例えば

潮風に吹かれて揺れる髪が綺麗だとか

地平線を見る瞳が綺麗だとか

貝殻を拾う指が綺麗だとか


そんな理由で


こいつは、俺の次に、海の似合う奴だと思っちまうんだ。








小船を湖に浮べて、と元親は釣りをしていた。

「…釣れませんアニキ」
「あぁ?まだ大して時間経ってねぇぞ?」


突然が釣りをしたいと言い出したが、船を出す予定もなかったし波も荒れていたから、山奥の湖に元親お手製の小船でのんびり淡水魚を釣ろうとしていた。


「待つんだよ」
「おお…」

餌のつけかたを教えてあげてしばらく経つが、の竿にあたりは来ない。

「よっと」

俺はばんばん釣れるんだがな。

「…む」


が悔しそうに、俺が魚を取る姿を見ていた。


そんなに頭をぽんと手を乗せて、わしわし撫でた。

「釣れっから、がんばれ」
「う、うん、がんばる…」

が湖に目線を移す。

俺はじっと、の横顔を見ていた。


釣れたら、笑顔に変わるだろう。

…釣れると、いいな。


「元親、釣れるコツとかない?」
「コツ?そうだなあ…とりあえずお前、力みすぎだろ」
「む?だ、だって、初めてなんだよ…釣り…」
「もう少し力抜けよー?」
「そ、そうか…」

が強張っていた肩の力を抜いた。

「……」

力は抜けても、じっと見つめる俺の視線には気付かない。

「あ、元親、引いてるよ?」
「ん?あぁ」

釣り上げようとしてふと考えた。

「ほらよ」
「え」

の手から竿を取って、代わりに自分の竿を握らせた。


「え…」
「引け」
「そ…そんな…初めての釣り…自分で釣りたい…」
「いいから早くしろ。逃げるだろ」


微妙な顔をして、が慎重に引いた。

「わっ…」

小さくて可愛らしい魚が釣れた。


「は、針…」
「こうやってな…」

取って、の両手に魚を置いた。

「魚…」

さっきまで変な顔してたのに、いざ魚と対面すりゃあ喜んでやがる…

ゆっくりと水を張った桶にいれ、しばらくはじっと魚を見つめた。

「…可愛いね」
「やめろよ。それ今日の食料だからな」
「…うん」

そこらへんは判ってるらしい。


がまた釣糸を垂らした。

「あ」

今度はすぐに釣れた。

「良かったじゃねぇか」
「うん!!」

釣り上げるのにためらいがあったのか


「我が生きる糧となれ!!」
「やめろその元就みてぇな言い方!!」
「あははは!!」

がやたらとはしゃぎだした。

「……」


仕方ねぇな〜…


「ん?」

ゆら

「ちょっ…」

ゆらゆらゆら

「元親!?」


舟を思い切り揺らして

「ぎゃっ…!!」


ばしゃああん!!!



ひっくり返した。



水の中で思い切り慌てているを捕まえて、水面に上がった。


「ぶはっ…!!はぁっはぁっ…!!何してんの元親っ…!!げほっ…」

「はははっ!!悪い悪い!!」


顔に張り付いた髪を指でどけてあげた。


怖かったのだろう、元親にしがみついて離れない。


「さ、魚、逃げちゃったし…!!」
「んだよ、食いたくなかったくせに」
「う…」
「愛着湧いてんじゃねぇよ」
「な、だったら、こんなことしないで、逃がそうって言ってくれれば良いじゃん…!!」
「馬鹿。海の男がんなこと言えるか」
「う…」
「お前な―…船の上で生きていけねぇぞ?」
「り、陸で生きます」
「何だと!?」



でも


濡れる髪が


顎から滴る雫が綺麗で


「水、似合うのにな」
「は…?みず…?」
「ああ」


ゆっくり泳いで、陸に上がった。

「びちょびちょだよ…」
「色っぽいねえ」
「…上着貸してくださいよ」

判ったよ、と言いながら、岸に置いておいた羽織りを後ろから掛けてやった。

の呼吸はまだ乱れてて


「はい?」
「…泳げねえのか?」
「………」

図星か。

「…陸で、生きます」
「おいおい…」


なんでこう

どんどん海から離れるんだよ


でも、


どうやら俺はこいつには甘くて



「はい?」

「海は好きか」
「好きだよ」


「…そうか」

にっと、に笑いかけた。



それだけでいいやって



こいつを隣に置きたい理由は



海を好きで居てくれるから



海が似合うから



、今度は海に、釣りに出ようぜ」
「…もう転覆は嫌です」

「泳げるようになるかもしれねえぜ?」
「…嫌です。とっても嫌です。」

「…海に立つ、お前が見たい」
「…立つ?私、忍じゃないんですけど…?」


お前がいると


空の青さがより綺麗に見えたり


水面の反射一つ一つが一層綺麗に見えたり



「お前は海が似合う」

俺の次にな

「へ?そ、それは?」


「お前が居る海、俺は好きだ」


はよく意味がわからないといったように首を傾げた。

そんなに、笑いがこみ上げて


「ぶあはは!!まあいい!!帰るぞ!!」
「は、はあ…?」


二人びしょ濡れのまま、手をつないで帰路についた。



特別な理由なんか、全然無いけれど



お前が傍に居ると、綺麗なもんばかりが見える。



そんな空間が好きだから



こんな時間が、ずっと続けば良いなどと、女々しいことを考えた。


「元親ー」
「あ?」

「元親のほうが、海似合う。元親が居たほうが、海、喜ぶと思うよー」
「当たり前じゃねえか」
「…おーい?もっと謙遜しなされー?」


だから


その俺が、お前を認めてんだから


俺とお前が一緒に海に居りゃ、最高だろうが。




気付けよ、馬鹿



気付いて、傍に居ろよ















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アニキ視点での夢だったら何でも、とのお言葉を頂きましたので
意味不明なものに(あんまりだ!!)

リク、ありがとうございましたっっ!!
ここここんな文で申し訳ないです…!!
でも元親は大好きです…!!愛だけはあります…!!