!!あそこに入るぞ!!」
「はい!!」

小十郎の羽織を傘代わりに二人で共用し、寂れた小屋に向かって走っていた。

足元が跳ねる泥で汚れるのを気にする余裕はなかった。

立て付けの悪い扉を無理矢理開けて、小十郎は小屋に足を踏み入れた。

「びしょびしょだな…。、大丈夫か?」
「あはは…びしょびしょです…ちょっと寒い…」

苦笑いするにため息を吐き、小十郎は囲炉裏に近付いた。

「火種になるようなもんはねぇか?」
「小十郎さん!!マッチ発見したよ!!」
「湿気てないか?」
「うーん…全滅はしてないよ多分…」

から部屋に落ちてたマッチを受け取って、擦ってみる。
シュボっと音を立て、炎が揺らめく。

「使えるな。旅人でも忘れていったんだろう。」
「よかった…薪も多少置いてあるし…完全に廃墟なわけじゃないんだね…」
「そこそこしっかりした小屋だ。一時の宿にする奴はいるだろう。、薪を運ぶぞ。」
「はい!!」
「説教はその後だ。」
「ウ!?」








小十郎は外交のため城を留守にしていた。
もうすぐ戻れる、というところで差し掛かった道が崖崩れで塞がれ、馬では通れないという目に遭ってしまった。
しかし迂回しては山を越えねばならず、危険とは知りながらも足で岩場を越えて来た。

そしてしばらく歩いていると、前方から嬉しそうに自分に手を振りながら走ってくる女がいたのだ。

驚いてしまいどうしたらいいか判らずとりあえず一緒に歩いていると、急に雨が降って来てこのザマだ。

予定よりは遅れるが迂回するよりは徒歩で進むほうが早いため、政宗達にかける心配も少なくて済むだろうと考えたのだが、目の前で申し訳なさそうに俯く女はそれすら耐えられなかったようだ。

「…小十郎さんが…遅いから…心配で…」
「だからって小太郎も連れずにくるなんて危険だろう!」
「成実さんに道教えてもらったから…」
「成実様…」

成実も何も考えなしにに道を教えたわけではないとは思う。
しかし、だから安全だなと考えられるほど、小十郎は万人を信頼することなど出来なかった。

「小十郎さん…私…無事だったし…眉間の皺取ってくれると…」
「何事もなかったのは安心した。しかし今後このようなことしないように怒っているんだ。」
「………………嬉しいです…」
「…全く…」

フッと笑い、小十郎はの腕を掴んで引き寄せた。

「火にあたってくれ。風邪ひかれては困る。」
「はい…」
「服、脱ぐか?」
「っ!!」

小十郎は他意があったわけでは無いが、は赤面してしまった。

「ぬ…濡れてるだろ…?だから…俺は気にしないし…」
「あ、わ、分かってますけど…うん…体に貼り付くし…」
「替えの服濡れてねぇのあるんだが…一度着て洗ってねぇ。それでもいいな?」
「ありがとうございます…!!」

小十郎が背を向けると、は服を脱ぎだした。

「……。」

普段、妹のような、娘のような、守る対象としてを見ている。
だから大丈夫だと考えていたのに、聞こえてくる衣が擦りあう音に過剰に反応しそうになる。

(どうにかしちまったのか俺は…)

何より政宗が大事にしている人間。
自分が勝手に欲情して勝手に手を出すなどあってはならない。

「小十郎さん、着替え終わりました。ありがとうございます。」
「そんなに礼を言わなくていいぞ…っと…」

喋りながら振り向くと、自分の着物をだぼだぼに着ているがちょこんと座っている。
可愛らしくていつもの自分ならふっと笑って、子供のようだな、と話しかけていたのかもしれない。

しかし今はどうだ。

濡れたままの髪や、火の明りにくっきりと影を残す鎖骨が艶めいて見えて仕方が無い。

「…大きさがあわないのは仕方ないな。次は俺が着替えるからそっち向いていてくれるか?」
「あ、はい。」

急いで背を向けるを見て、少々言い方がそっけなかっただろうか?と不安になった。
しかし、自分のを見る目線が無意識にうなじや首筋、腰の部分にいくのに自身で驚いてしまい、なにも話しかけずに着替えだしてしまった。

「…もういいぞ、。」
「…はい。」

着替えた着物を囲炉裏の周囲に干して、並んで座った。

「……。」
「………。」

と一緒にいて、気まずい思いをしたことなど今まで無かったと思う。
いつもに癒されていて、むしろ一緒にいたい、と思う側だった。

(そういう目で見た罪悪感か…?クソ…どれだけ欲求不満なんだ…)

昨晩、抜いて来れば良かったと小十郎は後悔した。
しかし疲労でそんな余裕はなかったんだなどと頭の中で言い訳を考える。

「…こじゅうろうさん…まだ怒ってる?」
「!!っあ、いや…」

が小十郎の顔を覗きこんだ。

「これからは、小太郎ちゃんと一緒にお出かけします。」
「わ、わかってくれればいいんだ。すまねえ、少し疲れててな…」
「じゃあ、寝てください。私火の番してます。」
「そういうわけにもいかねえだろう…」

女性にそんなことをさせ、自分は眠るなど小十郎のプライドが許さない。

「でも火を消したら寒いでしょう…。小十郎さんが一眠りしたら交換。ね?」
「まて、途中で起きれる自信がねえぞ…」
爆睡してしまえば朝まで寝てしまいそうだ。
そうすれば真面目なはずっと眠らずに火の番をしているだろう。

「じゃあどうします?」
「………。」

いつもの自分なら、一緒に寝よう、だ。
そのままの意味で。

「一緒に寝るか…?」
「はい!!」

隣で眠れば、人肌の温かさがある。
しかし今夜はそれだけでなく

「…お前に手を出すかもしれねえぞ…」

そう言葉を追加して、に警告を鳴らす。

「え…?」

驚くから視線を外さず見つめ合う。

と自分の関係が壊れるかもしれない。
けれど、は優しいから、俺が怖くなっても表面上は何も変わらず接してくるだろう。

に甘えすぎている自分の思考に、舌打ちをしたくなった。
だから次に発せられたの言葉に、小十郎は目を見開いてしまった。

「…構いませんよ」
「…っ!!」

本当に判っているのだろうかと疑問になる。

今の自分は、すぐにでも押し倒して服を剥ぎ取って、しつこいくらいにの体を堪能したいと思っているのだ。
そんな如何わしい自分の思考を、が汲み取って返事をしたとは到底考えられない。

「それで、小十郎さんが機嫌なおして下さるなら。」
「……」

健気だな、と思う。
自分がまだ怒っていると考えてるのだろう。

そうではない。

好きなのだ。

どうしようもなく好きで、泣き喚くまで愛してしまいたい。

「…小十郎さん…?」
「違うんだ、…」
「ん?」
「もう俺は怒ってねえんだ…俺はただ…」

なぜ自分は素直に言おうとしているんだろう。
したいなら、怒っていると偽って、罰だと言って抱いてしまえばは誰にも口外しないし小十郎のことを責める事はないのに。

興味があるのかもしれない。
こういったら、はどんな態度をとるのか。

「…に欲情してる。抱きてえと思ってるだけだ…。」

が驚いて目を丸くし、顔が赤くなる。
しかし小十郎から視線を外す事は無かった。

「……」

の初心さに影響され、小十郎の顔まで赤くなってきた。

ゆっくり手を伸ばし、の肩に触れた。

そしてゆっくり顔を近づけていくと

まだ早いわああああああああ!!!!!!!!!!!!
ォんぎゃああああああああああああ!!!!!!!!!!

が勢いよく足を伸ばした。
座ったまま蹴ろうとしたのだろうが、それは丁度あぐらをかいていた小十郎の股間にヒットした。

「う、おおっ!!ちょ、…!?」

あまりの痛みに小十郎は前かがみになってそこを抑える。

「だ、ダメです!!まだ手も繋いでないしデートしてないし綺麗な夜景見てないし…!!」
「なにその基準!?段階を踏んでからってことの例えか!?」
「お互いの家に行ってないし親に挨拶してないし一緒にアイス食べてないし!!」
「どういうこと!?ってめんどくさい女!?」
「と、とにかく〜!!!!あ、あの、あのっ…」

大丈夫かと心配になるくらい、の顔が真っ赤だ。

「疲れてるんだから…やすまないと!!」
「お…おいおい…」

怒っていないと知るとすぐに態度が変わった。
完全に照れている。

(…可愛いなあ…ちくしょう…)
「と、とにかくあの…」
「………。」

蹴られた痛みで、頭がはっきりしてきた。

「……。」
「ああ!!」

が驚いたのは、小十郎が火に灰をかけて鎮火してしまったからだった。

「え、ええ、あの…」
「…寝るか。」

がばりとに抱きつくと、小十郎の胸に向かって奇声が発せられた。

「わたしに小十郎さんはレベル高すぎるー!!!!!!」
「じゃあなんだ?小太郎で練習してから俺に抱かれたいのか?」
「そ、そ、そ、そうじゃないもん!!!」

じたばたと暴れるに笑いかけ、冗談だ、と囁いた。

「おやすみ、。」
「あ、あああお、おやすみなさい…」

そういって、しばらくすると大人しくなって、は目を閉じてしまった。

(素直すぎるな…)

真っ暗になった小屋を見渡した。

(きっと、二人きりだからだな…)

城とは違って、俺とだけの空間。

(が、俺だけのもんになった気がしたから、だから思考がおかしくなったんだろう…)

本当は、が俺を迎えに来てくれて、戸惑いながらも嬉しかった。

(だから…)

今日の自分の心境の変化を分析しながら、小十郎は眠りに落ちた。

胸の中で、が、なぜ小十郎を蹴るまでの間、自分は本気で小十郎に抱かれたいと思ったのだろうかと疑問に思ってるなど予想もせずに。

(き、きっと、小十郎さんに久々に会ったから…濡れてる髪が色っぽかったから…)




そして





「…何?この香炉が効かなかったのか?」

部下にそのような報告を受け、松永が驚いていることなどもちろん考えつかなかった。

「小屋に匂いを充満させたのにか?湿気のせいだろうか…?」

せっかく高い媚薬だったのに…と、松永はため息をついた。

















■■■■■■■■
小十郎が893にならずすいませ…!!
そして松永様オチ…い、いちおう甘ギャグ…?

元さま、リクありがとうございました!!こんなものになってしまいすいません!!
す、すごく嬉しいメッセージを頂いてしまい…創作意欲が湧いてきます!!
本当にありがとうございました!!