは初めてで

情けないことに気絶してしまった。











■■■■■■■■
主人公、ちょっと口悪めでいきたいです
とりあえず政宗公から・・・
歴史勉強しながら・・・