今日もは三好三人衆に嫌がらせを受けていた。

「松永様のあの瞬歩…見習いたいものだ…」
「あの体勢からあれほどの技を繰り出すなど、我々には真似できぬな…」
「また火薬を仕入れたようだ。次はまた派手な戦になりそうだ…」
「………。」
の背後を付きまとい、微妙な言い回しで松永を褒める。
どんなものなのか、想像できない。

「…三人衆、鍛錬の時間では?」
「ああ、これから軍議か…。」
「女は入れん軍議だ。」
「女など邪魔になる軍議だ。」
「〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!」

話しかけたのに、に目線を合わせることも無く、嫌味連発だ。

「う、うるさいわよ!!知ってるもん!!だから邪魔しないもん!!」
「さあて、今日は松永様、ご機嫌だったな…」
「また欲しいものを見つけたようだ。」
「以前は少々手こずった…今回は上手くやろう…褒美など二の次だ…。松永様の喜ぶ顔がたのしみだ…」
「ううううううう〜!!!!!」

は悔しくて着物の袖をぎゅっと握った。

「わ、私だって…!!私だって許されるなら戦場に行きたいわよお!!!!!」
「そうだったのか、。」
「!!!」

が振り返ると、松永が笑顔で立っていた。

「松永様…」
「戦場に興味があるのか?良いことだ。あそこには人間のあらゆる欲が入り乱れている…それを潰すのは実に楽しい。」
「い、いえ…!!あの、松永様…私は…」
は顔を赤くしながら、松永をじっと見つめた。

「私の興味は松永様のみ…!!松永様のこと…お側で見ていたいと…」
「…ふむ、そうなのか…の欲は率直でよいな…」
松永は僅かに沈黙し、何かを考えるように空に視線を向けた。

「…松永様、まさか、を戦場になどとお考えで…?」
「松永様、邪魔になります。」
「松永様、じゃあに爆弾を背負わせて…」
「ちょっと黙ってなさいよ!!!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ四人を、松永は笑顔で見つめた。
悪戯を思いついた子供のような笑みだった。

、たまにはよかろう。」
「お許しいただけるのですか!?」
は松永に満面の笑みを向けながら、手は三人衆の一人の頬をおもいきりつねっていた。。

「ただし、安全なところにいて貰うよ…。は私には必要な人間だからね…。」
「ま、まつながさまぁ…!!!」
そんな言葉を頂けて、は嬉しくて松永に深々と頭を下げた。









数日後、松永軍は人取り橋に陣を張っていた。
いつも通り、松永は崖で、捕虜を取って相手を待っていた。

、嬉しいかね?」
「は…は……」
は、はい!!と答えたいが、そんな元気はなかった。

は捕虜と同様、絶壁に備えられた丸太に縛られていた。
確かにここなら松永の味方だと思われる可能性は少ないし、松永が縄を切らない限り安全な上、松永の姿を一番近くで見れる。

「…は…い…」
下を見ないようにし、冷や汗をだらだら流しながら、松永に引きつった笑顔を向けた。

「そうか、それは私も嬉しいよ。」
「は、はははは…」

決して松永様は楽しんでなどいない…私のためを思ってこうしてくれているんだと、は自分に言い聞かせた。
があん!!と氷が落ちてきて、洞窟への穴を埋めてしまった。

「うう…幸村様あ…」
「佐助様…どうか…」
「……」
は人の名前を呼ぶ捕虜達を見回した。
真っ赤な防具で、派手だなあという印象。

「ほ、本日は…どういった戦で…?」
「真田幸村という名を知っているかな?」

は急いで脳内でそれに関連する情報を探す。

「…真田源次郎幸村…まだ若い男ですが、すでに戦場で数多くの功績を残していると…」
「そうらしいね…まあ、どうでもいい事だ。」
にやりと、松永が笑う。

「彼の父親、真田昌幸の形見とやらに興味がある。」
「はあ…それは…」
「刀だ。」
「きっと…名刀でしょうね…」
「期待している。」

松永がの前を行ったり来たりしている。
ご機嫌なのが見て取れる。
そんな松永を見て、は嬉しくなってしまった。

「松永様!!応援しております!!」
「あまりうるさいのは好かんな。」
「はい!!心で祈っております!!」
うおおおおおおおおおおおお!!!!!!

があん!!と氷が割られ、洞窟から人が飛び出す。
捕虜の兵より真っ赤な人物だ。

「このような悪行許すまじ!!!!松永久秀!!覚悟せよ!!!!!!」
「おや、来たようだ。」
松永がゆっくりと振り向く。

「天覇絶槍真田幸村!!貴殿を倒す!!!!!!!!」
「それよりも…頼んだ品は持ってきたかね?」
「っ…!!ち、父上の形見…!!そなたのような者に渡さぬ!!」

松永はがっかりした様子で、ため息をついた。

「…ならば…人質は、処分するか…。用が無くなった…」
「な、なんと非情な…!!!」

松永はすっと、一番近くにあった縄に刀を向けた。

まあああつながさまあああああ!!!!!!!それ私の命綱ですううううううう!!!!!!!!!!
「おや、そうか。」
は必死に叫んだ。
松永は目をぱちくりさせ、刀を引いて移動した。

「よし、これにしよう。」
「ひい…!!!」
「やめろ!!男なら正々堂々と勝負をせぬか!!!」
「そんなものに、興味は無いな…」
「貴様…!!!!!!!!」

真田幸村が松永に突進していく。
槍を突き出すが、松永は涼しい顔をして受け流した。

「元気がいいな。うっとおしい事だ。」
「黙れ!!!!…うあ!!」

松永が周囲に炎を生み出す。

「あ…松永様…!!」
の目にはらぶらぶフィルターがかかり、炎を纏う松永が心の底から美しく見えた。

「く…強い…!!」

ザッと後ずさる幸村に一瞬にして近寄り、刀を振りおろす。

「な…!!」
「死にたまえ。」
「なに、を!!」

幸村は槍で松永の刀を受け止め、弾き返した。

「…か…かっこいい〜…!!!!!」
はたまらなくときめいていた。
いつもは松永に抱きつきたいと思っているが、今日は松永に抱きしめられたい。

悦に浸るの耳に、聞いたことの無い声が聞こえてきた。

「旦那!!無事か!?」
「幸村よ!!先に突っ走るでないわ!!!」

必死の形相で、忍らしき人物と幸村にも負けない真っ赤な衣装を身に着けた体格のいい人物が洞窟から現れた。

「お館様…佐助…!!」
「…これはこれは…客が大勢来てしまったな…」

松永は慌てることなく、幸村から離れる。
佐助はすぐに囚われの兵の元に向かい、縄を解き安全な場所に運ぶ作業を目にも止まらぬ速さで進めた。

「形勢は不利、か?仕方が無い…私も命は惜しいのでね…」

松永がパチンと指を鳴らすと、爆発音とともに煙幕がその場を包んだ。
三好三人衆の、松永を呼ぶ声がした。

「ああ、松永様…」

…己の命を大事にしてくださるなんて…は幸せです…!!
私は貴方様がいなければ生きていけません…!!
これからもどうか、生きて私の待つところへ帰ってきてください…!!

は嬉しくて泣きたくなってきた。
…が、視線を感じて硬直した。

「…あんた、誰?」
「へ…」

人質を助けていた佐助が、の前で立ち止まっていた。

まつながさまああああああ!!!置いていかないでええええ!!!!!!!!

は一瞬にして違った意味で泣きたくなった。











佐助が部屋に食事を運ぶ。
障子を空けた途端、ため息がでてしまう。

「また飲んでないの?」
「………」

は監視をされながら部屋の片隅にしゃがんでいた。

「もう3日目…いいかげん、食べなよ。」
「……」
「意地っ張りだねえ…」

最初は松永の情報を得ようと、に多少の折檻をしながら尋問をしていたのだが、は一向に口を割らない。
得たのは、この女がという名前ということ。

「…佐助」
「旦那…」

幸村もの事を気にかけていたため、室内に入ってくる。
申し訳なさそうに、を見る。
「…殿、どうか、食してくだされ…」
「……帰りたい…」
「そ、それは、出来ぬ…」
「……」

は唇をかみ締めて下を向いた。

「…松永様に、私を人質にとったとか…文出したって、無駄なんだから…」
「…それを知ってて、なんであんな奴のところにいるわけ?」
「私には…松永様しかいない…」
「洗脳…かねえ?」

佐助の言葉に、は勢いよく顔を上げた。

「失礼な…!!!」
「あんたの意思だってのかい?俺様はあいつ苦手だよ。人の心の中、簡単に覗いてさ。あんたの思考回路いじるくらいなんて事無いさ…。」
「…私の思考回路を弄ってまで側に置いてくださるなんて、なんて光栄な事!!」
「…あーらら、こりゃ、だめだ。随分とイカれてる。」

目を細めた佐助に、幸村は手を添えて制止した。

「佐助、あまり女子にそのように言ってはならぬ…」
「…何さ、旦那。この子の気持ちが判るって?」
「…そ、それは…」

佐助はに近づき、顔を覗きこんだ。
幸村に見せたことの無い、冷ややかな視線を向ける。

「…あんたが何で今生きていられる?大将が情けをかけたからだ。俺は今すぐ殺してやってもいいんだけどさあ…女の子には優しくしろって奴が多すぎるんだよ、ここ。」
「そんなに私を憎んでいるの?たくさん想ってくれて嬉しいわ。」
「強気だねエ…気に入らない。」

は佐助の頬に手を伸ばした。
佐助は一瞬身構えたが、から敵意が全く感じられないので、そのまま触れるのを許した。

「…安心してよ。私、頑張って頑張って、松永様のところに戻ろうとするわ。」
「あんた何言ってるか俺様は判んないんだよいつも…」
「それでも、どうしてもダメだったら…舌咬んで死ぬわ。」
「……。」

佐助は口を真一文字に結んだ。

「あなたがそんなに一所懸命私を恨まなくても…直接手を下さなくても…いなくなるから…」
「…あっそう。」

この女が嫌いなのは、松永と同じ匂いがするからだ。
松永と同じように、自分の心を見透かすからだ。

…そして、こいつには俺と同じだからだ。
1つの光から離れられない人間だからだ。
ただの、同属嫌悪だ。

「幸村様!!!佐助様!!!」
「どうした!?」

突如、家臣の叫び声が聞こえた。
幸村と佐助がすぐに庭に出ると、家臣が走って来てすぐに頭を下げた。

「大変です!!我が軍、現在松永軍の奇襲を受けています!!」
「な…」
「…え?」

佐助は咄嗟にの顔を見た。
聞こえただろうに、喜ぶ訳でもなく、目を丸くしてきょとんとしていた。
そして、みるみる青ざめていった。

「〜〜〜〜!!!」
「お、おい!?」
部屋を飛び出したかと思うと、逃げるわけでもなく、隣の部屋に移動し、物置や棚を荒らし始めた。

殿…!?」
「お、おい!!あの子を抑えて!!俺と旦那はそこに向かう!!」
「はい!!」

家臣がの腕を掴むが、は何度も振り払おうとした。
「大人しくしろ!!」
「どこ…どこなの…!!!!」
は目に涙を溜めながら、何度もそう叫ぶ。

「真田昌幸の刀…!!わ、私が、奪ってる頃だろうと…松永様…きっと…」
「はあ!?」
その言葉を聞いて、佐助は呆れた。
助けに来てくれたと思えばいいだろうに。

「……」
「佐助、某は先に向かう!!」
「…ああ」
佐助は一瞬にして押さえつけられたの側に移動した。

「あんたは、人質だ。」
「…!!」
「その必要はないな。」

佐助は背後から聞こえたその声に血の気が引いた。

「…、大丈夫かね?いや、忘れてしまってすまなかったね。」
「ま…松永様…」

静かに、庭に佇んでいた。

「…なんで…」
いくら気付くのが遅かったとは言っても、ここまで攻め込まれるはずが無い。
たった一人で、ここまで来たとしか考えられない。

「陽動作戦、とやらかね。まあ、どうでもいい。、帰ろうか。」
「まつながさま…わ、わ、私…まだ…お役に立ててません…」
「役?」

の声は震えていた。

「申し訳ございません…!!」
、私は、新たな侍女を迎えてみたのだがね」
「っ…!!」

穏やかな声で、残酷な事を言う。

助けようともせず、この男はの代わりをすぐに見つけようとしたのだ。

「すぐに挫折していったよ。、今から再び誰かを教育しなおすなど、面倒で仕方が無い。」
「松永…さま…」
「戻りなさい。」

佐助は、あーあ、と呟いた。

「私の元に、戻りなさい。」
「…はい…!!」

助けに行くことと、誰かを教育すること、
どちらのほうがめんどくさいか、それだけの判断でこの男はここに来た。

けどには、それは立派な理由だ。

「まつながさまあああ〜!!!」
は聞いてて呆れてくるような情けない声を発したと同時に、佐助の目の前に小太郎が現れ、を奪っていった。
「風魔殿…!!」
「………。」
そしてそのまま、三人は風魔の作り出す煙幕に紛れ、去っていった。

「…佐助様、宜しいので?」
「…もーいー…めんどくさい、あの人たち。」
「佐助!!」
「…ん?」

たたた、と、幸村が佐助の元に走ってきた。
向こうも何かあったのだろう。

「早々に兵が引き上げて行った!!佐助、殿は…」
「あ〜…松永サンがやってきてねえ…連れてっちゃった…」
「そうでござったのか?」
佐助を咎めず、幸村はそれを聞いて笑った。

「…なんで笑うの?」
殿は戦に関係なかろう…。決着をつけるべきは我々と松永久秀…。少々、こうなって安心しておる。」
幸村らしい、と思える答えだ。

「松永殿の、人間らしいところがあることにも安心した。」
「いやいやいや、そーでもない。そーでもなかった…」
ぱたぱたと手を振る佐助に首を傾げたが、幸村は笑顔のままだ。

「佐助」
「何…」
「佐助が捕虜になったときは、俺、松永殿のように助けに行きたい。」
「は…」
佐助は驚いて、幸村の腕を掴んでしまった。
「だ、だめだめ!!俺は大丈夫だから!!あんたはそんなことしちゃだめなんだ!!」
忍を助けに幸村が出陣するなど、あってはならない。

「…そういうと、思ったからこそ…それが正解だと思うからこそ…」
「旦那…」
「時折、松永殿のあの自由さが、羨ましくもある…」

佐助は、顔が赤くなりそうになるのを必死に押さえる。
あくまで冷静を装うとしているが、幸村がクスリと笑うので、僅かに顔に感情が出てしまっているのだろう。

嬉しい、と。

「…だ、旦那…」
「ん?」
「明日、団子でも、食いにいこっか…」
「うむ!!」

話を逸らすのでいっぱいいっぱいだなんて、忍失格だ、と反省した。










「松永様!!松永様!!会いたかった!!松永様ああああ!!!!」

「うっさい」
「さっさと死ねばよかったんだ」
「さっさと舌を咬めばよかったんだ」
「お前らがうっさい!!!!!!」

いつも通り、言い争いをする三好三人衆とに向かって、松永は笑った。

「昨日は寂しそうにしていたのにな、変わり身が早いことだ。いやなに、褒め言葉だ。」
「は…?」
「松永様…」
「そんなことはございません…」
「新しい侍女のほうが可愛かったと…」
「ひ、ひどいいいいい!!!!!」

三人衆は悔しそうにを見上げた。
今日は松永の後ろで、一緒に馬に乗っていた。
これでもかとばかりにくっついている。

、帰ったら風呂に入れてあげよう。」
「い、入れて、あげよう?」

は先の言葉が想像できすぎて、心拍数が増した。

「私が洗ってあげよう。」
ひいいいいいいいいいいいいい!!!!!!松永様!!私死んじゃいますうううううううう!!!!!!!
「ではやめておこう。風魔、お前が洗ってあげなさい。お前もがいなくて寂しかったろう。」
「!!!!」
松永さま変わり身はやいいいいいい!!!!!!!

の反応に笑って楽しそうにしている松永を見て、三人衆は感じた。

…一番寂しかったの、松永様じゃないですか…。








ちなみに戻った後、女湯の前でうろうろする風魔の姿が三人衆に目撃された。

「……。」

命令されたので、を洗ってあげるべきなのかどうか悩んでいた。

「「「………。」」」

それを見ていた三人衆は、風魔がの風呂を覗きたがってると勝手な噂を流し、しばらく松永軍の中は思春期の少年のような話題でもちきりになった。












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今回は武田と絡ませてしまいました。
あれ、キャラに嫌われるってのも、なんかいいですねえって思ったよドM発言。