「小十郎?どこ行った?」
は何故だか店では無くの住み込み部屋でくつろぐ梵天丸に聞いてみた。
「小十郎は厠に行ってしまったぞ」
「ふーん。じゃあ梵と二人きりだ!!」
は寝転ぶ梵天丸にぎゅううと抱き付いた。
「〜!!俺は今本を読んでいるのだぞ?」
梵天丸はそう言いながらも本を置いてにじゃれついた。
「あはは!!梵可愛いなぁ!!」
「、今日は仕事は?」
「今店番代わったんだ〜。今はちょっと休憩!!」
「刀は打たぬのか?」
「はは…今材料ギリギリで…練習する余裕無くてさ…」
「も大変なのだな…!!」
「梵のほうが大変だ。こんなに本読んでさ。何これ?」
は梵の置いた本を手に取り、寝そべりながらパラパラめくった。
「これは楽しいぞ!!歌の書き方が載っているのだ!!」
「うた〜?私には縁がないなぁ〜…」
「ならば俺が歌を覚えたら、に歌を作る!!」
「…え」
はびっくりしたが、嬉しさは隠せなかった。
「素敵…!!ありがとう梵…!!楽しみだよ…!!」
「俺はが刀をたくさんつくれる日を楽しみにしている!!」
「……頑張りマッス…若…」
厠から戻った小十郎は微妙な顔をして立っていた。
「…梵天丸様、大丈夫ですか?圧死しないで下さいね」
「大丈夫だ。むしろ温いし嬉しいぞ」
は梵天丸を抱っこしたまま眠ってしまった。
「…幸せそうに寝やがって…」
「小十郎、俺も眠くなってしまった…」
「梵天丸様…仕方ない…では時間がきたら起こしますので」
「うむ…」
ゆっくり数度瞬きをした後、
梵天丸は自分の頬を頬に擦り寄せて、目を閉じた。
「…全く。梵天丸様を抱き締めたまま勝手に寝るとは…」
小十郎は呆れながらも
「……」
羨ましいと思っていた。
小十郎は周囲を見回した後、そっと寝転んで
「……」
手を
…どこに回せば良いんだ!?
二人とも小さいし細いから、腕を伸ばせばの背に届くが…
「…今だけならいいか」
そっと腕を回して
二人を包んで
「…」
とても暖かい。
「兄さん、兄さん」
「……は!!」
小十郎は飛び起きて辺りを見回した。
いつの間にか眠っていた。
小十郎を呼んだのは、ここで修行している若い男だ。
「い、今、何時だ…!?」
「…空は真っ赤さね」
「しまった…!!」
小十郎はすぐに隣りでまだ寝ていると梵天丸を揺すった。
「忙しい奴等だよなぁあんたら」
それだけ言って、男は行ってしまった。
視線を戻すと、がばっちり目を開けていた。
「よー小十郎。厠長いからうっかり寝てたよ」
「長くない!!起きてたのか」
「小十郎の愛の手で起きた。背中局所的に暑かったから。」
「あああ愛じゃねぇクソ…!!」
「はは!!うろたえる小十郎は可愛いよな―!!ま、梵の方が圧倒的に可愛いけど」
「…当然だろうが」
まだ寝ている梵天丸の頭をゆっくり撫でた。
は梵天丸を愛しそうに見つめていた。
「〜!!!」
「わっ!!どうした!?」
小十郎が驚いたのは、がいきなりぎゅううと抱き締めたからだった。
「やっぱ梵も…戦したりするんだよなぁ…!!」
「何を言うか…国の為だ。お前の為でもあるんだぞ!?」
「そうだけど…そうだけど…!!」
「お前は何の為に刀を打つ!?」
「…そっ…それは、刀、好きだから…」
「それだけか!?」
「父さんの後継ぎたいから…」
「だからか!?」
小十郎に凄まれ、は息を呑んで
「…こんな世だからだよ!!この国に強くあって欲しいんだよ!!だから…だから立派な武器…」
「だいじょうぶだぞ、…」
の腕の中で梵天丸がもぞもぞと身動ぎした。
「…あ、あんなに叫んだんだし起きて当然か」
はごめんね、と梵天丸に謝った。
「この国には父上がいるのだ!!それに俺は戦を恐れてなどおらぬぞ?」
「梵…」
「も幸せにするぞ!!」
がぶあああと一気に目に涙を溜め
「今日は帰さないわ!!」
また梵天丸を抱きしめた。
「いや帰るぞ。絶対帰るからな。というか、変な言葉を教えるんじゃねえ」
「帰さないとは、お泊りしてって欲しいということか?」
「そうだよ…!!恋人なんかが夜「教えるなといってるだろうがああああ!!!!!!」
小十郎がから梵天丸を奪い返し、帰る準備を始めてしまった。
「…小十郎、怒った?」
「怒った」
「…小十郎〜…」
が小十郎に擦り寄って
「…じゃ、じゃあさ、誰が教えるの?梵にそういう教育」
「……………………」
「小十郎、傅役なんだろ?」
「………………………そのうち判るんじゃないかな」
「投げやりかい」
は仕方ないなあとため息をついて
「なら私が」
「却下。お前口だけでそんなに知識なさそうだ」
「…じゃあ小十郎が私がどんなもんか確認してそれで決めればいいだろうが!!」
もなんだか投げやりになってきて発してしまった言葉だったが
「…ほう?」
「……な、なんだよ。却下って言わないのかよ」
小十郎がにやりと笑って、を見据えた。
「ここここ小十郎…?」
は本を片付けている梵天丸の背後に隠れた。
「どうしたのだ、?」
「…俺の家、教えてやろうか?」
「な、な、な…」
は混乱した。
の知る下ネタは、店の男共が言っていたものの受け売りだ。
正直経験などない。
こっちは刀一筋で生きてきたんだ!!無理です!!…と叫べたらどんなにいいでしょうか。
そしたらより小十郎が有利になる気がして出来なかった。
「それは良いではないか!!!!小十郎の家に遊びに来ると良いぞ!!」
「梵様ァ〜…」
純真すぎる梵が今は眩しくて直視できません…。
それは小十郎も同じだったようで
「…ま、まあ、、遊びにくるだけ…うん、何もしない」
小十郎もへの攻撃をやめてしまった。
「さあ、梵天丸様、帰りましょう。随分と遅れてしまいました」
「うむ!!」
草履を履いて、二人が外に出た。
「…今度、案内する。それか忍に地図を届けさせるか?」
「…あ、ああ、地図でいいよ。忙しいだろう?小十郎も…」
ぎこちない別れ方をした。
帰路、小十郎はとのやり取りを思い出し、今度謝ろうと考えていると
「小十郎」
「なんでしょうか?」
梵天丸に名を呼ばれ
「家に呼んでおいて何もしないでどうする」
その一言が
「…へ」
「を、お、おとす?絶好の機会ではないか!!」
ぶー!!と小十郎は吹いてしまった。
「な、なに、梵天丸様…」
「喜多が言っていた!!小十郎はもう少し素直でいい子になれば、女子をたくさん、おとせるのにって!!」
姉上えええええええええええええ!!!!!!!
「おとすとは何かと聞くと、夜の相手をするとか言っていたぞ」
姉上ぶっ飛びすぎだああああああああああ!!!
「小十郎も、に夜の相手して欲しいな?」
「いいいいいいいいいいいいえいいいえいいえ!!!!!」
「そうなのか?ところで小十郎、夜の相手とは何だ?」
「………………」
再びの梵天丸の純真な瞳に
小十郎はひどくに会いたくなりました。
「…たすけて…」
一番の敵は喜多姉さんでした。