大学生になり親元を離れ一人暮らしを始めている。
友達も出来て、学びたいことを学べている。
そんな毎日がとても楽しい。

……ただひとつ、悪霊に憑かれていることを除けば。


『なんじゃと!?そなた、悪霊に憑かれておったのか?』

「……あんたのことですが、北条氏政。」


小さい頃から霊感が強く、それは今でも残っている。


「大人になれば消えるって聞いたことあるのになあ……!!」

『何を言うか!そなたに霊感がなければ、わしと会話などできぬのだぞ!?』

だからそうしたいと言ってるのですよ。

そう思いながら、背後のフェンスにゆっくりともたれかかった。

大声で話す目の前の霊は、戦国時代を生きた、北条氏政……らしい。

『大体お前はわしの偉大さを知らなすぎる!』
「だから私は理系なわけよ。もう歴史はうろ覚えなのよ。」
『今からでも遅くはない!学ぶんじゃ!』

うるさい爺さんだ……と思う。
しかし、嫌いなわけではない。


氏政と会ったのは大学入学式直後だった。
満開とは言えないが、綺麗に花を咲かせた桜の木の下に淋しそうに佇んでいた。

その姿があまりに印象に残り、知り合ったばかりで、無難な会話をしていた同学科の集団を一人抜け、ゆっくりと近づいた。

「何をしてるんですか?」

優しく話しかけたのが間違いだった。

氏政は一瞬驚いた後、満面の笑みを浮かべ、すぐに自己紹介とご先祖様自慢を始めたのだった。

しまった……と思った瞬間には、それはもう反省ではなく後悔と変わっていた。

どこに行くにも付いて来て、ギロリと睨みつけるまで喋り続けていた。

その後の背後に頻繁にくっつくようになって、現在に至る。






何を考えとるんじゃ、と氏政がの頭を撫でる。
正確には、撫でようとした。
生きているに触れることはできず、手はそのまま頭の中に沈んでいった。

『ぐぬう……これほどはっきり会話できるのに……。』
「接触はまた別なんじゃない?私は幽霊に触られたことはないし。」

霊感があるといっても霊について詳しいわけではないし、見えるなんて友人にも口外していない。
そういった情報がないので曖昧に答えるしかない。
……口外していないというよりは隠している、と言った方が正しいのかもしれない。

「あぁ!そうよ!あのね、大学に来るのは良いけど話しかけるなっていったでしょ!?今日酷かったわよ!あれ何あれ何って…」
『仕方ないじゃろう!あんな病は見たことがない!』

大学では医療を学んでいる。
真剣にノートを取っていたのに、突然、氏政は疾病の教科書をのぞき込んで、載っていた写真に指をさして聞いてきた。

『む……まぁ、しかし……すまん……。』
「いいよ……シカトしちゃったしさ……私こそごめん。」

誰にも言えないのは自分は普通ではないということを知っているから。


幼少の頃、母親に「あの人、あんなに血を流して痛くないのかな」と聞いたことがあった。
母に霊感などなかったのに。
そのときの母の、驚愕のような、怒りのような、哀れむような、歪んだ顔は今でも覚えている。
怖かったから。
嫌われてしまうと。


『やはりにはわしが直々に歴史を教えてやらぬといかんな……!!』

ため息をついてそう言っているが、顔が嬉しそうだ。
もう延々と語るのは勘弁してほしい。

それに一つ言いたいことがある。

あんたの話はぶっ飛んでる。

炎をまとう武器は卑怯じゃとか、
六爪流は卑怯じゃとか。

卑怯な以前につっこめよ。


「あのさ、そんなに氏政爺さんは偉かったの?」

戦国時代といえば、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康など、名立たる武将のことしかは知らなかった。
氏政をからかうためでも罵るわけでもなく思ったことを口にしてしまった。

『なんじゃと!?はわしが嘘をついていると!?』
「や、そうじゃなくてさ〜。」


実際、氏政の話を聞いてても風魔小太郎って強いんだな、という感想しかない。


なんだっけ……確か戦で氏政の身代わりとかしょっちゅうやってたとか……。
返り討ちしちゃうらしいよ。
立派だぜ、小太郎ちゃん……。
……小太郎って名前可愛いよなぁ……呼んでみたい……。


!生前のわしを見たら絶対におぬしは惚れるぞぉぉ!あぁ、見せてやりたい!!ご先祖さまああぁぁ!!』
「落ち着いてよ〜、判った判った、話聞くからさ……ってもう8時じゃん!私帰るわ……。」

夕御飯も食べておらず、一度も家に帰っていない。
最近はアルバイトや課題が忙しく、あまり氏政の相手をしてあげていなかったから、予定の無い今日くらいは、と思い残っていたのだった。

ちなみここは氏政と初めて会った桜の木の下だった。


……何でじじいと木の下で語ってんだろ……。
自分がすごく可哀想な子に思える……。



『……。』

地面に置いていた鞄を拾おうとしていたため、下を向きながら答えた。

「なに〜?私帰るからまた明日……。」

『すまぬ……。』

「え?」


顔を上げ、氏政の顔を見ると、の背後を見つめていた。


『いってらっしゃい……。』

「へ……?」


振り向けば後ろにどす黒い空間が見えた。

それはだんだんに迫る。


『願ったら、ご先祖さまが叶えてくれたぞ……。』

「あんたの願いは……」


生前の爺さんを私に見せたいと……

「!!」
あまりの驚きに逃げることを忘れてしまった。
半身が飲み込まれる。

「ここここわい!ジジイ!てめぇ!助けろ!!」
『大丈夫なはずじゃ〜』
「なにそれ!手を振ってないで……ちょ……お……わっわああああ!!」

視界が真っ黒に覆われる前に見えた満月は、憎たらしいほど静かに光り、美しかった。






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ややややややっちまった
大して頭使ってない設定のバサラ夢・・・
よろしければお付き合いください・・・
医療って曖昧な表現はわざとです。
医者でも看護師でもリハビリ系でも何でも当てはめてください。
といっても難しい単語とかは使いませんよ!